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現実逃避

作者: 七乃ハフト

「待てこら! 逃げるな!」


 私は今追いかけられている。


 追跡者はスーツを着た二人組でどちらも強面だ。


 何でこんなことになった。


 炎天下の中、外回りから帰ってきたら、待っていたのは強面二人組。


 私は身の危険を感じてすぐさま逃げた。


 何故同僚は助けてくれなかったんだ。


 私は娘を殺された父親なんだぞ。


 事件当初はみんな同情してくれたんだ。


 それなのに逃げる寸前の彼らの目。


 まるで家でゴキブリを見つけたようなあの目。


 そんな目で私を見るな。


 強い日差しを浴びながら繁華街を走り抜ける。


 ランチタイムなのが幸いして、人混みを掻き分けながら逃げ続けた。


 あの強面達は人混みに阻まれて距離は離れているが、まだ油断はできない。


 逃げる時に持ってきてしまったカバンを放り投げる。


 遠くからサイレンの音、突き飛ばした人間が怪我でもしたのだろうか。


 広くなった額から汗が噴き出すのを感じながら、後ろを振り返ると、強面達と目があった。


 まだ追いかけてくる、


 私は何も悪くない。


 悪いのは(アイツ)だ。


 アイツが私に悪口ばかり、顔を合わせるたびに悪口ばかり言うからだ。


 臭うだの眼鏡がダサいだのハゲてるだの、好き放題言いやがって。


 小さい頃はパパ、パパって目に入れても痛くないほど可愛かったのに。


 だから私は突き飛ばしたんだ。


 アイツはバランスを崩し、信じられないような顔をしたまま、テーブルの角に後頭部をぶつけた。


 それで終わり。


 犯行直後、私が犯人だとはバレなかった。


 だから私は悲劇の父親としてみんなから心配されていた。


 多かった仕事も後輩が受け持ってくれるようになった。


 なのに、あの強面達のせいでこの生活も終わりだ。


 いや、アイツをちゃんと育てなかった妻が悪い。


 いや、私に反抗したアイツが悪いんだ。


 息が切れて足が止まる。


 左右からは赤色灯を光らせた車が迫ってくる。


 背後からは罵声を浴びせながら近づいてくる強面達。


 前には踏切があった。


 カンカンカンカンと警告音が鳴り出した。


 もう逃げ切れないのか。


「パパ。パパ。こっち、こっちだよ」


 踏切の中からこちらに手招きする少女。


 私を一番慕っていた時期のアイツだった。


 私は最後の力を振り絞って踏切の中に飛び込む。


 直後、電車が私の眼前に迫る。


 これが本当の現実逃避だ。

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