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ラクリマの群青  作者: 日輪猫
平穏だった日々へ
14/59

No.13 杖を求めて - 4

 


「ふぅ...ここにもねぇか」


  他の層とは違って全く入り組んでいない、ただっ広い空間内に生えている草に手を突っ込み、腰を低くしてガサゴソと杖を探すソーマ。

  ゴブリンパーティーを終え、この後はそこまでの数は出てこないだろうという結論に至ったため、効率性を考えて別々に捜索し始めてからある程度の時間が経った頃。

  目を凝らしながらも、2人から連絡がないかと耳をすましてはいるが未だに杖が見つかったという声はない。


  これだけ広いのだから仕方ないのだろうが、3人でこれだけ探しているのだからそろそろ見つかって欲しいものだ。

 

 ──しっかし、本当に広いな。


  ソーマは近くにあった草むらを一通り調べ終えたのか、腰に手を当て仰け反るように体を捻らせてから、円形になっている天井を見上げた。


  他の層ではあまり見られないような壮大な天井。上の層が土や砂で出来ていたため、その天井もそれらで細かく作られていた。

  あまりにリアルすぎて機械の中だと言うことを忘れてしまいそうになる。


  その時、丁度見ていた天井から小石や砂がパラパラっと落ちてきて「これ、落ちてこねぇよな? バグとかで」などと言う馬鹿な考えを浮かばせた後、すぐに正気に戻ったソーマは、今度はもう少し奥の方を調べようと小走りで向かっていった。



  2人がどこで探しているかを把握していないまま、奥の方へと来た。

  そこは先程とさほど変わらず、草木が生い茂り、そのあいだ間にはゴツゴツとした岩がドスンと置かれている。


 ───岩の付近も探してみるか...


  そんなことを思って地面に置かれている岩の隅や、裏側を見ようとした。

  するとその時。たまたま岩の裏側を見ていた時にフイと横を見ると、草むらに隠れていたゴブリンの一体とばっちり目が合ってしまった。


「グゲェェッ!」 「...うぉっ!?」


  草むらに隠れていたゴブリンは3体。子供だろうか、いずれも全て小さいため、しゃがんでいたソーマの顔面にその手には大きすぎるくらいのナイフを刺そうとしてきた。

  ソーマはそれをただの条件反射でかわし、その時やっと状況を理解してナイフを構えた。


 ───流石に顔は危なかったな


  元々この世界には痛覚はほとんど遮断されているため、顔にナイフが刺さろうがさほど痛くはないのだが、プレイヤーの急所の一つである頭を狙われるのは危険なことだった。


  そうして戦闘態勢に入ったソーマはその3体と正面で向かい合い、先程の多さに比べたら余裕と言うように── サッ と首元や頭を出来るだけ狙って、3体のゴブリンを倒していった。


  あっという間に3つの星屑となったゴブリンを見て──


 ───よしっ..!強くなってる!


 ──と、モブとは言っても、上層部にいるゴブリンとは違っていったい一体でも段違いの強さを誇るモンスターを倒して自分の強さを再認識した。


  そうしてソーマはまだ調べていなかった所の捜索を行おうと、また近くの草木に近づいて行った。するとある物が視界に入った。それは近づいていくことによって見えてきた、ゆるやかな弧を描いている壁にあったもので、それを見つけた時は足が止まっていた。


「40層の入口...」


  ソーマが見つけたのは、ゆるやかな階段状になっている第40層の入口だった。


  第39層、つまりここへ繋がっていた入口とは違いここの入口は何故か巨人でも入ってしまうかのように大きく出来ており、周りはゴツゴツとした岩で囲まれていた。

  そして、その先からは闇がこちらを伺っているためにいくら目を凝らしてもその先を見ることは出来なかった。レベルが上がれば見えるようになるのだろうか。


  その辺りに草むらは無いため、少し距離を置いた後、少し行ってみたいなぁ という誰にでもあるような好奇心をふいに頭に浮かばせたソーマだったが、それでも杖を探さなければと気を取り直した。しかしその時、彼の視線の先に何かが写った。


「兎...?」


  そこに居たのは、まるで降りたての雪に覆われたような白い毛で体を包み、大きな耳を生やした兎だった。何故こんなところにいるのだろう。そう思いながらもその兎に目を凝らした時、口に何かくわえているのがわかった。


「あれって...杖か?」


  そう。その兎がくわえていたのはおそらく木でできたであろう小さな杖だった。それを見つけたからといって、それがアリスのものだとはわからないし、そもそもアリスの杖がどんなものかも知らなかったが、ソーマはとりあえずその杖を手に入れようとした。


  しかし、その雪玉に近づこうと足を1歩踏み出した瞬間。ザリッ と言う砂が靴の裏と擦れる音とほぼ同時に、ピョン と兎は遠くの方へと飛んでいってしまった。そして手を伸ばそうとした頃にはもう、兎は暗闇に消えていってしまった。

  第40層へと続く階段の中へ。


「ちょっ...待て!」


  それを見たソーマも慌てて追いかけようと少しずつ歩く速度をはやめ先程立っていた入口の近くへと逆戻りしていった。

  だんだんと近くなっていく闇。それが近づくにつれ彼は、ドキドキとワクワク、そして少しの恐怖を感じていた。

  そんな感情に誘われながらも、この事をアリスとノエルに伝えたかったが、ただでさえ遠くにいるためそんな暇はなく、すぐに戻るから大丈夫だろうと暗闇の中へと姿を消していった。




  その時、第39層では──、


「あら、アリス。杖は見つかった?」


「いえ、まだ...」


 ---と、他に誰もいない空間で話す2人がいた。この時、アリスが1人の時にずっと耳に入ってきていた草むらの音が聞こえなくなったのは気のせいではないだろう。


  「まだ見つからない」と言うアリスの悲しそうな表情を見て、早く見つけてあげたいと言う思いを込めて「そう。」と声のトーンを下げて言った後、また申し訳なさそうに「ソーマが見当たらないからあなたに言っておきたいのだけれど」と前置きをしてからこう言った。


「今電話で地上の方から連絡があってね、すぐに戻らなくちゃ行けないの」


  ノエルはそう言いながらログの方をトントンとつついてそう言った。ログには自身のプロフィールの他に、フレンド申請したプレイヤーとの通話も出来るのだ。


  その言葉を聞いたアリスは、ここから無事に帰ってこられるだろうかと不安を抱いた。このまま彼女がいなくなってしまえば、何か危機が訪れてしまうのかと。しかしアリスの性格上、引き止めることは出来ないと──


「わかりました。後は大丈夫です」


 ──と、微笑みながらお辞儀をして了承した。


  その言葉を聞いたノエルはホッとした後、急がなければとログをタッチしてからテレポートボタンを押す準備をした後に「戦闘中じゃなければログから地上にテレポート出来るからそれで帰ってきなさい。無事を祈っているわ」とアリスに告げてからボタンを押して、青色の光と化して消えていった。

  こうしてアリスは、一つ、過ちを犯してしまった。



 ノエルが地上についた頃。


「本当にこれでよかったのよね?」


「あぁ、これでいいんだ。彼の力を拝見させてもらうよ」


  ノエルともう1人の人物がログを通じてそんな会話をしていたことなど、ソーマは知る由もなかった。

 


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