二十二話 バラクエルのパーフェクト魔法教室①
環境の変化って結構大変っすね
コロナも終息の気配を見せ、わたくしも学校が再開したりとまぁそれなりにドタバタしていました。
……ええと、まぁ、そんなワケで。
更新遅れてすみませんでしたぁ!!
アディアとアリアが魔族に転生してから、早くも一か月が経過している。だが、バラクエルたち三人は未だに森から移動していなかった。
では、この一か月間何をしていたのかと言えば、それは――。
「それでは、これより今日の授業を始める! 号令!」
「「よろしくお願いします! まお……先生!」」
「よし、いい号令だったぞお前ら。わたしの呼び名を間違えそうになったこと以外は満点だ。……というか、もう一か月も経っているのになんで間違えるんだよ……」
「「まお……先生への忠誠心の表れです!」」
「あ、うん。分かった。そう言うことにしとくわ。じゃあ、今日は昨日の続きな。教本の六百三十三ページを……」
――――『勉強』である。
木の枝に掛けられた黒板とその前に置かれた教卓。そこに立つのは黒縁眼鏡を装着した魔王様。いつも着ているローブは裾の長い白衣に変わり、右手には教鞭が握られている。
アディアとアリアは木製の机と椅子に着き、その上に置かれた分厚い……『本? 鈍器の間違いだろ?』というくらいに分厚い教本をせっせとめくっている。
森の中にはまったく似付かわしくない即席の教室。なお、黒板に教卓、双子用の机と椅子。後、バラクエルの『教師なりきりセット』も全てアディアの『創造』によって造り出したモノだ。情報源は言わずもがなアリアの『神智』である。神の如き力の無駄遣い感が酷い。
何故、魔王が先生になって勉強をしているのか。それは偏に、双子の持つ知識がバラクエルの予想以上に少なかったからだ。
人界の文字の読み書きや簡単な算術の知識。魔力適用法やサバイバル技術、格闘術と言った戦闘や生存関連の知識。後は何故か貴族形式の礼儀作法など「なんでお前らそんなもの知っているんだ……」と魔王を呆れさせた知識など。アディアとアリアの知識は非常に偏っていた。
双子の半生を考えれば必要最低限の知識以外を持たないのは仕方がないように思える。しかし、知識とは力であり、これがあるとないとではまるで違っている。
「無知は無力だ。だがな、今のお前たちが無知なのは悪くない。知識を欲する感情は、生きるために必要な最低限を身に着けた時点で消失する。そこから先、生きていくのに必要じゃない知識を求めるのは生物的には無駄もいいところなんだ。これまで『生存』に必死だったお前たちが知識を持たないのは必然であり想定内だ。だがな、我々は『生物』ではなく『人』だ。人が人たる所以はその無駄を求め、無駄を楽しめるかどうかにある。そして、無駄を突き詰めた先にあるものは、きっとお前たちの力になってくれると思うぞ」
最初の授業の冒頭で、バラクエルがアディアとアリアに語った言葉である。双子はその蘊蓄のある言葉に感激し、授業への意欲を最大限にまで高めた。
ちなみにコレを言ったバラクエルは、自分の理想とする『知性溢れるカッコいい教師』っぽいことが出来て非常に大満足だったそうな。
もひとつちなみに、アディアとアリアがバラクエルを『先生』と言っているのは、バラクエルの強い希望があってのこと。『師匠』呼ばわりとどっちが良いかで小一時間ほど迷った末の選択だったとか。
閑話休題。
「では、まずは昨日までのおさらいと行こうか。古代国ウーアヴァルトの滅びと逢魔の大深林の誕生。その後、群雄割拠の時代に突入した魔界が、どのようにして今の形になったのかを簡単に……よし、アディア、まずはお前だ」
「はい、まお……先生。かつて繁栄を極めていた古代国ウーアヴァルトは、突如現れた強大な魔物『フンババ』によって滅ぼされました。フンババはウーアヴァルトの領地を三日三晩で焦土に変えると、『緑侵』の力によって大森林……今の逢魔の大深林を作り出し、そこに住み着きました。フンババが発する魔素によって逢魔の大深林は魔界屈指の危険地帯となりました。ウーアヴァルトの住民たちは魔界の各地に散らばり、そしてそこに住んでいた先住民との争いが始まりました」
「よし、いいぞ、完璧だ。ウーアヴァルトの生き残りと先住民が争いをはじめ、それを皮切りに戦火が広がっていって、魔界は群雄割拠の時代を迎えた。では、その後を……アリア、説明して見せろ」
