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ラクリマの群青  作者: 日輪猫
平穏だった日々へ
19/59

No.18 杖を求めて - 9

 


「どうしてっ...ここまで来たんだよ!?」


 アリスがソーマに駆け寄り、回復魔法と唱え終えようとした頃。

 両端を掴んで軽く力を加えれば、すぐに折れてしまいそうな程ボロボロになってしまっていた杖。そこからユラユラと発せられる緑の光がフッと消えた時、ソーマは彼女にそう問いかけた。


 ゴブリンパーティーが起きた第39層に比べれば広さは劣るものの、40層の中では広く、円形になっているこの空間。辺りには緑は無く、あるのは大きくてもソーマの肩程しかない岩である。

 その中でも必死になって出されたソーマの声は遠くまで響き渡ることはなかった。

 これは彼の疲労が溜まっていたためか、それともあの怪物のせいだろうか。


 今現在も空間内の中央に存在し、目に見えないオーラを纏いながら背筋を凍らすような威圧感を放っているグランドルムは、アリスが入口を潜った直後に唱えた魔法 アルボスタによって未だに動きを制限されている。


 アルボスタ と言うのは、2人が来ている下層でもよく使われる魔法で、電気系統の魔法だ。

 身体の中から流れるように魔力を杖に移し、その言葉を言うまで杖の先にチャージした分を相手に食らわせるという魔法で、威力はさほど無いものの相手を痺れさせることの出来る、いわゆる一時的捕縛魔法である。


 しびれ状態になったモンスターやプレイヤーはHPゲージの右上に雷マークの印が付く。これは毒や炎によるものもあり、効果が薄れるとともにそのマークもチカチカと消えていくのが特徴だ。


 また、アルボスタの使い道は様々で、捕縛している間に攻撃を仕掛ける。次の魔法や攻撃の準備をする。

 そして、回復をする時間を設ける。などと言うものがある。


 今回は最後者の目的で魔法を使用した。もちろん、その魔法を使って得た時間で逃げるという手段もあった。

 しかし、後一撃でも受けたら死んでしまうソーマがいる中で、あれだけスピードのある中級モンスターから逃げるよりかは、今ここで回復をしてまた別のチャンスを伺うという方がリスクが少ないとアリスが判断したためこの場に留まっているのが現状である。



「ソーマがいなくなった時、ここの層の入口でこのナイフを見つけたの」


 そしてそんな時、アリスが口を開き始めた。

 2人は大きな岩陰に隠れており、彼女の右手には40層の入口で拾ったナイフが握られている。


「それって...」


「きっと、ソーマのでしょ?それでこれを見つけた時、40層に向かって行く足跡があるのを見つけちゃって。その時、私も行かなきゃ ってなったの」


「なんでソーマのナイフと足跡だってわかったのかはよく分からないけどね」そんなことを付け足しながらアリスは右手にあるナイフを大事そうに抱えた。


 白兎が出てきたのはきっと自分の幻覚だろうと決めつけて。そして、その兎はソーマの前にも現れたのだと知る由もなく。



 そうした時、とうとう薄れていた雷マークが消え、怪物が状態を取り戻した。


「グオォォォォォォォッ!!!」


 ソーマが少し荒らげながら出していた声とは比にならないほど大きく、威圧感のある咆哮。

 それは空間内の空気をすべて振動させ、会話をしていた2人の身体も震え上がらせるようにして響いた。



 その時、アリスはそれに動揺せずソーマに新しい魔法をかけた。彼女が1番得意とするエンチャントの魔法だ。


「エンチャントレス ─ ビエンド・フォルツァ」


 その言葉が放たれた瞬間、ソーマの身体中に赤色と水色の光が踊り始め、その色と同じ色のマークが彼のゲージの上に出現した。

 普段ならもう一つほど一緒にエンチャント出来るか、どちらかの効果をより強く出来るのだが、流石に魔法を使いすぎたために魔力の底が見えてきていた。


「これで攻撃力と速度が上昇してるはず。あんまり長くは続かないけど」


 その言葉を聞きながらソーマはグッ、グッ と手を握ったり広げたりしながら身体の変化を確かめていった。

 そうしている間にも彼の周りを二つの光がグルグルと回る。

 攻撃力&速度上昇のためジャンプしてみても何一つ変わることは無いのだが、それによってか何故かいつもよりも飛べてる気がしてならなかった。


「もうほとんど逃げ切ることは不可能かもしれない。だから、倒す気で戦って。私も援護するから」


 先程のようなことを繰り返しやる気に満ちているソーマにアリスは厳しいかもしれないが現実と理想を突きつけた。

 まだ岩陰に隠れているため、怪物には見つかっていないものの、やつに見つかるのは時間の問題だろう。それでもいきなりの攻撃には避けるためアリスは小声で彼にそう言った。


 そういうアリスに対してソーマは、何か意味があったのだろうか、少しニヤッと笑った後にしゃがんでいる状態から堂々と膝を伸ばして立った。


  そして腰に付いているナイフからパチンという音を鳴らせながら二本取ると、その2本を片手に持ちながらもう片方でアリスに何かを手渡した。


 そして──、


「やってやろーぜ」


 そう言う彼の両手には鋭く尖った黒いナイフがあり、表情は口角を上げながらも腹をくくったような清々しいものだった。


 そして、まだしゃがんだまま彼を見上げる少女の右手には今まで持っていたものとはまた別の、真っ直ぐと伸び、手に馴染んでいる綺麗な杖が置かれていた。



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