4)三島が上田家にまつわる呪いについて物語り、童貞の持つ魔力について議論が為される。
高速に入って最初のサービスエリアで、三島を起こす事になった。
このまま寝かせておく方が面倒がないのだが、彼女は結局ジョッキ4杯もビールを飲んでいるから、別の意味で心配だったからだ。
行ける所まで、一気に距離を稼いでしまうという選択もあったが、うみほたるSAなんかだと、混み合ってて駐車に困る可能性がある。
案の定、車をパーキングに停めると、彼女はそそくさと車から飛び出して行った。
程なく彼女は元気いっぱいに戻って来ると
「守役諸君、絶妙の采配だったね! トイレが混んでいたらアブナイ処だったよ。」
と明け透けに報告してきた。酔いは醒めてるようなんだけど……。
川口が
「姫様、それは何より。でも俺らは三島みたいな美女もしくは美少女には、夢と希望を持ってるんだから、もうちょっとオブラートに包んだ表現にしてよ!」
と文句を言う。
三島は車に乗り込みながら、ちょっと不思議そうに
「自然科学を志す者は、有るべきものを有るべきままに、評価し受け入れる様な気がしてたんだけどなぁ? 殊に非科学研の、特にキミたちトリオには。」
「それは買いかぶりだよ。」井村が若干たしなめる様な調子を交えて返事する。「これは俺の独断と偏見に満ちた意見なんだが、医・薬系の学生は別として、普通の理系の男ってのは生物系まで含めても、女性の生理現象その他に関して、知識としては充分認識していても、実感としては、女性はお花畑の夢の存在なんだよ。まあ、中には姉や妹がいるとか、女性とは何ぞやという事に関して経験豊富なヤツもいるだろうし、俺たちの場合が特にヒドイのかも知れないから、『普通の』って一般化するのは卑怯かも判らないけど。」
「そう、そう。」川口が車を発進させながら、深く頷き「『俺の感情は誤解と偏見のシロモノなんだ!』って判っていつつ、その幻想を追っかけて、楽しんでいる拗らせた自分に気が付くとか、有りがちな事態だよな。」
「気付いた時に、どうするの?」三島が興味津々といった様子で訊ねてくる。
川口は「静かに受け入れるか、七転八倒するか。まあ、その時によるね。」
井村は「俺なんて精々そんなもんだって、諦観してるかな?」
この三島の問いには答え辛かったので、俺は黙っていたんだが「あなたは、どうなの?」と矛先を向けられてしまった。
「自分が普通だと思ってた。拗らせている事に、気が付いてさえいなかった……。」
「ああ! 何て事なの。自覚症状のある川口君や井村君はともかく、キミはかなりの重症だよ?! 石坂洋二郎の『光る海』とかから学習し直さなきゃ!」
「石坂洋二郎って『青い山脈』書いた人?」
「そう! 下手に村上春樹なんかに向かったら、余計に拗らすから! ……いや、それより短期集中講座の強化合宿すべきだわ!」
三島は怒っている訳ではないけれど、かなりエキサイトはしているようだ。
何とはなしに『月は無慈悲な女教師』というハインラインのSFの題名を思い出す。まあ、『女教師』は直訳で、よく知られている翻訳邦題は『月は無慈悲な夜の女王』なんだけど。
三島は高いテンションのままに
「さっき、また皆で海に来ようって話になったけど、あれを大洗海岸キャンプ場での、キャンプ合宿という事にします。指導教官ならびに訓練教官は私です。不安だったら、弁護士兼介添え役に谷口さんも招へいしなさい。あなたたちが頼み難いと言うのなら、私が彼女に頭を下げますから!」
川口がハンドルを握ったまま、ぐわっと仰け反って
「えええ! また水着姿を見せてくれるんじゃなかったの?! それだけが当面の生きる糧だったのに。」
「大洗には海水浴場も、ちゃんと有ります! 心配しないでヨロシイ! こうなったら、谷口さんにも水着になってもらいます。あなたたちが拗らせてしまった原因の一端は、彼女にも責任が有ります。」
