No.4 とある少女
そうして二階に上がったソーマは、1階の広々とした部屋とは違い、半分ほどの広さの自分の寝室に向かった。そして、そこにある机からポーションの箱を取り出し、箱ごと一階へと運ぼうとした。
─パタパタパタ と言う階段を降りる音と共に、─ガシャンガシャン と言うポーションのビン同士がぶつかり合う音が家の1階まで響き渡った。
先程まで椅子に座って下を向いていた少女も、その音を聞いてふと顔を上げた。
「悪い。少し待たせたかな?」
ソーマは階段を降り、部屋に入ると少女の座っている椅子に向かいながらそう問いかけた。
「ううん、大丈夫。ほんとにごめんなさい。こんな事までさせちゃって」
問いかけにそう答える少女の手はやはり強く握られており、顔も僅かながら強ばっていた。声のトーンが先程と変わって聞こえたのは、気のせいだろうか。
階段を降り終えた後、少女のいる椅子近くの机に、ポーションの箱を置いたソーマはその顔を見た後、怪我をしている足を見て 「えーーっと、どれがいいかな...」 とガシャガシャと少し急ぐように、ポーションを選んでいた。
そして使うポーションが決まると、それを箱から抜き出し、少女に手渡した。
「取り敢えず飲んどけ」
そう言って少女は、紫色のポーションを押し付けるように渡され、少し申し訳無さそうにしながらもポーションの蓋を開けた。
──キュポン と蓋を開ける音が鳴った後、ポーションの中身はあっという間に空になった。
空になったポーションを見た後、視線を怪我をしている足に移したソーマは、あんなにも悲惨で傷だらけだったものが少しずつ癒え、HPゲージも緑色まで回復し、出現しなくなったのを見てやっと安心感を抱けた。
そうした経緯を経て、「やっとまともに会話が出来る」 とソーマは少女の近くの椅子にドッと腰を下ろした。
そして、また手をお行儀よく膝の上に乗せながら下を向いている少女に
「やっと回復してよかった。それで、何があったか聞いてもいいか?」
そう聞いた後に、街中でいきなりぶつかった子に怪我をしているからと言って名前すら言わずに急いでおぶって家まで来た自分の、今までやって来たことを思い出し 「これは少し失礼か」 と
「あ、悪い。その前に自己紹介からだな」
そう言って微笑みかけた。
それを聞いた少女も、あっと気づいたように、俯いていた顔を上げて
「私もしてなかったわ。忘れていてごめんなさい」
そう言ってソーマの顔を見た。丁度その時、ソーマも顔を上げていたので、2人の目線が重なり合い、しばしの沈黙が続いてしまった。
──...クスッ、
そしてそれが続いたあと、何がおかしいのかもわからずに、普段は静かな街外れの家の中に2つの小さな笑い声がこぼれ出た。
そんな事があってから、2人は自分の腕にある ログに手を触れ、そこから3Dで映し出される画面の中から、プロフィールを選択してから画面を回転。互いのプロフィールを見せあった。
──MSV world-28
worldname:アルペティア
アバター名:ソーマ
ランク:4
ジョブ:剣士
脳機能停止まで残り 4年1ヶ月07日
──MSV world-28
worldname:アルペティア
アバター名:アリス
ランク:3
ジョブ:メイジ
脳機能停止まで残り 4年2ヶ月05日
互いのプロフィールを見た後、2人は
「同じ年に転送されてきたんだ」と言う偶然に驚きながらも──、
「見てわかる通りだけど、俺はソーマ。さっきはいきなり悪かった」
「私はアリス。こっちこそごめんなさい。ポーションまで貰っちゃって」
というように、画像だけでなく言葉でもしっかりと紹介しあった2人はここで初めて知り合うことが出来た。
そして
「じゃあさっき言った通り、いきなりで悪いんだけどここまで怪我をした理由を聞いてもいいか?」
と、ソーマが本題に切り出した。
その質問を改めて聞いた時、アリスの顔が怪我をしていた時のように、すこし強ばっていくことを彼は見過ごしていなかった。




