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ラクリマの群青  作者: 日輪猫
平穏だった日々へ
13/59

No.12 杖を求めて - 3

 


 ── ガキン、、、サン、、ッ


「ヴォォォォォ―――」


  二つの刃のその1本が古びた剣の先を折り、もう一つの1本が、死の曲線を描きながら細くどす黒い緑色の首元を狙って低めに放たれていく。

  その一撃が放たれると、それを受けた一体のゴブリンは先程の悲鳴じみた鳴き声を上げて、黄色くなっていたゲージを一気に赤色へと変色させて、他の者達と同じように消えていった。


  この世界のモンスターにはよくある戦闘ゲームと同じように「急所」と言うものが存在しており、モンスターだけでなくプレイヤーにも共通する急所が首である。

  そのため、先程のゴブリンは急所ボーナスのダメージ分多く攻撃を受けて消えていったのだ。




  ソーマ達1行が「ゴブリンパーティー」と呼ばれる層に入り、とある魔術師の合図で戦闘が始まってから数十分後。

  前層である35層では見られなかった少しの木々が吹いてもいない風によってゆらり揺られとしている中、彼らを囲む円は少しずつ厚さを薄くしてきていた。


「──バーストニア」


  それは、またしても落ち着いた声が空間内に響き、それに木霊するかのように「グエッ..」と汚らしい声が耳元に届いて、内心不快に思いながらも数秒後また同じことを繰り返しているノエルの貢献によるものがほとんどだろう。


  彼女は今は少なくなったがそれよりも前である、大量のゴブリンに囲まれた時から1歩も足を動かさず、平気な顔で遠距離攻撃を続け、HPゲージを1度も回復させていないにも関わらずもその色を緑から変えさせることは無かった。


  これはゴブリンというゲーム内においてはモブ中のモブが弱すぎるからなのか、はたまたノエルが強すぎるからなのか。


  必死に支援魔法をかけながら自身も目の前の層を薄くしていこうとしているアリスと、それに応えようともして宙を舞いながらも同じように少しずつ数を減らしていっているソーマを見ると、どっちなのかよく分からなくなってしまう。


 ─── パリ、パリン...


  同じような音を2つのナイフからまた出し続けて、ソーマはようやく自分の周りを囲っていたゴブリンを消し去ることが出来ていた。


 ──結構危なかったけど、なんとかやり切れたな。


  そんなことを感じながら左手に力強く握っていたナイフをしまい、そのためにべっとりとついた手汗をスボンで擦るように拭い取ると、軽く目にかかっている黒髪をワシャワシャっと乱しながら、いつの間にか小さく見えるほど遠くになったノエルを見て──


「よくもまぁ、あんなにボコせるな」


 ──と、苦笑じみた笑顔を浮かばせながらそちらの方へと向かっていった。



  丁度ソーマが元いた場所に戻ってきた時には、ノエルの周りを囲っていたゴブリン達も綺麗さっぱりいなくなり、アリスも戻ってきていた。


「2人とも戻ってたんだな。お疲れさん」


「ええ。私はあんまり疲れていないけど、お疲れ様」


  そんな皮肉を無視して、耳をすませば ── サァァァッ と来た時と変わらぬ草木が重なり合う音が聞こえてきた。

  先程の戦闘が無ければ、ただの平和な野原に見えてしまうのだからここは恐ろしい。


 ──ん? ちょっと待てよ?


  その音を聞いた時、ソーマは戦闘直前のノエルの言葉を思い出して杖をしまっている彼女にふいにこんな質問を投げかけた。

 

「なぁ、この音ってさっきと同じような気がするんだが...」


  嫌な予感がする。

  ドキドキと心臓が激しく脈打つのがわかる。

  それでも変わらず、いやまるで笑っているかのように草木は音を鳴らし続けていた。


 ──もしかしたら、また同じような惨事がもう1度起こるんじゃ...

 そんな事が頭を過ぎったが---


「あぁ、この音は普通に草木が揺れている音だから心配しなくても大丈夫よ」


 ---そんな考えを、可能性をノエルはばっさりあっさり切り捨てた。


  その理由はダンジョンの構造にある。

  このダンジョンは地面に埋まってきるために、風など吹くはずないのだがどういう訳か風が吹き、砂のある層では砂嵐さえも起こし、雪がある層ではごく稀に吹雪も起こすというおかしなダンジョンなのだ。

  そのためこの草木が揺れているのもごくごく自然な事なのだ。


  しかし、それらをどうやって見分けているのか。すぐソーマは感じた疑問をなげかける。


「それ、どうやって見分けるんだ?」


  ノエルは杖をしまった後、遠くで揺れている木々を見ていたが、その質問が投げかけられると少しそちらに顔を傾けて---


「そんなの、何となくでわかるでしょ?」


 ---と、初級プレイヤーには分からないことを「ねぇ?」と傾けていた顔は動かさずにアリスの方へ視線を移して問いかけたが、いきなりそんなことを言われたアリスは「え..いや、」と軽く挙動不審になっていた。


「流石はレベル6の上級プレイヤーだな」


  ソーマは「え、あなた達でもわかるでしょ?」と言うように可愛らしく首を傾げる女性に、そんな言葉を放ちながら、呆れるように肩をすくめた。

  そして、その言葉を聞いたアリスは「え!? レベル5じゃなかったんですか!?」と今までの勘違いをここで初めて正しつつも、「だからあんなに強かったんだ...」と口に出さなかった疑問を自分の中で解決していた。


 そして──


「さて、ここら辺で休憩は終わりよ。さっさとお目当ての物を見つけちゃいましょう。」


 ──と、大人数でも時折死者が出ると言うゴブリンパーティーを乗り越えた3人は周囲の草木に注意しながら、杖を探すという次のステップへと移していった。


「私がレベル4の時は聞き分けられなかったかしら。」

  ノエルは足を動かしつつも、まだそんなことを呟いていた。



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