二人の水着姿が見られるならば、こんなに嬉しい事はないけれど、実現したとしても薄氷を踏むようなややこしい事態になるのは目に見えている。
それに谷口は、絶対水着になんかならないだろうし、仮に、二人ともが水着姿になったとしても、どちらが選り優れているか評価せよ、なんていう事に陥ったら地獄だ。
いや、天国に最も近い地獄か。
「大洗近郊には、那珂川を挿んで那珂湊の市場が有ったよね?」井村がひょいと口を挟む。「確かカニの味噌汁が名物だったような記憶しているけど。」
困った時の食べ物話題か。しかし、そう何度も上手くいくかな? お腹もくちくなっているし。
でも三島は律儀に乗って来てくれた。
「カニ汁なら大洗にも有るわよ。海鮮丼も、千葉に負けないよ?」
「あの辺りだったら、ヒラツメガニなのかな?」俺も記憶を動員して、慌てて口を出す。「それともワタリガニ?」
大洗や那珂湊には行った事が無いが、霞ケ浦と牛久沼にはブラックバスを狙って遠征した事が有る。
その時読んだ茨城県の釣り場ポイント集には、確かそんなターゲットも載っていたはずだ。
「うーん……。名物にしている店が出しているのは、ズワイガニかベニズワイだったと思う。昔はワタリガニに似たイシガニやヒラツメガニを使う事もあったみたいだけど、安定供給のためには漁獲に左右されず、確保しやすいズワイになったのかもね。元は鹿島灘はヒラツメガニの名産地だったのだけど。あと、美味しいカニといったら、モクズガニと言う川ガニも外せないよ? 値段の高い上海ガニと同じものだから。」
やっぱり美味しいモノの話は良いみたい。三島も次第に沈静化してきたようだ。
「おれは江戸っ子だけど、ヒラツメガニって食べた事無いんだよ。通称エッチガニって言うんだろ? ぜひ一度食べてみたいんだけどさ。」川口も調子を取り戻してきた。
でも、せっかく沈静化してきた処で、何て無謀なこと言うんだ。受け取り様にとっては、かなり問題視されてもおかしくない発言じゃないか!
しかし、食の探究者と変じている三島はブレない。
「エッチガニの由来は、甲羅にHの模様があるからよ? 種類はガザミの仲間だから、ワタリガニに似ているかな? 多少クセがあると言う人も居るけど。網に魚のアラを詰めて投げ込む、変わった釣り方をしている人は、見かけた事があるよ。今でも釣れると思うよ。」
「三島、大洗方面に詳しいみたいだけど、その辺りの生まれなの?」
考えてみると、俺は三島の個人情報って、ほとんど知らないんだよ。
「悪かったわね。もっと内陸の方だけど。I・B・Mよ。」
怒っているような口ぶりだけど、これは特に気に障ったというのでは無しに、ちょっと照れての返事のようだ。
なんだろう、茨城ではお約束の返しなんだろうか?
「アイ、ビイ、エムって何? まさか某企業の事じゃないんだろ?」
「知らないのは、お前が富山の田舎者だからだよ。」自称、江戸っ子の川口が偉そうに言う。「昔、常陸の国に佐竹って大名がいて、関ヶ原では西軍に付くんだよ。それで負け戦の後、秋田に転封を命ぜられるんだが、ヤケクソで常陸の美人は全部、秋田に連れて行ってしまったというのさ。これは、事実に基づかない笑い話なんだけど、北関東ではマコトシヤカに語られていた都市伝説でね、『茨城・ぶす・ムスメ』の頭を採って、I・B・Mなのさ。」
俺が「茨城県って、そんな事、言われてるのか?!」と驚くと、井村は「そう言われているらしいのは事実だが、川口が言っていたように、内容は事実じゃないし、茨城には美人は多いんだよ。また、仮に江戸初期に当時の美人が絶滅したとしても、今は江戸時代とは美的感覚が違っているんだから、俺たちが浮世絵の美人画見ても、あんまり美人だとは思わないのの裏返しで、美人ばっかりだと感じても不思議は無いだろ。現に、前に綱火を見に行った時にも、浴衣姿の美人ばっかりだったじゃないか?」
