表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/28

十八話 愚神・外神①

更新です。ちょいと短めかな?

 バラクエルがまず最初に疑ったのは、『存在改変・逢魔転生(オーバーライト)』の不発だった。しかし、すぐにそれはあり得ないと自らの出した選択肢を一蹴するバラクエル。己の秘法が発動したのかどうかは、己自身が一番よく分かる。成功したなら成功したという感覚が、失敗したのなら失敗したという感覚が、理屈ではなく本能に直接届けられるのだ。そして、魔王の感覚は秘法の成功を告げている。


 次に思いついたのは、最初の選択よりも突拍子のないモノ。それは『双子の種族が実は人族ではなく魔族だった』というなんだかもう根本から全てがひっくり返ってしまうような考えだった。それならば秘法を使っても姿が変わっていないことだけは納得が行くが、それ以外のすべてに置いて重大な齟齬が生じるため、これも速攻で頭の中から叩きだした。


 二つのとんでもない考えを得て、バラクエルがたどり着いた三つ目の答え。それが頭の中で実像を結んだ瞬間、バラクエルはきょとんとした表情を驚愕に満ちたものに変え、「まさか……」と声を漏らした。



「……な、なぁお前ら。何処か変わったところはないか? 体に今までなかった角とか尻尾とか鱗とか生えてきてないか? 犬歯が伸びたり体の何処かに宝玉が埋め込まれてたりしてない? そうじゃなくても、何か違和感を覚えたりは……」


「いえ、そういう感じの変化は特に……ですが」


「見た目はまったく変わっていませんわね……しかし」



 自分の身体をキョロキョロと見下ろしていた双子は、眉を潜めながら顔を見合わせると、どこか不安げに口を開いた。



「「……『神造体』」」



 零れ落ちたのは、聞き覚えのない未知の言葉。それを皮切りに、二人は次々と言葉を紡ぎ出す。



「『神造魔力炉』、『神威』、『神話魔導:空』、『創造』……」


「『神造魔力炉』、『神位』、『神話魔導:天』、『神智』……」



 何故自分はこんなことを知っているんだろう? そんな思いの現れた表情のまま、アディアとアリアは頭に浮かぶ言葉をそのまま口にしていく。それと同時に理解する、これが、これこそが己に与えられた力なのだと。二人の脳裏に刻まれたのは何も力の名称だけではない。その力がどんなものなのか、どのように使用するのか。そう言った情報が何となく理解できてしまった。


 そして最後に……己の変貌を最も強く表すもの。双子にとって恥でしかない『人族』から脱したことを示す新たな種族名を謳い上げた。



「――――『愚神(オロカガミ)』。それが、新たな私……」


「――――『外神(ハズレガミ)』。ワタシは、そうなったのですね……」



 噛み締めるように零れた言葉。


 戸惑いもあり、頭の中は一度に注ぎ込まれた情報で混乱しっぱなしだった。けれど、二人が新しい自分を呼ぶ声には、確かな歓びが宿っていた。


 『力』を手に入れた実感。完全に弱い自分を捨て去った感覚。そして、バラクエルと同じ『魔族』となれた事に、湧き上がる歓喜が抑えられず、アディアとアリアは噛み締めるような笑みを浮かべてみせた。


 そんな二人の姿を見て、バラクエルが自分の考えが正しかったことを悟る。彼女が出した三番目の答え。それは、『秘法は成功しており、元と変わらないこの状態が転生後の姿である』というモノだった。


 姿形は変わらずとも、卓越した魔法使いであり歴戦の強者であるバラクエルには、二人が身に纏うオーラが比べ物にならないほど大きくなっていることに気付いていた。


 

(『オロカガミ』に『ハズレガミ』か……初めて聞く種族だな。しかも、かなり強力な種族……こうして少し見ただけで分かるくらいに、身体能力、魔力ともに大きく……大きく…………って、あれ? んー? おかしいな、二人から感じる魔力が、わたしの魔力とほぼ同じ……いや、単純な量だけで言えば負けている、だと……?)



 そして、あまり気付きたくないことにも気付いてしまうバラクエル。秘法が成功していたことにほっとして浮かべた笑顔がぴきり、と固まり、額から冷や汗が流れ落ちる。



(というかなんだこの魔力。まるで底のない深淵を覗いているような、星のない夜空を見上げているような……『魔王の魔力』に似ているような気もするが……)



 双子の宿した魔力の異質さも気にはなるが、バラクエルにはそれ以上に気になる事があった。



(それよりも、二人ともなんて言った? 『ジンゾウ体』? 『ジンゾウ魔力炉』? 秘法みたいだけど、『ジンゾウ』ってなんだ? どういう意味だ? ……いや、種族名と思われる単語に『カミ』――つまり『神』が入っていることを鑑みるに……『神造』? そうなると、『神造体』は『神が造りし体』で、『神造魔力炉』は『神が造りし魔力炉』? そんなものを宿しているということは、アディアとアリアが転生した種族は神によって作成されたモノ? ……魔族に関わっている神と言えば、創世神話の『闇と魔の静寂神』か魔界書記に登場する魔神たち、若しくは逢魔の大深林にかつてあったとされる古代国ウーアヴァルトの神帝デウス? それに『神話魔導』って……わたしが魔王になってから使えるようになったアレだよな? え? え? 本当に何になったんだこいつら?)



 考えれば考えるほど分からなくなる双子の種族。バラクエルは頭に「?」をいっぱい浮かべ、必死に納得が行く答えを見つけようとするが……。



(………………うん、何も分からないな! 考えるだけ無駄だ無駄! ハイ、考察終わり! 終了!)



 結局、何もわからないということだけが判明して終わったのだった。


 バラクエルは何となく泣きたくなった。昨日から……正確には、双子と出会ってから予想外のことばかりで、そのたびに頭を痛めたり胃を痛めたりしているのだからさもありなん。


 これで双子に悪意……とまではいかずとも、悪戯心くらいあれば怒るなり注意なりでやめさせることも出来る。しかし、基本的に双子の言動は善意と忠誠心から来るものであり、後は双子も予期していない事態が起こったりしているだけなのでやめさせようにもどうすることも出来ないというのが現状だった。


 けれどまぁ、それでもだ。



「ありがとうございます、魔王様。これなら、この力なら……私はもう、失わなくてすみそうです」


「魔王様にいただいたこの力……必ずや、魔王様のお役に立ててみせますわ」



 嬉しそうな――本当に、心の底から喜んでいることが分かる笑みを浮かべ、弾んだ声で告げるアディアとアリアの姿を見ると。



「……そうか。ま、お前たちがいいなら、いいよ」



 こっちだって嬉しくなってしまうのだ。困っていても、柔らかな苦笑で「しょうがないなぁ」と思えるくらいに。


 転生後の種族の詳細とか、秘法の効果とか、気になることは多々あれど。今はそれを放っておいて、バラクエルは双子の笑顔を見て言いたくなった言葉を、優し気な微笑と共に告げた。、



「――おめでとう、アディア、アリア。お前たちの新生を心から祝おう」


「「はい、ありがとうございます、魔王様!」」

次回は転生して手に入れた能力の確認かな? 多分。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