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十一話 兄妹は人族を見限りました②

このタイトルも後一話くらいで終わるはず……

 なんとか双子の凶行を止めることに成功したバラクエル。彼女は疲れた表情でため息を吐くと、今にもへたり込みそうなほどに消耗しているゲイスに向かって口を開く。



「おい、そこの人族。この場で見たものをきれいさっぱり忘れて、今すぐ立ち去るというなら見逃してやるが……まぁ、賢明な判断をしろよ? 貴様のようなどうしようもない輩の血で、わたしの配下の手を汚したくないんだ」


「な、な、ぁ……!?」


「……おい、お前たち。どれだけ強い殺気をぶつけたんだ。声も出せなくなってるじゃないか」


「さぁ? 言葉を話せないのは元からでは? 見るからに頭の悪そうな顔していますし」


「知能が足りてるかどうかも怪しいですわねぇ。というか、魔王様のお言葉を無視するとが良い度胸ですね? 魔王様、やはり殺しましょう」


「だ~か~ら~! すぐに殺意を出すな! 魔力で自分を強化するな! 臨戦体勢に入ろうとするな! ……まったく、お前らは。大体、あの程度の輩なんぞ殺す価値もない。お前たちが手を下さなくても、その内勝手にくたばるだろうよ」



 再度殺意を滾らせ始める双子を止めたバラクエルは、ゲイスをぞんざいに指さしながら、冷たく凍えるような声でそう言った。


 双子の言葉を信じるならば、あの人族は同族を迫害し、罵詈雑言を叩き付け、その身に暴力を刻んだ下衆の類であることは間違いない。そして、バラクエルは双子が嘘を言っていないことを確信していた。


 アディアとアリアは今までの環境では圧倒的な弱者だった。親の居ない孤児であり、その見た目から同族にすら嫌悪される。立場で言えば最底辺に位置する人間だっただろう。


 だが、そのことを理由に双子を虐げるなどあってはならない。バラクエルにとって弱者とは庇護対象に他ならない。自分の持つ力は弱き者のために振るわれるべきだと、バラクエルは常から心に誓っていた。本当に、何処までも魔王という称号が似合わない。


 そして、そんな彼女が一番嫌いなのが、ゲイスのような人物である。自身の優位性を振りかざし、下の者を苦しめるなど言語道断。蛆虫にも劣る存在だと唾棄している。


 だからこそ、そんな存在の血肉で、大切な……大切になった配下を穢したくないのだ。何よりも綺麗なモノを見せてくれた二人を、汚物で塗れさせるなんて、魔王としてもバラクエルとしても許せない。


 それに……バラクエルは気付いている。


 この場に、ゲイスの魔力残滓が僅かに残っていることを。その薄れ具合から、彼がここに訪れたのは丁度、『アディアとアリアが炎に巻かれていた時』であることを。


 つまり、バラクエルはその慧眼で見抜いているのだ。――双子への襲撃に、ゲイスが関わっていることを。


 バラクエルがゲイスを睨む。その鋭い視線はまるで「お前のしたことは全部分かっているんだぞ?」とでもいうように、ゲイスの心の奥底まで穿ち抜いた。



「というわけだ。我が配下を散々可愛がってくれた礼をしたいところだが、貴様の相手をする時間が勿体なくて仕方がないのでな。ほら、さっさと立ち去れ」



 しっしっ、と蠅を払うような仕草でゲイスを追い払おうとするバラクエル。それは、魔王が敵対種族である人族に与える最大級の慈悲。


 しかし、悲しきかな。ゲイスという男はあまりにも……バラクエルの想像以上に馬鹿で阿保で間抜けで……どうしようもないほどに、愚かだった。



「ふ……ふざけるなぁ!!」



 震えた叫び。振り上げられた腕。その先の手の中には、そこらに転がっていた石が握られている。


 顔が青紫色に染まるほどの的外れな激情を吐き出しつつ、手にした石をバラクエルに向けて投げつけたゲイス。


 すぐに双子がバラクエルの前に出ようとするが、バラクエル自身がそれを制する。


 そして、おもむろに左手を掲げ――パチンッ。


 何の変哲もないフィンガースナップ。けれど、それを行ったのは『魔王』にして『九曜の大魔女』である。指を弾いた音が鳴るとともに、飛来する石へと稲光が走り、雷撃がそれを粉々に砕いた。