「そうだったね。だからI・B・Mとか言われても、ピンと来なかったんだよ。」
綱火というのは、花火を仕込んだ人形を紐で操る、人形浄瑠璃みたいなもので、俺にとっては関東に出て来たらぜひ見ておきたい物の一つだった。
何故ならば、都筑道夫の傑作『七十五羽の烏』に登場するからだ。
『七十五羽の烏』はミステリファン、それもクラシック・パズラーファンだったら絶対に外せない作品で、綱火はこの「瀧夜叉姫の呪い」をモチーフにした小説に、重要な小道具として登場する。
だから、つくばのお祭りで綱火が観られるというのを調べて、去年井村と勇んで出掛けたのだ。
日本の特撮映画には、操演といって模型を精緻に操る技術が見事な作品が多いけど、源流はこれだねぇと感心した記憶が有る。
「滝夜叉姫」は、平将門の娘とされる人物なのだが、『七十五羽の烏』の中では「瀧夜叉姫」表記で登場する。
これは、司馬遼太郎が坂本龍馬を『竜馬が行く』の中で、龍と竜を使い分けたのと同じ理由だろう。
「『七十五羽の烏』っていうミステリは、怠け者の主人公と切れ者の助手が経営する心霊探偵事務所に、瀧夜叉姫の呪いにまつわる事件を解明して欲しいという依頼が持ち込まれる処から始まるんだけど、依頼者役のヒロインが、どこか三島っぽい美人なんだよ。」
世の中パズラーファンばかりという訳ではないから、俺が怪訝そうな顔をしている三島に、小説の発端部分を説明する。
「滝夜叉姫伝説は、下総つまり千葉県北部が舞台じゃなかったっけ?」三島が、あれっ? という感じに疑問を口に出す。「京都の貴船神社で丑の刻参りの元祖になって、大暴れするのは下総国。茨城にも将門ゆかりの社やスポットは多いけど。」
「うーん……。小説の舞台は、どっちだったかな? 綱火を観たのがつくばだったから、茨城だと思い込んでたけど。」
これは俺の勘違いかもしれない。ただ、俺は主役級に茨城美人を据えた名作も有るよ、と言う事が言いたかっただけなんだが、ハワイアンセンターを舞台にした映画を例に挙げた方が良かったのかな?
井村はどうかと見ると、「俺も場所の設定は、あやふやだな。フェアプレーのパズラーが読みたかったから読んだのであって、聖地巡礼するつもりで読んだわけじゃなかったから。でも文庫本の後書きだか解説だかに、茨城の綱火を参考にさせてもらったが、演目は創作だ、みたいな事が書いてあったような気がする。小説の舞台は、下総じゃないかな。」
うーん……。千葉県北部の方が有力か。
しかし、三島は予想外の喰いつき方をしてきた。
「その小説で、滝夜叉姫の呪いは、どんな風になってるの?」
「ええと、古い一家に纏わる言い伝えで、『瀧夜叉姫を見ると死ぬ。』もしくは『死ぬ前には瀧夜叉姫を見る。』という内容だったよ? 作中では、江戸期までの記録はあやふやだし、明治期から終戦までは何度も戦争や大災害が起きているから、若死している例があっても別に呪いとは言えないんじゃないか、という分析をしていたようだけど。」
「そう……。」
なんだろう? 三島の様子が、ちょっと変だ。
井村も上半身を、ぐっと後席に向けて
「三島? どうした?」
三島は、何でもないから気にしないで、と言うのだろうと、頭の中では思っていた。
でも、彼女はポツリポツリと、胸の内を語り始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・
私には、親戚にあたる同い年の幼馴染がいて、小さい時からその子の許嫁として育てられてきたの。
今時そんな馬鹿馬鹿しい決まりごとがあるなんて、嘘か冗談としか思えないかも知れないけれど、本当なのよ。
その子の家は、名門の旧家とされていて、ウチの本家筋に当たるのだけれど、男性当主は若くして死ぬという言い伝えが、連綿と残っているわけ。
なんでも昔の飢饉の時に、村を襲おうとした流れ者に、むごい仕打ちをした名残と聞いたことがある。
