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一話 アディアとアリア

おい、どうした原初!? 何お前連日投稿とかしてんだよ!? 頭おかしくなるぞ!?

と、内なる自分が言ってる気がしますが投稿です。



『旧支配者のキャロル』を三時間以上聞き続けると、何かこう……よく分からないものが見えたりしませんか? 私はしませんでした。

 ――――この化け物ッ!!


 ――――いやっ、こっちに来ないで! 


 ――――なんであんなのが生きてるんだよ……。


 ――――死ねっ! この疫病神共がッ!!


 ――――はぁ? テメェらに売るもんなんてねぇよ、さっさと消えろ。気持ちわりぃ。


 ――――オラッ! 死ねっ! 死ねぇ!! お前らみたいな化け物は、とっとと死んじまえッ!!



 ……数多の悪意。害意。拒絶と迫害、謂れのない暴言と暴力。


 ただ『白髪』で『眼が紅い』……それだけの理由で、まだ幼いといっていいアディアとアリアは、同じ人族たちに虐げられていた。


 やめてといっても聞いてもらえず、助けてと伸ばした手は無残に踏みつけられた。


 唯一の庇護者であった母親が死んでからはや数年。それまでに彼らを傷付けた者の数は数えきれないが、彼らを護ろうとする者は現れなかった。


 そんな環境に身を置いていた兄妹は、やがて己と互いのことしか信じなくなり、さらには『人族』という存在を恨むようになっていった。まぁ、当たり前のことだろう。悪意にさらされ拒絶され、「視界に入ったから」、「行動がムカついたから」……などといった無茶苦茶な理由で虐げられて、好意など持てるはずがない。


 兄妹は今日もグラオザーム王国の貧民街の奥の奥、薄暗く気味の悪い場所で、かろうじて屋根があるだけの廃屋の隅で、かろうじて衣服とカテゴリー別出来るぼろ布一歩手前の服を身に纏い、隙間風に身を震わせながら空腹に喘いでいた。



「…………お腹、空きました」


「…………ワタシ、も」


「…………何か、食べたいですねぇ」


「…………食べたい、ですわぁ」



 どこか虚ろな瞳を廃屋の壁に向けながら、ほぼ無意識に願望を口にするアディアとアリア。迫害されている彼らが食料を手に入れるのはかなり難しい。お金など持っていないし、仮に持っていたとしても二人に商品を売ってくれる店など存在しない。


 故に、二人が食料を手に入れる手段は限られており、ゴミを漁るか、そこらに生えている雑草を食うか、虫を捕まえて食らうか。そのくらいであった。なお、水は雨水を貯めて使っている。


 それ以外に食料を手に入れようとすれば、『盗み』しかないだろう。しかし、アディアたちはその手段に出ることだけは、考えようともしなかった。


 彼らの母は、住人から『魔族を生んだ女』や『人族の反逆者』と蔑まれながらも、決してアディアとアリアを見捨てることなく、愛情を注いで育てた。そんな彼女の教育は至極真っ当なモノで、何をすれば良いのか、何をしてはいけないのか。してはいけないことは、それをすることでどんなことが起き、その結果何を失うのか。良いことは、それをすることで何を得ることが出来のか。


 『当たり前のことが、当たり前にできる人になってほしい』。そんな願いの元、仕事で無理が祟って体調を崩し、その年に流行った病で命を落とすその時まで、アディアとアリアの健やかな成長を望み続けた。


 そんな母親の愛情の詰まった教育を受けた双子の辞書に、『利己的な犯罪』などという言葉は存在していないのだ、


 ……まぁ、母親も一般人とは言い難い人物だったので、その教育には一部『ぶっ飛んでいる』モノもあったのだが。その片鱗は、二人の口調とかその辺を見れば大体察することが出来るだろう。


 余談ではあるが、二人の母親の職業は『冒険者』であり、魔物を狩ったり危険な地域に生える希少な薬草を採取したりと、過酷な仕事だった。しかし、二人の母親が冒険者としての仕事をこなす中で培った生存術やサバイバル技術は、アディアとアリアのとても『人の営み』など称することのできない生活において、大いに役立っていた。



「……ですが、もう少しです。もう少しで、私たちも十五歳……冒険者登録が出来る年齢になります」


「ええ、そうですわね。冒険者になったら、こんなゴミ溜めにも劣る国なんか、さっさと出てしまいましょう。そして、お母様のように、世界中を旅するんですわ」


「もう、アリア? 『ゴミ溜め』だなんて、女の子がそんな汚い言葉を使ってはいけませんよ? ……でも、いいですね。自由気ままに旅をして、いろんなところに行って……くひひっ、夢が広がります」



