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紅い“幽霊船”の物語  作者: タカミチ
6/9

5-1

 空の旅は、途中でまたもや襲撃に遭ったものの、数十分程度で済んだ。

 再び大地に足をつけたとき、辺りはすっかり闇色の帳に包まれていた。

 このまま輸送機の中で夜を明かすのか。そう思ったのは荒野のど真ん中に降りたからである。外部灯が光る輸送機の周辺しか視界は利かず、その先はまったくの暗闇だった。

 これでは恰好の的だなと考えたまさにそのとき、ふと後ろ髪を引っ張られたような感覚に襲われ、ハーディはほとんど反射的に大地に身を伏せた。

 直後、闇を一筋の光線が引き裂く。

 爆発音とともに背後から悲鳴が聞こえてくる。

 続いて横から。

 慎重に顔を動かして見れば、ついさっきまでハーディの脇を固めていた男が絶命していた。

 襲撃だ。

 ご丁寧なことに、本日三回目となる。

 一度目は昼間、大陸縦断公路を地上用車で走っているとき。

 二度目は約一時間前、於空の上。

 敵は上空戦闘に対して備えがよくないのか、投入した戦力は戦闘ヘリコプターが二機だけだった。おかげでこちら――いや、拉致犯たちは――たいした被害を蒙ることなく切り抜けられた。

 ちなみに、小型ジェットエンジンを背負った人間が、空でアクロバティックな動きをしながら、戦闘ヘリに向かってビーム・ライフルやらレーザー・キャノンやらをぶっ放す絵図は、ハーディも生まれてこのかた初めて見る。なんて無茶で無謀なんだと、目を丸くしたものだった。


 そして現在進行形の三度目。

 闇に紛れて、敵の数も陣形も何もわからない。こちらは光の中に身をさらしているぶん不利だ。

 こんな自明の理をあのグイードにわからないはずはない。

 なのに何故、こんな襲ってくれと言わんばかりの状況を作るのか。これでは完全に自殺行為じゃないか。

 ハーディは伏せたまま、わずかに眉をひそめた。

 納得いかない。

 が、ことここに至った以上、考えるよりも先にやらねばならないことをするべきだ。すでに応戦が始まっている。そこはさすがグイードの部下というべきだろう。


 頭上で飛び交う殺人エネルギーの光線を避けつつ、ハーディはなんとか近くの草むらに飛び込んだ。

 いまだ手首には電子手錠がかけられたままだが、絶命した男の電子光線銃(レーザー・ブラスター)(通称ブラスター)を手に持ち、撃ちながら移動した。低木の群生地があったので、そこに身を潜める。

 確認してみると、もうエネルギー・パックの残量が少なくなり、たぶんあと二・三発しか撃てないだろう。

 舌打ちしそうになるのを堪えた。

 輸送機内にならば武器はあるだろうが、明るい中に飛び込んで行くのは、自ら標的となりに行くようなもの。それに狙われているのがハーディもしくは依頼品なら、飛んで火にいる夏の虫だ。

 襲撃の直前まで機内にはグイードと数人の部下が残っていたが、こんな状況ではちゃんと脱出できたのか見当もつかない。

 どうすべきか逡巡していると、


「ハーディ!」


 レーザー照射音と悲鳴の間隙をぬって、自分を呼ぶ声が聞こえた。

 首だけを回して振り向くと、グイードらしきシルエットが、体を屈めて走ってくるところだった。

 よくこの集中砲火の中を輸送機から脱出できたものだと驚いていると、視線の先で輸送機が爆発炎上した。

 爆風に背中から煽られたせいで、グイードはハーディから二メートルも離れた場所に着地した。よほど鍛えてあるからなのか、それとも体のつくりそのものが頑丈だからか、すぐさま体勢を立て直してこちらに向かってくる。手にはレーザー・ライフルとハンド・キャノンがあるのが見て取れた。

 ハーディの傍まで来ると、言われるよりも先にすばやく電子手錠を開錠し、次いで当然と言わんばかりに、まずハンド・キャノンを寄こしてきた。続けてブラスターのエネルギー・パックも数個渡される。

 これにはハーディもつい口角が緩みそうになって、慌てて引き締めた。

 礼を言う前に、グイードは至極真剣な眼差しでハーディの胸を指す。


「何がなんでもそれを守れ」


 言うや否や、拉致実行犯のリーダーは低木の陰から飛び出していった。




「……やっぱりこれ(・・)のせいか」


 依頼品の中身は知らない。訊かない。

 犯罪にかかわるものでなければどんなものでも届ける。それがハーディの信条だ。

 今回の依頼内容は二点。まず指定された場所へ行き、薄い金属製のケースを受け取ること。そしてそのケースを依頼人のもとへ届ける、というものだった。

 仕事自体は難しくない。

 依頼品とて比較的小さいほうだ。

 星系をいくつも跨る依頼はよくあることだし、たとえ依頼人のとんでもなさが問答無用で五指に数えられようとも、仕事そのものは単純明快だ。

 だから一連の襲撃の最たる原因はきっと、今回の依頼の所為にほかならない。

 最初こそ、もしかするとハーディ自身の所為かとも考えたが、さっきのグイードのセリフで、それはないとはっきり確信することができた。

 と同時に、グイードたちの正体にもますます確信を深めた。

 ――深めたはいいが、拉致という行為に対しては一層、疑問を拭えなくなった。

 しかしそれもゴールですべて明かされる。

 目下ハーディが最優先に勤しまねばならないことは、生き残るただ一点のみ。

 もらったハンド・キャノンのエネルギーを確認して、肩に担ぐ。

 照準は飛んでくるレーザー光線の発射もと。暗くてはっきりと敵の姿が見えなくとも、そこは勘で適当に――なんとかなる。


「だから地上戦(こっち)は守備範囲外だって言ってんのにさ…」


 発射の反動はかなりあるのに、ハーディはびくともしない。

 鍛えられた体幹は三十路手前といえども、まだまだ衰えの片鱗すら見せない。

 猛スピードで走る車に乗っていても体勢を崩さなかったのだ。足の踏ん張りが利く大地の上では揺らぐはずもない。

 一発目は手応えがあった。

 耳に届く敵の悲鳴と、減ったレーザー光線の数でわかる。

 ハンド・キャノンは発射と同時に、自動的にエネルギーも再充填される構造だから、連続発射を可能としている。

 今まさに二発目を撃とうしたそのわずかな時間をついて、耳に声が流れ込んできた。


『きみは何をやっているんだ』



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