No.9 準備
ノエルと会ってから店へ向かっている最中
「あなたって、私とは違うタイプなのね」
暗い紫色の服の裾を歩く度にヒラヒラとなびかせながら、ふとアリスにそんな声をかけた。
いきなりそんなことを言われた当人は、一体なんのことなのか理解出来ず、思わず「へっ?」とあほらしい声を出しながらも
「ど、どういうことですか?」
と、疑問を声に出した。
「少し分かりずらかったらかしら」アリスの返答に、そんなことを思ったノエルはその言葉の意図を詳しく説明した。
「だってあなた、どちらかと言うとヒールとかエンチャント専門のメイジでしょ?私は攻撃系のメイジだからちょっと違うじゃない」
しかし、その説明がアリスをまた困惑させた。
どうしてそんなことを知っているのか、話していないのに、そんなことを思ったからだ。
彼女が感じたことを、いや、こんなことをいきなり言われたら誰もが思うことを察したソーマはすぐ隣を戸惑いながら歩いているアリスに答えを教えてあげた。
「ノエルは見たものの情報がある程度わかるっていう変なスキルを持っているんだ」
「ちょっと、変なんて言わないでよね。イレギュラースキルと呼んでちょうだい」
「あ...そ、そうだったんですか」
その答えを理解しても未だ戸惑いつつあるアリスにノエルは「いきなりごめんなさいね」と微笑みながら謝罪した。
スキル。それはレベル5になったら一人ひとりに授けられる特殊な能力で、職業や使う武器などによって変わってくるものだ。普通はほとんどの人が少し便利な同じスキルを授かる。そのため、レベル5以上同士のプレイヤーが戦闘になる場合はさほど差はないのだが、たまに普通のスキル、つまりノーマルスキルではない場合がある。
それが、イレギュラースキル。ノエルが授かっているような普通のものとは違う、特殊なスキルだ。それにはとても強力なものもあれば、逆に普通のものよりも弱い、使いにくいものもある。
因みにソーマはまだレベル4、そしてアリスはレベル3であるため、スキルは授かっていない。
「ほら、ついたわよ」
スキルについて話している間に、3人は店の前に着いていた。
その店は街の中心と言うよりかは裏の方にあり、さほど大きくはないものの玄関横に置いてある植木鉢と看板によって店だと言うことがわかるような外見になっている。
「さぁ、いらっしゃい。リーラへようこそ」
ノエルのその言葉と共にドアが─チリンチリンと音を立てて開いた。
店内には沢山の棚が並び、そこには様々な魔道具が置いてあった。玄関を入ったすぐ横には小さめの椅子とテーブルがあり、1番奥の受付のテーブルの下の棚には色とりどりのポーションが置いてあった。
「すぐに支度してくるから、そこに座ってて」と言いながら受付の奥へと姿を消した言ったノエルを横目に、椅子に座って待っていた2人はやっと一息ついた、と軽くため息をついた。
まだ酒場を出てからそこまで時間は経っていないため、近くにある窓からは優しい光が差し込んでくる。街の中心から少し離れただけでこれだけ静かになるのだから驚きだ。また、それによって奥のポーションも照らされ、キラキラとスノードームかのように美しい姿を見せてきた。
そんなことがあって数分後、店の置くから戻ってきたノエルは格好は変わっていないものの、その背には小さめのバックを背負い、手には2本の杖を持っていた。そして、アリスに少し細長い1本の杖を渡してきた。
「こんなものしかなくてごめんなさいね」
「いえ、貸していただけるだけでもありがたいです」
そうして、アリスは大事そうに杖を受け取った。
「待たせたわね。それじゃあ、行きましょうか」
「あぁ、手っ取り早く終わらせよう」
そうして3人は地下迷宮ダンジョン アーロックへとドアを開けて向かって行った。




