表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラクリマの群青  作者: 日輪猫
平穏だった日々へ
9/59

No.8 酒場で

 


 先程見たばかりの景色が左右逆の状態で、2人の視界に入ってくる。

 家を出てから少し経ち目的地へと近づいてきている今現在、急ぎ足だったソーマは歩くスピードを元に戻し、握っていたアリスの手も離している。


 しかし手を引かれなくなったアリスは、普段通りに歩いているはずのソーマについていくのが精一杯で、時々駆け足になって追いつこうともしていた。

 それでもずっと写っているのは、今は焦りを覚えるかのような横顔ではなく、少し細い背中をした後ろ姿だけだった。


 それだけ、急いでいるのだろうか。

 アリスはこれから行くことになるトラウマの場所のために心の準備をしながらまたソーマを追いかけて行った。




 ──冒険者ギルド ウィズ・ディス


 賑わっている地域の、人の流れを逆流してから数分後。2人はギルドの門をくぐり、ファンタジーゲームではよくあるような、ギルド内の酒場に来ていた。

 そこではまだ太陽は真上にあるというのに、テーブルやカウンターで少数のプレイヤー達が酒を飯をと騒いでいた。


 彼らの顔を少し見たあと、それらに視線をそらして何か探すようにキョロキョロと辺りを見回していたソーマは、目当てのものを見つけたのかそちらの方へ歩いていった。


 ソーマが向かう先には、近くの窓から差し込む光で1層美しくみえながらも、どこかボーっとして飲み物を飲んでいる女性がいた。


 その女性は長くてサラサラとした茶髪をしており、黄色がかった瞳、そして紫と金色の入った少しダボダボの服を着ていることが特徴的であった。服装的に魔導師、メイジだろうか。


 ソーマはカウンターの端っこに座っているその女性の隣に座ると、荷物を地面に置いて話しかけた。その姿を見たあと、アリスもすぐさまソーマの隣に座った。


 その女性は先程からボーッとしていたが、ソーマが隣に座るとその事に気づいたのか頬ずえをついたままではあるが、視線だけを右にずらし、声をかけた。


「あら、ソーマ。最近顔を見ていなかったけど、なにしていたの?」


「久しぶりだな、ノエル。ちょっと色んなクエストに行ってたんだ。武器のストックがきれちまってな」


 そんな返答に「ふーん、そーだったの」と変わらない声音で反応を示していたノエルは、ソーマの奥に座っているアリスに気づいた。


「それで、今気づいたけれどその子は誰?」


「あぁ、紹介するよ、今日街であったアリスだ。お前と同じメイジだよ」


 ソーマは紹介しながら、アリスの方へ右手を向けた。

 それを聞いたノエルは「へぇ」と、少し驚く素振りを見せた後


「私はノエル。このギルドの近くで魔道具店をやっているメイジよ。よろしくね」


 と、自らの紹介をした。

 その紹介にアリスはペコリとノエルに向かってお辞儀をして返した。


 そして、


「こんなガールフレンドまで連れてきちゃって、昔とは大違いね」


「まぁ..そーだな。ガールフレンドじゃねぇーけど」


「あら、そーなの。まぁいいけど。それで、今回はどうしたの?」


 こんなやり取りがあった後、ノエルはソーマをからかいながらも話を本題に移してきた。

「察しが良くて助かるよ」そう言いながらもソーマは先程話していた時に浮き出た笑顔からは一変、真面目な顔になりつつノエルの方から目線をそらしてこう言った。


「アリスの無くした杖を探しにアーロックへ行きたいんだが、中層にグランドルムが出たらしい」


 それを聞いたノエルも、ソーマと同じように表情が固くなった。

 相変わらず酒場の中央は賑やかになっているが、ここだけはまるで別空間のような雰囲気が流れていた。


「こんなことはあって欲しくないんだが、こんな世界の事だからな。これからもモンスターが上がってくることがあるかもしれない」


「なるほどね。だから私にも着いてきてほしいと」


「安全そうであれば途中で帰ってくれて構わない。だから、ちょっとだけ付き合ってくれねぇか?」


 そんな急なお願いにノエルは、先程から飲んでいたドリンクのカップを持ち上げ、残りをグイっと飲み干した後。

 お金を机に置いて席を立った。


「仕方ないわね。でも、それが終わったら今度は二人揃って私の手伝いをしてもらうからね。交換条件よ」


 それを聞いて、アリスに確認しようとしたソーマは彼女が小さく頷いたのを見て


「わかったよ。まずはこっちの用件が終わってからだけどな」

 と、少しの笑顔と共に承諾した。


「いいわ。それなら先に私の店へ向かいましょう。その子の代わりの杖も用意しなくちゃいけないしね」


 そして、彼らはノエルの店へ向かっていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