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ラクリマの群青  作者: 日輪猫
平穏だった日々へ
11/59

No.10 杖を求めて - 1

 


 ──アーロック 第34層


「左の方から、コルコックが3体!」


 ──ザッ、ザッ、、 と何かを切り裂くような音に、──パリン と言うモンスターが消えていく音が重なっていく。


「了解...っっ!」


 先程まで戦っていたモンスターに止めを刺した後ソーマは、アリスの声を聞いて頬に汗を垂らしながら、すぐに逆方向である左方面へとかけていった。



 店を出てから約30分ほど歩いてアーロックまで着き、地面から大量岩がえぐり出ているような入口を抜けてから約3時間。

 つまり3人は、第1層からここ34層である中層まで約1時間と言う好ペースで下ってきている。


 普通、この層まで慎重に下っていくならその倍の時間を要するであろうものを全速力で駆け下りて行っているため無駄な戦闘を避けていることや、ノエルと言う強力な助っ人がいるということが主な理由だろう。


 しかし後者にあげた理由は今のところはほとんど意味を成していなく、アリスによってエンチャントされたソーマがほとんどの敵を倒していた。


 現在相手にしているのはコルコックと言うモンスターで、周辺の岩に類似した姿形をしているものだ。大体複数体で行動しており、単体はそこまで強くないのが特徴だ。


「...おらっ!」


 短くに息を吐き出すのを合図に前屈みに走り出し、それに向かって転がってきたコルコックをかわしながらも両手に構えたナイフで切り刻んでいくソーマ。


 1度すれ違うだけで4つ5つの赤い傷跡が出来たコルコックは、「クゴ、、っ、」という鈍い鳴き声を出し、瞬く間に黄色い星粒へと化して消えていった。


 相手を引き付けては避けて攻撃、避けてはまた攻撃。というまるで闘牛士のようなことを繰り返して3回。コルコックは全てナイフの餌食となった。


 それを見ていたノエルは「私の出番なんて要らないわね」なんてことを思いながら、有り余った魔力でソーマへ回復魔法をかけ、アリスはやっと戦闘が終わったため、背負っていたバックから水筒を出して水分補給をしていた。


「ふぅ...っ。やっぱりエンチャントはいいな。動きやすい」


 ノエルの杖から発せられる緑の光を浴びながら近くの岩に腰を降ろしていたソーマは、自分の体の状態を調べるように手や首を適当に動かしている。

 それを聞きながら──キュッ と水筒の蓋を閉めていたアリスは座っているソーマの方を見て


「力になれてよかった」


 と、柔らかい笑みを浮かべながらソーマが座っている岩の傍にある壁へ体重を預けた。


「アリスの方は大丈夫か?どこか怪我はないか?」


「ううん、大丈夫。ずっと後ろたにいたから」


 冷たい岩に囲まれて、だだっ広い空間の中には他に人はいなく、2人の声が静かに響いた。

 そして、2人が会話をしている間にも緑色の光は出続けていて、それによってソーマのHPゲージは満たんへと戻っていった。


 そうして、どんどん下へと潜っていく。

 もう既にそこは、レベル4の下級プレイヤーが来ていい場所ではなかったが、下に行くにつれてノエルのサポートもあったため、何不自由なく進めていた。


「次が、問題の所か」


 もうレベル7はあるのではないかと言うくらいに他のモンスターを圧倒していたノエルが後半はほとんど倒し、とうとう第38層まで来た頃。

 ソーマは目線の先にある、小さな岩の入口を見ながらそう言った。その入口は第39層 アリスのパーティーが全滅し、グランドムルが出たと言う問題の場所へ続く道だ。

 ソーマのHPが満たんになり、ノエルの回復魔法である緑の発光が消えた時。少し周りが暗くなったことで回復が終わったと気づいたソーマはゆっくりと立ち上がり


「それじゃあ行くか」


 そう言って肩を回しながらその入口へと歩を進めていった。

 それに続いて服の袖付近に杖をしまいながらノエルが着いていき、その後ろをアリスがついていった。


 そのため、入口へ近づくにつれて杖を持つ手が震えるアリスに誰も気づくことはなかった。




 岩のトンネルをくぐり、道を抜けた先は、36層の景色とは一変。とまではいかないがところどころ木が生えていたり草が生えていたりと、ある程度の自然がある場所だった。


 また、地下であるとはいえ明かりも自然もあるため、姿は見えないものの鳥のさえずりなどがたまに聞こえてくる上に、草むらをよく見ると──ガサガサっ と揺れているのがわかった。


「さっきとは違って殺風景じゃないな」


 そんなことを呑気に言っているソーマに、アリスは下がっていた腕を上げ、杖を構えながら小さくこう言った。


「1回下がって」


 それを聞いたソーマは何を言っているのかよくわからず


「どうした?」


 と、確認しようとした。

 しかしノエルは何かを察したのか、ソーマの服を引っ張り少しずつ下がろうとしていった。


 それでも意味は分からないソーマは今度は小さな声で


「何があった?どうしたんだよ?」


 と今度はノエルに確認しようとした。しかしノエルは口を閉じながら下がろうとする。


 ノエルとソーマが下がっていくのと同時にアリスも少しずつ、出来るだけ音を出さずに下がっていく。

 さっきまではすぐ近くにあり、大きく見えた草木も段々と遠く、小さくなっていく。それにつれて、草むらが揺れる音が激しくなっていると思うのは気のせいだろうか。


「私もここに来たのは久しぶりだから忘れていたわ。」


 ノエルは服の裾を離し、今度はしゃがんで何か小さな石を拾い上げようとした時、やっと口を開いた。

 そしてソーマにこう言った。


「さっきの草むらの音は全部ゴブリンが鳴らしていたものよ」


 それを聞いたソーマは一瞬自らの耳を疑った。


「嘘、だろ..?」


 その言葉を聞くとほぼ同時に、ノエルは拾っていた数個の石を左手から右手に移した。

 そして、それらを草むらに投げた瞬間にこういった。


「よく覚えておきなさい」


 ノエルの右手から放たれた石が一直線に飛んで行き、少しずつ下へと高さが下がっていきやっと草むらや木の幹に──コツン と当たった時。


「ソーマは知らなかったでしょうけど、ここ37層はこんな事が起きるって言われているの」


「何が起きる?」


 当たった全ての草木から葉や枝が揺れる音が激しく聞こえ、その音はもはや小動物が出せるような音ではなかった。

 そして次の瞬間。アリスが杖をしっかりとその方向に向け、ソーマは質問をしながらも大体は察しているのか腰周りにあるケースからナイフを取り出したその瞬間───、



「今から起こるのはね。ゴブリンパーティーって呼ばれてるの」



 木の上から、草むらの中から、先ほどのコルコックとほとんど同じ長さのHPゲージが大量に出現し、その数と同じ量の小さな影が「グギャァァァ」という奇声を発しながら飛び出してきた。



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