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十六話 魔族転生①

よし、いいぞ。こうやって連日投稿を頑張って続けていくんだ……

 アディアとアリアが魔王の野望を聞き、彼女の配下となる事を改めて決意した夜が明け、次の日。


 目を覚ました三人は、身支度を整えると昨日の薪の痕を囲んで朝食をとっていた。メニューは昨日の残りと、バラクエルがどこからともなく取り出したパン。



「……あの、魔王様? そのパンは?」


「ん? ああ、旅用に買いだめしておいたヤツだよ。……そう言えば、昨日の夜も出せば良かったな。すまん、忘れてた」


「いえ、それはまったく構わないのですが……一体、どこから取り出しましたの?」



 双子が見たのは、バラクエルがローブの懐に手を突っ込んだと思ったら、明らかにそこに収まらないサイズのパンが出てくるという不可解な光景。ぽかん、と間抜け面を曝してしまっても仕方ないだろう。



「そっちか。いや、知らないと驚くのも無理もない、か」



 目を見開く二人に口元に小さく孤を描いたバラクエルは、懐からあるものを取り出してみせた。それは、何処にでもありそうな布の袋。特徴と言えば口を縛る紐に何やら複雑な模様が描かれたプレートが付いているところくらいだ。


 袋を見せられても、それが何なのか分からない双子は「はて?」と首を傾げることしかできない。


 まったく同じ角度で首を傾ける双子の姿がツボに入ったのか、バラクエルは「くっくっく」とおかしそうに笑った。



「これは『アバドンの倉袋』という名のアイテム袋だ。見た目は普通の袋だが、内部の空間が拡張されていて、物がたくさん入るんだよ。さらに、入れた物の重さを無くしてくれるから、もの凄く便利」


「……ああ、母上から聞いたことがありますね。古代遺跡などから稀に見つかることがあるマジックアイテムの類ですか」


「おっ、それは知っていたか。ちなみにこの袋は旅の途中で見つけた古代遺跡を攻略した時に見つけたものだ。『無限収納』と『重量無視』の効果が付与されているアイテム袋なんて、アーティファクト級だからなー」


「魔王様魔王様、そのアーティファクトとは一体なんですの?」


「アーティファクトか? うーん、正確なことはよく分かっていないんだが……古代遺跡で見つかる、今の技術じゃ作ることのできないマジックアイテムをそう呼んでいるな。明確な基準があるわけじゃないから、何とも言えんがな」



 と、他愛もない話をしながら、朝食を済ませた三人。朝から十分な食事が出来ることに双子が感激のあまり涙を流すといった出来事もあったが、おおむね平穏に朝の時間は過ぎていった。


 





「――――二人とも、覚悟はいいか?」



 厳格な雰囲気を纏ったバラクエルの真剣な輝きを宿した瞳が、地面に正座した双子を捉えた。切り株に腰掛け、膝の上に肘を置き顔の前で手を組み僅かに顔を俯かせるという、どこか威圧感のあるポーズが彼女の纏う重厚な気配に拍車をかけている。


 まるでこれから一世一代の決闘に挑む戦士のような趣で、二人を見つめるバラクエル。その姿にアディアとアリアは……。



「……魔王様、いきなりどうしたんですか?」


「覚悟、ですの? ……ええと、一体何の覚悟なのでしょうか?」



 普通に困惑していた。


 朝食が終わり、食器やらなんやらの片付けが終わってすぐに、何の前触れもなく威圧感マシマシで覚悟を問われるとか、困ったような「「この魔王様は一体何を言っているんだろう?」」という顔になっても仕方がない。


 そんな双子の視線にちょっと気まずげに視線を逸らし、コホンと咳払いをした魔王はそくささと姿勢を正した。先程の無駄に威厳のあるポーズとセリフは、ただのノリだったご様子。


 

「あー、それはだな。昨日、わたしの配下になる条件として、『魔族に転生する』と言っただろう? アレをさっそくやってしまおうと思ってな。なので、己の種族を捨て、魔族となる覚悟はあるか……というのを、なんというか、それっぽく言いたかったというか……いや、何でもない。早急にさっきのわたしの言動を記憶から消せ、いいな?」



 ノリで行った自身の行動を冷静な状態で説明するという耐えがたい羞恥に、魔王の頬がみるみる朱に染まっていく。やがて耐えきれなくなったのか、僅かに潤んだジト目を双子に向けるバラクエル。双子はその可愛らしい様子に、「「分かりました、魔王様」」と微笑ましげな表情で返しながら、内心で悶えた。


