白煙
開かれた広辞苑が風にめくれ、一つの単語が目に飛び込んできた。
「革命」
その言葉の意味するところをに意識を向けようとして、しかし、辞書は閉じられていた。
六畳一間の小さな部屋。ビルとマンションの建ち並んだ動かざる戸外の景色。
代わり映えのしない景色に飽いて、彼は外套を纏った。
日は少し傾き、秋の初めだというのに、風は頬を切るように冷たかった。足の向くまま気の向くまま、行き先を決めることなく歩を進める。
しかし、なぜだか見える景色は昨日と同じだった。
通りがかった公園には、誰もいなかった。
ベンチに腰を下ろし、外套の内ポケットから煙草とライターを取り出しす。
至福の時、とは言えなかった。
口から出ていった白煙が、大気の中に混じり、消えていった。
それからどのくらいの間、そうしていたのか。
仰々しくやってくる喧噪に目を向けると、小学生が雑談に花を咲かせながら帰路についていた。
その生命力が、胸を灼いた。
色とりどりのランドセルが、目に眩しい。
まるであそこだけが、灰色に染まった世界の中で、極彩色の光を放っているかのようだった。
自分にも、かつてはあんな時代があったのかと、溜息混じりに夢想する。
過ぐる日の自分には、どれだけの輝きがあったのだろうか。
溜息と一緒に出て行った白煙が、大気に薄められ跡形もなく消えていった。