十話 兄妹は人族を見限りました①
暑さにやられてばててました。
あと、なんかポイントめっちゃ増えてるし。
とりあえず、今日はもう一話くらい更新するかもしれない。
突然現れて、突然絶叫したゲイスに胡乱げな視線を向けた双子は、直後、何かに気付いたように「ああ……」と声を漏らした。
そして、ゲイスに向ける視線を『ゴミを見る目』に変える。
「……アレは、見覚えがありますね。よく、私たちに罵声と暴力を浴びせてくるものです」
「よっぽど魔族に恨みがあるみたいですわね。ワタシたちもほら、珍しい髪色と瞳をしているでしょう? だから、魔族の仲間なんだーと。……率直に言って、バカなんでしょうか?」
「違いますよ、アリア。アレはバカではありません。あんなのと一緒にしたら、本当にバカの方に失礼でしょう? バカ以下のゴミ……いえ、更にそれ以下の汚物ですよ。存在する価値で図るなら、そこらに落ちている小石の方がよっぽど上でしょうね」
よくもまぁスラスラと出てくるものだと感心しそうになる悪意のこもった言葉の数々。
バラクエルはいきなり真っ黒なことを言い始めた双子にぎょっとした表情を浮かべ、ゲイスは自分のことを言われているのだと分かるや否や、顔を真っ赤にして怒鳴ろうとして……次のアリアの言葉で、凍り付くことになる。
「確かにそうですわね。しかし、困ったものですわね。魔王様の存在を人族に知られてしまいましたわ。魔王様が人族如きにどうこうされるなどあり得ませんが、それでも面倒なことになるのは想像に難くないですわ。……目撃者などいなかった。そうするのが一番ではありませんか? お兄様」
「流石は我が運命共同体。考えていることは同じのようですね。ええ、それが一番に決まっていますとも。あの人族には――死んでいただきましょう。アリア、やれますね?」
さらっと告げられたセリフ。しかし、口調の軽さに反して、そこには夜闇よりも真っ暗でアダマンタイトよりも重い殺意が込められていた。
双子の視線がゲイスに向けられる。小柄で痩せた身体から湧き上がる魔力と殺意。魔王に敬意を捧げる瞳はまるでオリハルコン製の剣が如き鋭さを持ち、今にもゲイスの命を刈り取らんとしていた。
視線を向けられたゲイスは、その場に縫い付けられたように体が動かなくなってしまう。双子の強すぎる殺意に本能が恐怖の感情を吐き出し、身体中を駆け巡ったそれが脳髄が出す命令を凌駕した結果だ。
身じろぎ一つ、まばたき一つできないのに、汗腺だけが仕事をし、ゲイスの全身を冷や汗が伝い落ちていった。
そんなゲイスのことなどお構いなしに、アディアとアリアはいっそ不気味なくらい普段通り――全身から噴出する殺気以外は――に言葉を交わし合う。
なお、魔王様はまだ双子が豹変したことに対する衝撃から抜け出せていない。魔王様しっかりして。
「無論ですわ。相手が大の大人なれど、ワタシたちを殴るときの動作を見れば戦闘の才がないのは分かっています。才能で全てが決まるわけではありませんが、戦いの時に重要な要素である『数』で勝っております。お母様も『囲って殴れば大体殺せる』とおっしゃっていましたし、万が一にも負けることはないでしょう。――――お兄様、殺害手順はどのように?」
「そうですね……では、シンプルに行きましょうか。片方が撹乱、片方が攻撃。隙を作り、それを活用してトドメを差す。どちらがどちらをやるのかは……状況を見てということで」
「分かりましたわ、お兄様。それでは――」
「ええ――」
二人は小さく頷き合うと、全身に魔力を纏う。魔力適用法による強化が、双子の孤児らしくさほど高くない身体能力を、人一人を縊り殺すには十分すぎる水準に引き上げた。
重点的に強化したのは機動力を確保するための足。そして、急所に叩き込んでダメージを与えるための、指先。
二人の脳内でいくつもの殺害手順の模索が行われる。足の筋を攻撃して機動力をそぐ? 肩の関節を破壊して腕を使えなくする? 目を抉り出して視力を殺す? さぁ、どうしようか?