 ――魔王様がとにかく可愛い、ヤバい。……と。


 にっこにこしているアディアとアリアに、魔王はジトぉ……と疑わし気な視線を向けた。



「うぅ……なんか馬鹿にされてる気がするぞ……?」


「「気のせいですよ(わ)、魔王様」」


「嘘だ! お前たちが声を揃えている時は、大体わたしの事を『魔王らしくない』とか『威厳がない』とか考えてる時だろ!?」


「くひひっ、さてはて何のことやら。私たちにはまったく分かりませんね。ですよね、アリア」


「はい、お兄様。魔王様のおっしゃっていることは杞憂というモノ。ワタシたちは常に魔王様の素晴らしさに心を打たれていますもの。魔王様を馬鹿にするなどあり得ませんわ」


「……むぅ、それならいいんだが……」


「それよりも魔王様? 私たちを魔族に転生させるというお話の説明をしていただきたいのですが……。転生すること自体に不平不満は一切ございませんが、種族を変化させるなど見たことも聞いたこともありませんので……」



 アディアの言葉に同意を示すように、アリアも首を縦に振った。


 ジト目をやめてフラットな表情に戻ったバラクエルは、双子の疑問にさもありなんと頷くと、『魔族への転生』について説明を始めた。



「まず、お前たちを魔族に変えるのは魔法でもマジックアイテムでも、ましてはアーティファクトでもない。魔王核に備わった魔王だけが使える『秘法』。それにより、お前たちの幽体に干渉しそこに記された情報を書き換え魔族へと変貌させる。……まぁ、詳しいことは分かっていないが、そういうモノだと思ってくれ」


「秘法……ですか?」


「あー、秘法は魔族が各種族ごとに持っている特殊な力のことだ。魔人族なら『魔性器官』、魔女族なら『魔の才覚』といった具合にな。変わったところで言えばヴァンパイア族の『魅了の魔眼』や『血装』、死霊族の『悪霊支配』、『霊術』……あとは、マインドシーカー族の『悟』とかだな。まぁ、この辺りは魔界のことを教える時に一緒にやろう」


「……魔族にはそんな能力があったんですか。本当に、自分の知識の狭さというか、見ていた世界の矮小さに嫌気がさしてきますわ」



 バラクエルと出会ってから、まだ一日と立っていないのに、その間にどれだけの未知があり、どれだけの驚きがあったか。そして、己の生きていた場所が、小人族の掌よりも小さいモノだったことにアリア呆れてしまう。それは彼女の兄も一緒だったのか、二人はどちらからともなく顔を見合わせて苦笑い。「だめだめですわね、ワタシたち」「まったくです」と目線だけで伝えあった。


 なんだか二人だけで通じ合っているアディアとアリアに、いきなり蚊帳の外に放り出された気分になったバラクエルが少しだけ不満げな表情を見せたが、双子にバレるとまた馬鹿にされる(正確には萌えられる、だが)とポーカーフェイスを保っていた。



「……そろそろ、話を再開するぞ。いちゃつくのはその辺にしておけよ、お前ら」


「おっと、すみません、魔王様。……おや?」


「申し訳ございませんわ。……あら」


「「魔王様、どうして『寂しさと不機嫌を足して二で割った表情を必死に隠した何でもない表情』をしているのですか?」」


「なんでそこまで的確に見抜いているんだお前ら!? 怖い! その洞察力は素直に怖いぞ!?」


「「お褒めに与り、恐悦至極でございます」」


「褒めてないわ! この阿呆共がぁああああああああああ!!」



 魔王、渾身のツッコミシャウト。どうしようもない感情にわなわなと身を震わせ、きっ、と二人を睨みつけた。なお、威圧感は皆無であった。


 

「なんていうか、なんていうかもう、お前らはアレだ! 魔王というモノをとことん舐め腐っているだろう!? ああ、否定はしてくれるなよ? お前らはすぐに煙に巻こうとするからな! わたしがそう感じているんだから間違いないんだよ! こうなったらお前らには魔王の威厳と偉大さについてとことん教えてやる! 耳かっぽじってよく聞いておけ! いいか、魔王というのはな……」



 そして、滔々と『魔王』について語り出すバラクエル。双子はそんな主の姿をニコニコと表情の読めない笑みで見つめながら、内心で「「やっぱり可愛いなぁ……」」と身悶えていた。


 結局、バラクエルの『ありがたいおはなし』は、太陽が天頂で輝く頃まで続いたのだった。 

結局転生まで行かねぇじゃねぇかよ。これも魔王ちゃんと双子が仲良しすぎるのが悪い。いいぞ、もっとやれ!

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[良い点] まおーさまカワイイヤッター [気になる点] マインドシーカー族はどちらかと言うと『悟』より『覚』じゃないかな、と。真理に辿り着いちゃいそう。
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