いや、聞いた事が有るなんて生易しい話ではなく、繰り返し刷り込まれてきたの。
他の村では、土一揆が起きて武力鎮圧されたり、住民が大量に逃散して集落ごと消滅したり、餓死者の骸がそこいら中に転がっていたり、酷い状況だったらしいの。
噂では、死人の肉の貸し借りさえ行われていたらしい。
だけど、当時の村長が清濁併せ呑む切れ者だったのでしょうね、気候の変動を感じ取ると、飢饉が本格化する前から、金品を袖の下にして年貢の減免を図ったり、救荒作物の種を手に入れて作付けを増やしたり、雑草までも乾燥して粉末にして蓄えたり、蛇や蛙まで保存用の乾物にしたり、ありとあらゆる手を打ったわけ。
村の器量の良い娘を、無理やり有力者の伽に出すような事も、していたらしいわ。
本格的な飢饉前までは、「食うにも困った貧乏村」と馬鹿にされていたのだとか。
その時には村長は、彼が何を心配しているのかが分かっていない村の者から、当然ひどく恨まれていた。
だが、村長の懸念どおり、飢饉はやってきた。
その悲惨な状況が明らかに成ればなるほど、着々と準備を続けていた村長は、手のひらを反すように皆から感謝された。
だから、不作が続いて社会全体が混乱し出しても、何とか餓死者を出さずに持ちこたえていたのだけれど、皮肉にも「食い物がある裕福な村がある。」という噂が立って、物乞いが集まって来るようになってしまった。
飢えた人たちに食糧を分け与えていたら、共倒れになるのは目に見えている。
だから、物乞いには邪険にして追い払っていたのだけれど、流民の方も切羽詰まってきて、村を襲って食べ物を奪うと、話がまとまったの。
流民の数は、五十人程にまで膨れ上がっていたらしいわ。
「食い物がまとめてあるのは、村長の屋敷の倉に違いない。手荒な事はしたくはないが、生きるか死ぬかだ。食い物を奪うべし。歯向かわれたら、手にかけても仕方あるまい。」って。
だけど、流民から内通者が出て、今夜村を襲う計画がある、と言ってきたわけ。
流民の多くは空腹でろくに動く事も出来ず、襲撃に加わる元気の有る者は、せいぜい半数に満たない二十人足らずしかいない、という情報まで添えて。
内通したのは、十歳ばかりの娘を連れた、まだ若い男だった。娘が男の妹や縁者に当たるのかは判らない。
ただ、男は「内通の褒美に、この子に何か食わせてやってほしい。」と頼んだのだそうね。
村長は役人の下に使いを走らせる一方、一計を案じて、保存していた雑草粉末に、麦粉をほんのちょっぴり加えてから、こねて蒸かし、団子を作ったの。
そして、門前に台を置いて団子を並べ、人数を集めて夜を待ったの。
月が登ると、餓鬼の様に骨と皮ばかりになった流民十数人が、ヒタヒタと押し寄せて来たそうよ。
でも門の前の団子を見ると、襲撃する気も飛んでしまい、矢も楯もたまらず団子に齧り付いたそうなの。
きっと極限まで飢えていたのでしょうね。警戒するという理性も無くなってしまうほど。
勝敗は、一瞬で決したのだとか。
曲がりなりにも腹に物を入れている者たちに、空腹の流民が不意を打たれて敵うはずも無く、あっという間に棒で打ち据えられてしまった。
翌朝役人がやって来るまでの間、咎人と化した流民には、薄い雑穀の重湯が振る舞われたらしいけど、引き立てられて行く間際に村長に向かって
「自らの罪は罪として、干し草の団子を喰わされたのが、口惜しい。我が恨みの深さ、思い知るがよい。」
と、それぞれ呪いの言葉を吐いたのだとか。
村長は彼らの恨みつらみに臆せず、言い返したの。
「手加減したのが、かえって仇になった。あのまま呪うひまを与えずに、打ち殺してしまえばよかったか。恨むならば世を恨め。それで足りねば、ただこのワシを恨め。村の者に何の罪咎があろうか。」って。
咎人どもにも、理は村長の方にあり、村を呪うのは八つ当たりだと言う事は解っていたのね。
世の中に食い物が無いのは、村のせいではないのだもの。
