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ラクリマの群青  作者: 日輪猫
平穏だった日々へ
22/59

No.21 求めた先には

 


 黄色い星屑となって消えていった魔獣 グランドルム。そのモンスターの強さはまさしく怪物と呼べるほどの強さがあり、この世界でのランク付けでも上級に位置するものだった。


 しかしそんな怪物に一切物怖じせず、1人の男の小さな一声だけであんなにも息の合った連携が出来る集団の方が1枚上手だったのだろう。


 これが、この世界での超上級プレイヤーの集まりである 「攻略組」 の力なのだと、2人はハァ と溜め息をつくことしか出来なかった。



 明らかに別次元の動き。ソーマはこの団体に入ることを密かな憧れとし、彼らがダンジョンへ入っていく所は見たことがあったが、実際に戦闘を行っているところは初めて見た。


 流石に最前線で戦っているだけあって、これだけ凄いのだなと呆然とした。


 ──カチャッ ──ガチャガチャっ という音が鳴り響き、攻略組第3番隊の面々が武器をしまいやっと話し始めると、空気が一気に軽くなったように感じた。

 一人ひとりの表情にも笑顔が伺える。あれだけ鋭い眼差しをしていたとは想像出来ないほどだ。



 そうして戦闘を終え、一息つこうとしたのか彼らは壁沿いの岩に向かっていった。

 先頭の方には先程1番始めに声を上げた ふざけた性格をしていそうな男 が隣の男と肩を組み笑いあっている。

 どうも、本当にふざけた性格、明るい性格をしているらしい。


 そんな彼らの後ろ姿を見ながら、よっこいせ。と立ち上がるソーマ。

 その後、岩陰に隠れているアリスを迎えに行かなければと身体中についた砂を両手でサッサッっと払いながら歩き始めた。


 少し歩くと、ソーマはまだ自分の視界が赤く染まっているのにやっと気づいた。ゲージが赤色になっていると言うことだ。


 アイテムボックスの中から残り2本になっていたポーションを取り出し、飲む。

 そうして飲み干した瓶を地面にゆっくり目で叩きつけ、それがパリンと消えてなくなると

「そろそろポーションも買わなきゃな」と家の在庫も切れかけていることを思い出した。



 そして丁度その時。ソーマは目の前に長身の男が立っているのを見つけた。先程メンバーに戦闘の合図を出していた男だ。

 恐らく、この分隊のリーダーだろう。


 ──アリスと合流した後にお礼言おうと思ってたんだけど、先にしておくか。


 ポーションが割れた星屑が空気と混ざって消えてゆき、その音で近くにいたアリスもソーマに気づいた頃。


 ソーマはその男に話しかけた。


「さっきは本当に助かった。いきなり任せちまって悪いな」


 メンバーの方を向き、右手にはしまってある剣のグリップを握ったままだった黒髪黒目の男は、ソーマに話しかけられると、ゆっくりとこちらを見た。

 顔立ちも整っている、爽やかな美男子だった。


「いや、問題ない。これは仕事でもあるからな」


 男は、そういって軽く微笑んだ。

 しかし──、


「そう言ってくれると、助かる」


 そんなことを言おうとした時、「ただ、一つだけ言いたい。」と、その言葉を遮るように男は次の言葉を言い放った。


 その口元には笑みは微塵も浮かんでいなかった。



「まだ動きすらままならない初級が、こんなところに来ないでくれ」


 その言葉は、とても重かった。下層の恐ろしさを身をもって体験しているからこその重みだろう。

 その言葉は、目の前にいたソーマと、その2人に近づこうとすぐそばまで来ていたアリスの胸にも突き刺さった。


 向こうの岩沿いでは、変わらず明るい笑い声が聞こえる。しかし、ここだけはまた違った空気が漂い、別空間のようだった。


「まぁ...そーだよな。迷惑かけてほんと悪かった。感謝してもしきれねぇくらいだ。」


 数秒の間を開けたあと、ソーマは軽く微笑みながらそう言った。しかしその微笑みは、苦笑いに近いような、どこか作ったような笑みだった。


 そして──、


「わかってくれればいいんだ。厳しいことを言ってこちらこそ悪い。」


 何かを察しても気にかけることなく、そう言って男は軽く眉を潜めた後「じゃあ、またいつか」と言って立ち去って行った。




 ソーマのすぐ隣にアリスが近づいてくる。

 その間も、彼は男の堂々とした後ろ姿を呆然と眺めており、隣に来たことに気がついたのは数秒の間が空いた後だった。


「アリスも悪いな。俺のせいでこんなんになっちまって」


 ソーマはアリスにも謝罪した。しかし、その表情は男に向けた笑顔と同じもので、そこから出る乾いた笑い声がアリスの瞳に深く焼き付いた。


 おそらく心の底では相当悔しい思いをしているのだろう。


「そんなことないから大丈夫。それより...もう、帰ろう?」


 それを察したアリスが少し首を上に向けてそう言ってきた。本人は何も意識していないだろうが、疲れが顔にも現れてきている。


 それを見たソーマは流石に自分も疲れたと「そうだな。帰ろう」と言ってログを使おうとし始めた。


 その時、ハッと何かに気づいたように周りを見回し

「そう言えばノエルどこいった?」

 と、アリスに訪ねた。


 彼女も あ、、 と忘れていたことをふと思い出したかのように

「ノエルさんは仕事があるって言って、先に地上に戻っているの」

 と、ソーマに伝えるのが遅れたと笑いながら報告した。


 それを聞いた時


「あんの黒魔道士がぁぁ! こんな大事な時に!」


 と、上を見ながら怒りを露わにすると「よし、アリス! すぐ戻るぞ!」と言いながらログを急いでタッチし始めた。


 アリスは「ふっきれたのかな?」と少し不安そうにしながらも、置いていかれないように急いでログからテレポートの欄をタッチした。


 たった一日という短い間で使い果たした身体を入れ替えるかのように、足元から順に姿を変えて目的地へ向かっていく光達。


 そうして、2人はやっと地上に帰ってくることが出来た。


 しかし、平穏な日々が帰ってくることはなかった。



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