「はいですわ。魔界中に戦火が広がる中、とある三つの種族が頭角を現し始めました。夜の帝王たる吸血鬼族。ドラゴンの血を引くとされる竜人族。アンデッドを操る不死なる存在である死霊族。俗に『魔界三大種族』と呼ばれる種族ですわ。破竹の勢いで多種族を蹂躙し、配下に加えていった三大種族。何時しか彼らを頂点したコミュニティが形成され始め、それが現代の三大国……『夜紅帝国ルージュリュンヌ』『竜帝国ドラグニル』『死帝国トーデルゼンゼン』の元になったとされています。三国の力は歴代の魔王と魔王率いる魔軍と拮抗しているとされ、特に魔王領域と接している夜紅帝国と死帝国は幾度となく行われた歴代魔王からの侵攻を返り討ちにしています」
「ん、アリアも大丈夫そうだな。では今日は各国の王と彼らの持つ力について、表沙汰になっている情報を教えよう。わたしの野望を達成するにあたって、三大国と接しないというのはあり得ないからな。このあたりの情報は頭に叩き込んでおけ」
「「はい!」」
魔界の地理やそこに住んでいる種族の特徴、今やっているように魔界の三大国の情報など。アディアとアリアが覚えなければいけない知識は多岐にわたる。これまで勉強とは無縁だった二人には少々辛いであろう量の知識だが、二人とも魔王様への忠誠心を原動力にして精力的な姿勢を見せ、バラクエルから授けられる知識を吸収していった。
生徒が素直だと教師側のやる気も一塩というモノ。前々からこういった『誰かにものを教える』という行為に密かな憧れがあったバラクエルは、二人の教育への大きな熱意を持ち、積極的に己の持つ知識を伝授していた。
そんな中でも、バラクエルが特に力を入れて双子に教えているモノ。それは――。
「よしっ、歴史はこのくらいにして、次は魔法だ!」
『魔法』である。
「初級、中級、上級と来て今日はいよいよ最上級魔法だ! 最上級魔法はなぁ! 魔法の等級の中でも特に重要な位置にあるとわたしは思っている! 魔法はここからが本番と言ってもまったくこれっぽっちも過言ではないんだが、如何せん最上級になると途端に使えるヤツが少なくなる。そこいらの木っ端魔法使いはな、大体が上級で等級上げを止める。戦闘に置いて使い道の少ない最上級以上の魔法を覚えるのは無駄だとな。そして、上級以下の魔法をどう上手く使えるかだの魔力の節約だの無詠唱だのに腐心し始める。まったくもってけしからんことだとは思わんか? 魔法使いとして魔法の深淵に触れたいと思うのは当然のこと。そしてその深淵の入り口が最上級魔法なんだ。魔法の本質は世界の改変にあると言ったと思うが、では世界を改変するとは何なのか。定まったもの、定められているものに手を加える。これは言い換えるとすなわち、『世界に喧嘩を売っている』ということだ。ふははっ! そうなんだよ、わたしたち魔法使いは世の理に反逆する世界一の不敬者だ。最上級より上の魔法はどれもこれも世界に大きな爪痕を残す魔法だからな、その度合いも当然のように大きい! そして上級魔法で満足している奴らは世界に反逆することを恐れる臆病者というわけだ。お前たちもわたしの配下であるならば、保身に走る臆病者ではなく常に不遜たる反逆者であれ! そしてどんどん魔法の魅力に嵌るがいい! というわけで、教本の八百五十四ページを……」
魔界の歴史についての授業も一段落し、魔法の授業になった途端に三段階くらいテンションを上げたバラクエル。
『九曜の大魔女』と呼ばれる彼女は、その名の通り卓越した魔法の使い手だ。そして、自身の魔法の腕と同じくらいの魔法好きでもあった。故に、双子に魔法を教える時間は他の知識を教える時間よりも長いし、教師役のバラクエルのやる気も三倍くらいになっていた。
そんな主の姿を、双子はとても優しい瞳で見つめていた。
アディアとアリアが「魔王様って、魔法のことになると口数増えるし、早口になりますよね」と思っているかどうかは定かではないが、魔法について語ることに夢中なバラクエルがもし気付いたら、羞恥と自己嫌悪で真っ赤になってしまいそうな目で。
「では、まずはいつも通り基礎の確認から……って、なんだお前ら? いきなりそっぽ向いて?」
「「いえ、ちょっと何かいたような気がしただけです。気にせずに授業を進めてください、まお……先生」」
「うん、お前ら少しは呼び方治す努力をしろ!? な!?」
魔王の授業は、にぎやかに続いていく……。
この小説にレビューを書いてくださった方がいます。めちゃくちゃ嬉しかったです! ありがてぇ……ありがてぇ……
次回は、魔法についての説明回……かな?