それで「では、お前の家には跡継ぎが育たぬようにしてやる。ただし、重湯の礼に女子供には手を出さぬ。」と言い残して連れて行かれたのだそうよ。
連れて行かれた咎人たちは磔にされ、襲撃に参加しなかった流民は追い散らされた。
追い払われた人たちが、どうなったかは判らない。たぶん、助からなかったでしょうね。
内通した若者は、村に留まる事を許されたのだけど、自らの行いの業の深さに悩み、磔になった者たちの菩提を弔うと言って、娘を村長に託すと、何処へか去った。
娘は村長の家で育てられたのだそうだけど、村長の家では程無くして惣領息子の長男が病死。
この時にはまだ、呪い云々(うんぬん)と恐れられる様な、奇異な状況ではなかったみたい。
人が簡単に死んでしまうのが、ちっとも不思議ではない世の中だったから。
だけど、思うところがあったのか、村長は次男を新たな惣領に据えると、まだ子供が無かった長男の未亡人を次男の嫁とした。
そして、育てていた流人の娘に新しく家を興させて、まだ娘が幼いにもかかわらず、婿養子として末の息子である三男を婿入りさせたの。
耕作地を分割するのは、「田分け」として愚かな行為とされていた時代だけれど、新しい家を興すのも婿入りの件も、問題無く事が進んだみたい。
村長の手腕は信頼を得ていたし、荒れ地になった耕作放棄地を新田として再開発するため、という名目もあったし。
もしかしたら、切れ者の村長のことだから、あちこちに鼻薬も利かせていたのかも知れない。
そしてこの事は、村長の行った『実験』でもあったの。
惣領になった次男は、嫁に迎えた嫂に子種を残すと、兄同様に病死してしまった。
生まれた子供は、女の子だった。
耕作は小作人に任せられるから、嫁が家長になっても構わないけど、村長の家系は名目上男系が絶えた事になる。
一方、婿に出した三男は、娘との間に子が生まれても、元気なままだった。
村長は、三男を再び本家に呼び戻す事はせず、別の家系のまま分家筋として残し、本家の女の子には婿をとるよう言い残した。
この決まり事がその後も残り、本家筋は男子は婿か養子に出し、女子に婿をとるという家に成ったわけ。
だけど長い時代の間には、本家筋に男児しか生まれない事も有ったのね。
その時には、本家の子を分家に養子に出し、分家の子を本家の惣領にしたの。
でも、本家に男児しか居らず、分家に女児しかいない場合には、分家の娘が本家に嫁入りするしか無かった。
男児が家を継ぐと若死にする、名門だけど呪われた言い伝えがある家だから。
でも、そこまで血に拘るならば、分家の娘を本家の惣領にして、外から婿養子を貰えばよいと思うのだけれど、名家の血筋の問題やら財産の相続やら、つまらない問題を声高に叫ぶ親戚たちがいたのでしょうね。
もう分かったと思うけど、私は分家の一人娘なの。
そして、許婚の相手は、本家の一人息子。
私が本家に嫁に行ったら分家を誰が継ぐのか、養子を送り込みたい親戚筋の間では、早くも様々な動きがあるみたい。
それどころか、私が未亡人になった後の、婿入り養子の候補者選びまで始まっているらしい。
本当に馬鹿みたい。
・・・・・・・・・・・・・・・
三島の話が終わっても、しばらくの間は誰も言葉を発しなかった。
三島が『心霊スポットで、怪奇現象なんて起きない事』の実証に、情熱を燃やす、想いの深さが、ようやく少しだけ理解出来た。
そう、少しだけ。
よく分かった、なんて言葉を、のほほんと生きて来た俺が、安易に使って良いはずがない。
きっと、脳髄からボタボタ滴り落ちる様な物凄い葛藤を、彼女は抱えて生きて来たのだろう。
彼女が子供の時に読んだ、福沢諭吉の少年時代のエピソードは、彼女を支える希望だったのに違いない。
つまらない迷信に振り回される馬鹿な大人たち。
呪いで人が殺せるような、不思議な力など、この世には無い。
無い。
ナイ! ナイ!!!