その中から最適なモノを選び取る。手順の確認などは行わない。アディアとアリアは双子の兄妹にして運命共同体。互いの思考を共有するなど、この二人にとっては容易い行為だった。
まったく同じタイミングで体勢を沈め、まったく同じタイミングで口を開く。
そこから吐き出されるのは、二重の殺意。
「「――――殺す」」
「待て待て待て待て待て待てぇええええええええーーーーーーーーーーーーっ!!?」
魔王、再起動。そしてシャウト。
体勢を低くし、ゲイスに向かって駆けだそうとした双子の肩をガッ、とつかみ、なんとか二人の凶行を阻止。
ゼーハーゼーハーと息を荒上げながら、バラクエルは「「どうかしましたか? 魔王様?」」とでも言いたげな双子の顔を交互に見て、思いっきり叫んだ。
「お、お、お前たちは……何をしようとしているんだぁああああーーーーーーーーー!!!???」
魔王、渾身のシャウト。
全力全開! という感じで放たれた追及の言葉。されど、この双子は不思議そうな表情で顔を見合わせると、これまた不思議そうに首を傾げた。双子ゆえに、その動作は非常によく似ている。首を傾げる角度とか寸分たがわず一緒だった。
「何って……」
「あそこのアレを殺そうとしただけですわ?」
「もの凄い平然ともの凄いことをいうんじゃあない! いきなり同族殺し始めようとするとかお前たちはあれか? 血に飢えてるのか?」
「「あ、はい。割と」」
「割とぉ!?」
魔王、驚愕のシャウト。
違ってほしいと願いながら告げた言葉にド直球の肯定が返ってくるのは、魔王の目をもってしても見抜けなかったらしい。双子の突飛な行動は大体見抜けていないような気がするが、気のせいなので気にしてはいけない。
どうやら素の反応を返してしまったらしく、何処か罰の悪そうな表情を浮かべるアディアとアリア。素の反応で血に飢えているとかダメな気がするが、気のせいなので気にしてはいけない。いけないったらいけないのだ。
「いえ、血に飢えているというと語弊がありますね。私はただ、魔王様の害となる存在を見ると『絶対にやらなきゃ』という気持ちになるだけです。もっとも、それだけの純粋な思いではないことはまだまだ魔王様の配下として未熟なところだと反省しています。私情を挟むなど配下としては失格ですし……」
「ワタシもですわ。使命感とあのゴミ以下の汚物への恨みつらみが募ってしまいまして。ダメダメですわね、感情の制御すらできないとは……」
「いやいや、お前ら今日の少し前まで普通の……普通? ……魔王たるわたしにツッコミさせる普通って……? ……と、とにかく普通の孤児だったんだぞ? そんなお前らがそんな超一流の従者みたいな真似し出したら、それはもうスゴイを通り越して怖いからな? もうちょっと普通の孤児っぽくしてくれるとありがたいぞ……?」
「「……はぁ。普通の孤児、ですか……」」
あっ、だめだコレ。バラクエルは素直にそう思った。アディアとアリアの表情を見れば分かる。あれは普通の孤児という概念をいまいち理解できていない顔だ。
というか、二人の一人称やら言葉遣いやらを鑑みれば、それだけでもうこの双子の異常性が見えてくる。自分を『私』とかいいつつ敬語で話す孤児とか、ゴブリンの巣でドラゴンと遭遇するレベルの珍事だろう。本当に、この二人を教育した『お母様』はどんな人物だったのか。知りたいようで知りたくない。好奇心と恐怖心が一緒くたになってぐちゃぐちゃな感じのもどかしさがバラクエルの中に生まれる。ただ、詳しいことを知らなくても分かることが一つ。
どうせロクな人じゃない。そして、そんな人に教育された人物もまた……。バラクエルはまた痛みを発しだした胃をそっと抑えつつ、遠い目で空を見上げた。
そこには分厚い雲に覆われた曇天があった。まるでそれはバラクエルの行く先を示しているようで。
魔王は無性に、空に向かって攻撃魔法を叩き込みたくなった。
魔王がどんどん苦労人になっていく……。
あ、あとゲイスさんはもうちょっとで死にます(断言)
ここから関係ない話
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