「なッ!?」


「「おお!」」



 ゲイスが驚愕し、双子は感嘆の声と共にパチパチと拍手した。


 バラクエルが使ったのは、一条の雷撃で敵を穿つ雷属性の魔法【稲妻の一矢(サンダーボルト)】。雷属性の魔法の中では初歩の魔法だが、そもそも雷属性自体が珍しく、また扱いの難しい属性だと言われている。バラクエルはそれを、詠唱も魔法陣もなしに、たった一工程(ワンアクション)で発動してみせた。また、本来は人一人を優に飲み込むことが出来る太さの雷撃を落とす【稲妻の一矢(サンダーボルト)】が石を破壊するだけの威力に縮小(スケールダウン)されているのも、バラクエルの魔法の腕が非凡極まりないことを示している。魔法効果の改変は詠唱や陣があろうと困難極まる所業なのだが、バラクエルは涼しい顔でやってのけている。これはバラクエルの魔力操作能力と魔法構築能力がずば抜けて優れていることを示しており……。


 まぁ、何が言いたいのかといえば。バラクエルは凄い、ということである。決して、双子に振り回されてツッコミを入れるだけの面白い娘ではないのだ。


 そして、その凄い魔王であるバラクエルは、自身の慈悲を思いっきり蹴飛ばした愚か者をジロリとねめつける。



「……ふむ、貴様、自分が何をしたのか分かっているのか? 戦いの才など微塵もなく、努力もしていない人族の下民風情が、わたしに石を投げるだと? わたしが見逃してやると言っているのに、それを拒否するというのか? ――――調子に乗るなよ、人族。わたしは慈悲深き魔王だが、同時に残忍な魔王でもある。貴様が敵になり得ぬ雑魚だから戯れに逃がしてやろうとしただけで、敵対するというのなら迷いなく殺すぞ? わたしはなんせ、魔王だからな」


「あぅ……あ……」



 バラクエルの身体から殺気と魔力が迸る。それは双子の放った殺気がまるで子供の癇癪に感じてしまうほどに厖大で過重だった。ゲイスは恐怖に口を開け閉めし、双子は自然と彼女の背後で偉大な主に首を垂れた。



「それで? どうする? また愚かに向かってくるか? それともわたしの言葉に従うか? わたしは残忍な魔王だがどちらかと言えば慈悲深き魔王でありたいと思っているのでな。貴様のような下衆にももう一度チャンスをやろう。今度こそ、賢明な判断をしろよ?」



 バラクエルは王だ。人族の国の王ではないが、魔界の頂点に君臨する魔王なのだ。そんな存在の慈悲を反故にして石を放るなど、その場で殺されてもおかしくない。そうしないバラクエルは確かに慈悲深い魔王だった。


 しかし、しかしだ。慈悲というのは受け取る側にもそれなりの知能が求められる。ゴブリンに聖句を聞かせたところで何の意味もないのと同じ。どれほど高尚な慈悲でも、受け取り手が知性のちの字もない馬鹿では意味がない。


 そしてゲイスは……度し難い愚か者。当然、バラクエルの慈悲を受け取る知性など彼の中には一ミリたりとも存在していない。


 だからゲイスは、絶対に許されない行為に出てしまう。



「な、何が慈悲だ! 薄汚い魔族め! お前みたいな穢れた存在が俺を馬鹿にするな! お前ら魔族は生きてちゃいけないんだよ! 死ねばいいんだよ! クソッ! クソッ! 死ね、死んでしまえ! 魔族など滅んでしまえぇ!!」



