No.11 杖を求めて - 2
「嘘だろ...っ!こんなに多いのかよ!!」
他のクエストでは少数のゴブリンの群れに遭遇し、1人でもある程度倒すことが出来ていたが、アーロック第37層 ゴブリンパーティーが起こると言われているその場所に来たのは初めてだったソーマは、「パーティー」と呼ばれているのも頷けるほどの数を目にして衝撃を受けていた。
ソーマは唖然とし、ノエルは普段通りの冷静さで2人を見ている。そしてアリスは、額に汗を垂らしていた。
ざっと150匹ほどだろうか。頭に角を生やし、顔の中央には大きくて禍々しい鼻が付いているのが特徴であるゴブリンは角の大きさに比例して、体の大きさも変わってきている。
手にはこん棒を持つものもいれば、他のプレイヤーが落としていったのか細い剣を持つもの、大きな盾を持つものと様々で、筋力などに差はあるのだろうか、武器の大きさも比例している。
「ヴォルルルル、、、ッ」「ウガァァァッ、、」
その光景に唖然として、その二人の動きを見て、先程起きたパーティーの全滅と言う悲劇を思い出して、と互いのHPゲージは出現しているにも関わらず戦闘を始められずにいた3人は、奴らから出来るだけ遠ざかろうと下がっていたのにその硬直している間に囲まれてしまったいた。
周りにいるゴブリン達を見回しながらも最終的に背を向けあって別の方向を見ている3人。
その姿を真上から見ると、三角形の形になった少数に大きな円がジリジリと迫っているように見える。
──この数、、いけるか?
そんなことを思いながらソーマも額に汗を垂らし始め、その汗が地面に ──ポタッ と落ちたその時、目の前にいた一番先頭のゴブリン数体に
「サンダーラ」
── バチチチチッ、
「「グルォォォォッ...」」
と、紫色の袖をはためかせ、丁度同じ身長位の大きさで先は円形になっている杖をゴブリン達の方に向かって軽く傾けていた1人の女性が、戦闘の音頭をとった。
「よしっ...行くぞ!」
ソーマは攻撃を食らっていないにも関わらず、その音が身体中に響いた。そして、それが自身の体を鼓舞させた。
「グルルオォォォォ!」
「おぉぉぉぉぉっっ!!」
声を荒げ、勢いよく走り出したソーマの両手にある切れ味のいいナイフが、サクッ、と言う心地いいような音を出して緑色の皮膚から緑色の液体を吹き出さしていく。しかしその液体も、空中に飛び散り少し時間が経った後には黄色い星屑となって消えていっていく。
彼はその星屑を視界に軽く収めた後、またすぐに攻撃を再開した。
それでも流石に数が多すぎて全てを相手にし切れず、一体一体の短いゲージは徐々に減っていって最終的に姿が無くなっていくものもいる一方で、ゴブリンよりも3倍ほど長いゲージを持ったソーマも四方八方からの攻撃をくらっていっていた。
──やっぱり、キツいな...っ!
そんなことを思いながらも何クソ負けるかと言うように必死に両手を動かし、時には跳躍して攻撃をかわしつつもまた切り刻んでいく、と確実に数を減らしていっていると
「ヒーラーっ!」
戦闘の合図をとり、今もなおその杖の先から雷を発しながら、ものすごい数を軽々と消していっている女性とは違う方向から、必死な声と共に緑色の光が送られた。
それはゴブリンの皮膚のような気色悪く少し黒い色をした緑色ではなく、心身ともに安心感を与えてくれるような優しい光。
その光を受けてゲージがグイっと元に戻ったソーマは、体の回復と共にそれが放たれた方向を見た。
「少しずつ数は減ってるから...っ!もう少しだからっ!」
そこには、自分が前に来た時よりも遥かに多い数が出現したことに驚きながらも、何かあった時のためにしっかりと自分の役目を果たそうとする少女の姿があった。
「グゴッッ!」「グリァァァア!!」
そしてそれを見たソーマは、両手に持っていたナイフの片方を閉まい、腰周りのカバーに入っている違う形をしたナイフを片手に二本持って取り出してそれを2体に投げつけた。放ったナイフは2本とも命中。
その攻撃を最後にまたひとつと消えていったゴブリンを見て両手ナイフに戻した後、まだ気は抜けないと両腕がもげる程に速く、的確に振り回しながらもその声を、顔を一瞬だけ垣間見たソーマは口角を小さく上げ、でこう言った。
「よし、やってやるか!」
その声はナイフの切り刻む音で、はたまたゴブリンの鳴き声で、彼女の耳には届いてないかもしれない。
しかし、苦手な攻撃魔法を使いつつも少女は、ソーマと同じように小さく口角を上げていた。




