#19 巨獣の力を得た民族
その頃、ユミルでは巨獣同士の争い事が起こっていた。私は能力大戦争ばかりに気を取られ、他の星を疎かにしてしまったのだ。
巨獣たちは殴り、殴られ、殺し合いという入り乱るような戦場を繰り出していた。しかも、目的などはなく、ただ理性を保てなくだけの理由なのだ。
やがて、ユミルは大規模な戦火に包まれ、神である私でさえもて余すほどまでになっていった。
何とかせねばと私は思った。そこで、争いをしている理性を失った巨獣たちへ直接雷を落とした。黒い雷を。それを受けた巨獣たちの体は腐っていき、やがて骨となった。湯気のようなものが、のろしのように高くへと上る。
その骨と骨の間からなんと人間が現れた。私の雷により、彼らの脳は退化しており、簡単に服従させることが出来たのだ。私は思いも寄らぬ結果に驚きながらも、全てを言い聞かせた。
私には逆らわず、必ず従うこと。私はこの世界を造り出した神であること。彼らが私によって生み出されたこと。などなど、様々なことを教えた。彼らはこれをあっさりと受け入れ実行を始めた。
それから、また数百年が経ち、ソイツらは知恵をつけ、一部の教えを知らずに、知っていても従わない者もいた。だか、最高の教えである、私に対する絶対服従に逆らう者は全くいなかった。
私はそれを見て、他の彼らの行動を黙認し、さらに、いつでも巨獣になれる力を与えた。なれる巨獣は雷を落とす前の巨獣である。
私はなれる巨獣ごとに民族名を決め、ユミルの支配区域を均等に分配することにした。
上層では、中央かま蜘蛛になるアラクネー族、北が蟷螂になるエンプーサ族、西が蝿になるベルゼブル族、東が蝶になるプシュケ族、南が飛蝗になるアバドン族。下層では、中央が蟻になるミュルミドン族、北が蝦蛄になるシヴァ族、西かま甲になるヘラクレス族、東が鍬形になるギルガメシュ族、南が百足になるナーガ族という風に。
私は彼らが自分に逆らわないと確信していたので、自治を認めた。すると、彼らは同じ民族同士で大きな村を造り、必要とあらば、全民族の族長が集まって議会を開き、巨獣となっては侵入者を追い払った。