 穏やかに語り合う二人の纏う雰囲気は、場の空気に似つかわしくない暖かなモノだった。


 アディアとアリアは十四歳。冒険者ギルドに登録できる年齢が十五歳であり、二人がその年齢に至るまで、後数か月と言ったところだろう。


 二人は十五歳になったら、母親と同じように冒険者になって、このいい思い出など皆無な国を出るつもりだった。生前の母親から冒険者としてのイロハは教わっているし、魔物の対処法なども詰め込めるだけ詰め込んである。


 冒険者になるためには必須な戦闘力も、初心者冒険者では歯が立たないレベルまで鍛え上げられている。それもこれも、『冒険者になって世界を旅する』という夢があったからこそ。未来への希望は、何よりも大きな今への原動力となる。さらに、一緒に夢を追える存在がいることも、現状への絶望を遠ざけている一因だろう。


 アディアとアリアは、口元に小さく笑みを浮かべながら、未来に思いを馳せる。



「ねぇ、お兄様。お兄様はこの国を出たら、何処に行きたいですか?」


「そうですねぇ……ああ、そうだ。何時だかお母様が言っていた、ウミ……というモノを見てみたいですね。どこまでも広がる水の地平……くひひっ、残念ながら、私の貧弱な想像力では、思い描くことすら出来ません」


「ウミ、ですか。確か、とても測りきれないような量のしょっぱい水があるんでしたっけ? ワタシも想像できませんわ。でも、ウミのことを語るお母様はとてもはしゃいでいましたし……きっと、素敵な場所なのでしょうね」


「そういうアリアは、何処か行ってみたい場所とか、あるんですか?」


「……ワタシは、お兄様が行くところに付いていって、お兄様と一緒にいろんな景色が見たいです。ワタシにとって、きっとそれが一番幸せなことだと思いますから」


「……くひひ、嬉しいことを言ってくれますね、私の妹は」



 少し照れたようにはにかんだアディアは、寄り添いあうアリアの頭を優しくなでる。自分と同じ色の瞳を細めるアリアを見て、アディアも目じりを緩めた。


 そして、どちらからともなく、ゆっくりと瞳を閉じた。



 ――――日々は悪意に塗れていて、世界はこれっぽっちも優しくない。


 ――――それでも、私/ワタシが幸せを感じることが出来て、笑うことが出来ているのは……。


 ――――きっと、アリア/アディアが側にいてくれるからでしょうね。


 ――――これまでも、これからも、ずっと一緒に居ましょうね。そして、沢山の幸せを一緒に手に入れていきましょう。


 

「お兄様……何よりも、誰よりも、愛しています」


「私も、愛していますよ、アリア……」



 胸の奥から湧き上がってくる暖かい感情が生む衝動のままに、アディアとアリアは距離を詰め……そして、そっと唇を合わせた。

  


 地獄のような日々を送る兄妹は、それでも希望を捨てずに懸命に生きていた。支え合い、助け合い、絶望の底に落ちていきそうな心を必死につなぎ止めて暮らしてきた。


 それはとても素晴らしく、健気で、まさしく美徳と言えよう。この兄妹の前では、聖人という言葉さえふさわしくない。


 ――ああ、しかし、無情なるかな。


 どれだけ二人が『世界に希望はある』と信じたところで、世界が二人に優しくなることはない。








「……なぁ、本当にこっちなのか?」


「ええ、間違いありやせん。魔族共の住処はこちらです」


「ふぅん。まぁ確かに陰気だし……いかにもって感じだな。よーし、待ってろよ魔族共! 俺が完膚なきまでに叩きのめしてやるぜ!!」


「おおっ、こいつは頼もしい……是非ともお願いしやすよ……『勇者』様」



 崩壊へのカウントダウンは後わずか。


 二人にとっての絶望が、歩み寄る。




 


 

 

こいつらがプロローグのヒトゾクスレイヤーになります(断言)

この二人に冒険者になって幸せイチャラブ二人旅ライフを送る日々は絶対に訪れません(無慈悲)


……さて、とりあえず次くらいでアディア君を虐めるか

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― 新着の感想 ―
[一言] 兄貴の笑い方が狂三を彷彿させてならないw いい感じに狂ってますね
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