幼い日の三島の叫びが聞こえてくるようだった。
・・・・・・・・・・・・・・・
最初に沈黙を破ったのは井村で
「今朝、俺たちに警告をしてきた眼鏡の男性は、三島の許婚だね?」
特に気負ったところの無いトーンで、彼女に尋ねる。
「そう、上田君。 上の田んぼでカミタよ。字面だと、ウエダとよく間違えられる、って言ってる。元々は土地神様に供える稲を作る家だったから、神の田んぼのカミタだったのかも知れないけど、恐れ多いと上の田んぼにしたのかも。」
三島も普通の調子に戻って、返事をする。
俺は彼女が、巫女のバイトをした事があると言っていたのを思い出し
「じゃあ、三島が巫女さんやったっていうのは?」
「キミの思った通りよ。高い倍率を勝ち抜いて掴んだバイト、というわけではないわ。ちゃんとバイト代は貰ったけどね。」
川口はちょっと軽めの口調で
「三島だったら、普通にオーディションやっても、一発合格だろ。現に大学でも準ミスじゃん? でもその神社、神の田んぼというのなら、神田明神と何か関係があるの?」
「さあ? どうだろう。古い土地神様で、いつからか八幡様になっているけど。特に神田明神にも、平将門にも関係が有るような話は、聞いた事無い。私が巫女役をやったお祭りも、日本中どこでもやっているような、普通の収穫祭だったよ。巫女役も、近所の女の子がするというだけの事で、三島の家がずっと担当していると、いうわけでもないし。」
そうか。三島が『神の妻』に選ばれたから、というのではないのだな。
「その上田君が、わざわざ警告してくれた理由は」井村は、フゥと息を一つはくと「三島が命を狙われるような差し迫った危機にあるとか、三島の正体が実は鎧武者で、隙を見せると襲ってくるぞとかいうような、剣呑なものではないんだね?」
「なによ、それ?!」三島は噴き出して「私とあんまり親しくしてるのが親戚筋に知れたら、興信所を使った身辺調査なんかされて、あなた方が不愉快な目に遭うかもしれないからって、心配したのでしょう。」
「それならそうと、言ってくれればいいのになぁ。」川口がぼやく。「今日だって、一緒に来れば良かったのに。」
「この車じゃあ、五人乗れないだろ?」と俺が言うと、ヤツは「お前か井村のどっちか一人を降ろせばいいだろ? 特に大勢に影響はないよ。」と澄まして答える。まあ、そうだけどさ。
「でも、三島には親衛隊が付いているんだろ? 興信所の調査員の数が、足らなくならないか?」
俺がつまらない事を、ちょっとだけ心配すると
「何の都市伝説よ! 全く。」と憤慨されてしまった。
「準ミスになったから、言い寄って来る人も確かにいたけど、『誰にも内緒にして欲しいけど実は婚約してます。』って言ったら、皆さん素直に納得してくれたわよ。男性の友達も居るけど、親衛隊なんて言ったら失礼に当たるわ。そもそもミスコンに出たのも、出場者が足りなくて、上田君が実行委員会に泣き付かれたからなのに!」
なんだ、なんだ? 三島が婚約してるというのは、ある程度公知の事実だったのか!
「うーん……でもキミが、都市伝説を真に受けたのも、私が『婚約してますっ!』て、もっとミスコンの時にPRしていなかったのも悪いのかな……。あの阪本事件を調べている時には、加藤さんに手伝ってもらったのだけど、私があまりに加藤さんを連れ回すものだから、加藤さんの彼女が腹を立てちゃって……。」
大男の加藤氏、彼女持ちだったのか!
「なにビックリしてるのよ。すごく可愛い人だったよ。……それで、彼女さんの所に謝りに行ったのだけれど、上田君にも付いて来てもらったのね。そして『田沼時代後期と天明の大飢饉について、どうしても調べたい事があるので、加藤さんに手伝ってもらってます。』って、上田君と一緒に頭を下げたら、納得してもらえたの。二週間くらい前だったかな?」
「なんだか自分が軽挙妄動タイプだって、改めて思い知ったよ。我ながらバカだなあ。」
俺が自分の頭を二発ばかりグーパンチすると、三島はちょっと笑って
「私も、ガサツでオッチョコチョイだからなぁ。もっとオシトヤカに振る舞わないと。」
「でも、許婚が優しい上田氏で良かったね。」井村が穏やかに言う。
「上田君は、優しくて、真面目で繊細でね。」三島が優しい声で返す。
「しかもイケメンだ!」川口が後を引き取って叫ぶ。「なおかつ三島みたいなイイ女が許嫁の彼女だ! それに引き換え、俺たち三人……いや俺を除いた二人ときたら!」
「でもね、彼も、あなたたち三人と同じく、コジラセ組なのよ。」
はあ? 三島がいるのに?
いや、許婚がいたからって、結婚までは純潔でって約束している恋人同士はいるだろうから、それは良いんだ。
俺がびっくりしたのは、三島が上田氏の事を、コジラセ組に分類した事なんだ。
二人で決めた約束だったら、拗らせたとは言えないだろう?
