裏側へ
はじめましての方もそうでない方も、どーもです。
作者のweed0eです。
楽しんで行ってもらえれば何よりです。
表記ミスがあったので訂正しました(2018年12月11日)
表と裏。それはどこにも存在する。
世界にも裏側があり、裏界と言う世界がある。
裏界に居る住人にはある特徴を持っている。
皆、獣の一部を生まれながらに持ち、表界に住む人間からは亜人と呼ばれる者達である。
そんな、亜人達が住む世界の街、リューン地区の長である、竜僧がある御触れを出した。
『我はもうじき消える。よって後継者を選ぶ』と。
裏界のリューン地区は最も武芸を重んじる者達が集まる区画で、その区画から後継者を選ぶ事になった。そしてリューン地区の様々な場所で、様々な者が立候補や推薦を受けた。
その中でもずば抜けている者が二人いる。
一人は熊のような頑丈な体躯と虎のようなしなやかさを持つ獣人、不知火。
どんなに攻撃を受けても怯まず、素早い攻撃で相手を屠る。なおかつ多くの門弟を抱え、嘗ては竜僧の弟子だった男。
そしてもう一人。不知火のような体躯と言う訳ではないが、狼のような体躯から繰り出される不知火以上の素早い攻撃と竜僧から授けられた魔導仙法と言う、特殊かつ高難度の術を駆使する強者。
しかし彼は俗世には無頓着で、弟子など一切取らず、玄獣と言う表界にも災いをもたらす怪物を狩ることを生業としている。
弟子も取らず関わりを持たない彼を人はこう呼んだ。
『朧気な残像』と。
△△ 表界 東京 ▲▲
10月23日。
都内某所の住宅街の一角。3人暮らしにしては広い家に、幼い子供とそれを囲む男女が三人いた。
「全く。まだ幼い子供を遺して死ぬなんて」
「事故だったのよ。仕方ないじゃない」
「そうだよ。寿丞、今日からお前はおれ達の子になるんだ」
「そうよ。わたしが新しいおかあさんよ」
「おれが新しいおとうさんだ」
そんな会話をする三人
(ふざけるな)
「そうだ。今から新しい家に行こう!楽しいぞ」
「新しい兄弟もできるわよ」
(嫌だ。こいつらは家族なんかじゃない!)
見つめる少年の瞳には怒りが宿っている。
「さぁ、いくぞ」
そういい少年を連れ出そうとする往年の男性とその男性とどこか似た印象のある男女がいた。
「ぼくはお前らの言いなりになんてならない!」
「寿丞!」
怒鳴る往年の男性にも怯まず、怒りを露にする少年。
「絶対に言いなりになんてならない!」
そして景色が歪む。
「はっ!」
都内の路地裏。寝転がっていた少年が跳ね起きる。
辺りを見渡し、ゴミ箱の隙間と言う、あの時から続くいつもと変わらぬ風景に膝を抱え、こう呟いた。
「帰りたいよ……かあさん、とうさん」
△△裏界リューン地区 ▲▲
亜人達の賑わう声で溢れかえる市場。
獣の顔をした商人が獣の耳を生やした買い物客に売り込む。
そんな喧騒から離れた高台に一つ、ポツンと建つ一軒の襤褸屋がある。その家から市場にも負けず劣らずの喧騒が放たれる。
「バカ野郎!ワイは玄獣を狩るだけでええんや!なんでお師匠の後継者に選ばれとんねん!」
狼の如し体躯を持ち、耳は人と同じ所に生えてはいるものの、狼と同じ耳を持つ男。
無精髭を生やして、ダルダルの服装とボサボサの髪形から、竜僧の弟子だとは到底気づかれないだろう。
その男、朧月と言う名で竜僧の後継者候補と言われる男。
「誰もが期待しているのだ。おぬしの魔導仙法に」
相対するのは、熊の体躯を持ち、虎の顔をした男。
多くの弟子を持ち、整った一張羅を羽織る姿からは威厳が漂う。
その男、嘗ては朧月と同じく、竜僧の弟子であり後継者候補と名高い。不知火その人である。
「ワイは絶対やらへんぞ!お前がなった方がええ!」
「わたしでは魔導仙法は扱えない。君がやるべきだ」
「やらんと言うとるやろ!」
「やりなさい!」
いつものように平行線を辿るかと思われた会話が途切れた。
それは、地震が起きる事のない裏界で大きな揺れを感じたからだ。
まるで何かが突然降って来たかのように。
「なんだ……今のは」
「向かうべきやな」
そう言い、家から単身飛び出す朧月。
モクモクと煙が一筋たち昇る場所へと一直線に走った。
「待て、ちゃんと様子を見るべきだ!」
と言いながらも朧月の後を追う不知火。
後継者候補同士であってもこの二人は仲が良い。
道中も言い争いながら、異変があった地域に赴く。
二人は何もない平原を見渡す。
「何もない。どうする朧月」
「いや、あれを見てみぃ……」
と指差す方向に倒れこむのは一人の少年。
本来、裏界にはいない表界の少年。
まだ幼い。親の比護がいる年齢の少年が横たわっていた。
「何故……表界の少年がここに……」
「わかるわけないやろ!……しかしこのガキは保護すべきや」
「しかし!」
言うが早いか朧月は少年へと駆け寄る。
少し遅れて、不知火も近づく。
「このガキ……おもろいで」
「どうしたのだ」
「ワイの弟子にする!」
一時の沈黙が過ぎ、不知火が呆れる。
「何故考えて行動できないのだこの男は……」
この少年との出会いが表界と裏界を巻き込む動乱の始まり。
序章にも充たないプロローグの始まりである。
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