「逃げ惑う少女」
「うああああああああ…走りづらい…」
これが女の子の身体か。…いや性的な意味じゃなくて。男と比べて筋力が少ないってのは本当だったんだな。しかも無駄に胸でかいからもうしんどいし…。
「ぜぇ…はぁ…男の身体も結構辛かったけどさ…。うっ…立ちくらみかな…休も…」
って、流石に駄目だろう!!!
「もうやだぁ…入学式当日にこんな目に合ったの全世界に俺しか居ないだろ…」
遅刻寸前である事を思い出し、もう一度全速力で街を駆ける。もう限界だ。
「くそっ…KOの連中はいいよな…入学式が俺らより遅くて」
某有名大学を(羨みながら)通り過ぎ、角を曲がった。
「…痛っ!!!」
自転車にぶつかった。くそが。こんな急いでる時にまで…。どんだけついてないんだよ今日の俺。
「あわわ…ぶ、ぶつかってしまった…どどど、どうしよう…」
オタク特有の早口、俺の入学する学校の制服…。も、もしかして…。
「…先輩?」
「…、…。」
会話にならない。元々俺もコミュ力高い方ではないが、ここまで酷くないぞ、先輩よ。
「ど、どう償えば…」
償いとか、しなくてもいいのに…。
「…あっ、そうだ」
先輩の身体が強ばった。い、いけるかな…通るかな、この注文…。
「…自転車の後ろ、乗せてくださいよ」
快く承諾してくれた。やはりオタクには素はいい人タイプの人間が揃っている。
「間に合ったぁ…先輩、ありがとうございま…す…」
振り返ると、そこにはもう先輩の姿は、影も形もなかった。
「足はや…」
そう呟いた直後、周囲の目が気になった。
「あの子かわいい…」
「お前知ってる?」「さぁ。見たことない子だぞ?」
…悪寒が全身を駆け巡った。俺の感覚が伝えている。「逃げろ」と。
「待って!是非写真部のモデルに!」
「貴方が居れば私達の演劇サークルは更に良くなるわ!だからお願い!」
「俺の彼女になれ!」
「ふざけんな!俺の女だぞ!」
「まだ決まってねーだろうが!落ち着けお前ら!」
…うるさい。
やはり女の子の身体では速く走れない。でも全力で逃げるしかない。特に、俺を彼女に仕立てあげようとしている連中等には。
「…ん?」
進行方向にオタサーの看板を見つけた。
「…!」
ここで天からこの状況を打破する案が降り注いできた。とりあえずオタクにはあの言葉を投げかければなんとかなるって誰かが言ってた!
「くそっ!頼むぞ…」
勢いよくドアを開け、あの言葉を叫ぶ。
「助けてッ!お兄ちゃん!」
中に入っていたオタクには到底見えない男子がドアを塞ぐ。間一髪だ。
「…大丈夫かい?我が妹よ…」
…こいつ普通にイケメンじゃねーか。なんでここにいるんだよ。男なのに惚れちまっただろ。