 恥知らずでお門違いな激情のまま、口汚く魔王を罵るゲイス。その矛先は、彼女の背後に立つ双子にも向けられる。



「そこのクソガキどももだ! せっかく殺してやろうと思ったのに、なに生き残ってんだよ! せっかく勇者を騙したのに、なんでまだ平然としてるんだよ! お前らは俺に! 人族に逆らっちゃいけねぇんだよ! クソ魔族の分際で! 死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇえええええーーーーーーーッ!!!」



 もはやゲイスの頭の中には、バラクエルと双子を貶すことしかなかった。それがどれだけ危険で愚かな行為なのかを考えず、ただ己の中にある魔族への恨みを言葉にしてぶつける。


 その発言の中に出てきた『勇者』という単語に魔王が僅かに反応するが、彼女は今、それどころじゃなかったりする。


 魔王に対する無礼。石を投げるという攻撃行為。そして聞くに堪えぬ罵声の数々。


 一つ目は控えた、二つ目も堪えた、しかし、三つ重なってしまっては、彼らが我慢など出来るはずがない。


 

「「…………」」



 無言。完全なる沈黙だった。一言も言葉を発せず、能面のような無表情で無機質な視線をゲイスに送るアディアとアリア。ただし、その身からは殺気どころか呪詛すら漏れていそうなほど、黒くてドロドロしたオーラが噴き出ていた。



「お、おーい。お前らー? そんな思いっきり闇属性の魔力放ってどうしたー? …………って、聞くまでもないんだよなぁ……どうしよう、怒りでわたしの声が届いていない……」



 バラクエルは額を抑えながら、大きなため息を漏らす。ゲイスは絶対にしてはいけないことを口にしてしまったのだ。


 忠誠を誓った。その身その心を捧げた。初めての好意と優しさをくれて、自分を受け入れてくれた。


 そんな存在をここまで貶され、その慈悲を足蹴にされて、怒りに燃えないなどあり得ない。



「……すみません、魔王様」


「……ワタシ、もう我慢の限界ですわ」


「「あの愚か者を殺す許可を、どうか頂けないでしょうか、魔王様」」



 限界まで感情を排した、淡々とした声で告げるアディアとアリア。そんな二人に、バラクエルは「しょうがないなぁ……」とでもいうように苦笑し……。



「はぁ、分かった分かった。いいぞ、許可する。だがな、ほんの少しの擦り傷すら負うのは許さん。お前たちが怪我したらその時点でわたしがアレを殺す。その手でことを成したかったら、完璧に完全に圧倒的に殺して見せろ。いいな?」


「「イエス、マイロード」」



 壮絶な笑みを浮かべ、双子にそう『命令』を下す。


 

「……くひっ、くひひひひっ」


「……ふふっ、ふふふふふっ」



 双子は、湧き上がる感情が我慢できず、それが笑みという形で漏れ出た。口元は三日月状に吊り上がり、全身から吹き上がる魔力はその密度を上げ二人の身体に纏わりつく。


 

「では、始めましょうか。愚かな人族よ。命乞いは聞きませんので、悪しからず」


「我が主に楯突いた。それは許されざる行為です。己の愚かさを悔やみながら、無様に死になさい」

 


 告げられたのは死刑宣告。


 どこまでも純粋無垢で、残虐無比な殺意がゲイスに襲い掛かった。

ゲイスくん終了のお知らせ(ハイパー無慈悲)


愚か者に相応しいエンディングを見せてもらいましょう

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― 新着の感想 ―
[一言] 敗者にふさわしいエンディングを(ry …ホウジョウエムゥ!(エグゼイドか!)
[一言] つ ぎ な ん て な い
[一言] まおーさますごい! まおーさまやさしい! げいずくん……逆に凄い……
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