「キミはさっきから、驚いた顔ばかりしてるねェ。」
「いや……だって、三島はオカルト否定の立場だろ?」
「私は一貫して、幽霊なんかいないし、呪いの力が何かをするなんて有り得ない、と確信してます。」
井村が、おやおやという感じに「心配しているのは、上田氏の方か。こんな良い彼女がいるのにモッタイナイ。」と笑ったが、直ぐに続けて「どうせ彼も、呪いなんかを信じているわけではないのだろうけど、学生身分でお目出度になったりしてしまったら、親類縁者が大騒ぎになるからって、自制してるんだろう? あるいは式を挙げるまでは、清いままの三島でいて欲しいというロマンチストなのか。」
川口は標識に目をやって、パーキングエリアの車線にハンドルを切りながら
「三島みたいな婚約者がいるのに、ガマンする道を自ら選んだのなら、それはそれでイバラの道だな。でも、妊娠には早すぎるというならば、ちゃんと気を付ければ問題ないだろうと思うけどね。呪いが気にかかると言っても、上田氏も三島と同い年なら、成人式は過ぎているだろう? 子供じゃなくなっても、ピンピンしてるじゃないか。昔だったら、元服は15歳だぜ? 三島を後家さんにしたくなかったって言ったって、もう呪いも何も関係無いよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・
車を停めると、三島と井村は直ぐに降りた。
俺と川口が車に乗ったままなのを見て、三島が「二人は、行かないの?」と聞いてきたが、川口が
「お二人と違って、俺らはビールをガバガバ飲んだわけじゃないからね。エンジン止めてエアコン切ったら、車内はあっという間に灼熱化しちゃうから、コイツと交代でストレッチでもしながら、留守番してるよ。」
三島たちがトイレに向かうのを見送ると、川口が
「船長に連絡入れるなら、今の内だぜ。5時前には帰り着くとは思うけど、余裕を見て6時ってしておけば、大丈夫じゃないかな?」
谷口に『PM6 帰着予定です』とショートメールを送ると、即座に電話がかかってきた。
『谷口、いろいろゴメン。約束守れなかったよ。でも、海水浴はちゃんとしたよ。』
『いえ、なんだか大変そうですね。今電話大丈夫ですか?』
『三島さんはトイレに行ってるから。』
『それでは、帰り着いてからお会いしましょう。昨日の甘味屋さんでいいですか?』
『了解。三島さんはどうしたらいい?』
『一緒に来ていただけたら、よいのですが。なるだけ強く、誘って下さい。』
『わかった。やってみる。』
『皆さん、保険書のコピーは?』
『何時もの屋外活動同様、持ってきてるけど……。』
『良かった。 それでは夕方に会いましょう。』
「船長、何て言ってた?」という川口の質問に
「6時に駅の近くの甘味屋さんに集合。三島も連れてこいって。」と返し、「保険書のコピーを持ってくるよう言われたけど、どういう意味だろう? やっぱり谷口は、A沼の悪鬼の正体を何かの病気と疑っているんだろうか。」
「船長には、三島が調べた阪本狂死事件の詳細情報はインプットされていないだろうから、A沼の祟り全体を俯瞰した上での考察なんだろうね。『聖アントニウスの火』とは違う解釈が出ても、不思議じゃない。上田氏の村の事件の話を聞いた時、飢饉の時の備蓄食糧が麦角菌汚染されていたと、以前から三島は疑っていたんじゃないかと思ったな。物乞いにこっそり食べ物を分けてやった村人がいたかもしれないし、そうであれば両者ともが精神的に不安定で、衝突になってもおかしくないから。そんな下地があって、三島は阪本事件の原因を麦角アルカロイドと考えたんじゃないかな。でも、飢餓はただそれだけで、人と社会を不安定にするんだけどね。二人の掴んだ情報を照らし合わせたら、どうなるか興味深いね。」
・・・・・・・・・・・・・・・
車の窓が軽くノックされたと思ったら、ドアを開けて井村が入ってきた。
彼は、ほれコーヒー買って来たぞ、と川口と俺に一本ずつ、ブラックの缶コーヒーを、差し出して
「谷口に連絡取ったか?」と聞いてきた。
川口が、コーヒーのスクリューキャップを開けながら
「6時に駅前の甘味屋だ。三島も一緒にってさ。」
井村は、そうか、と頷くと
「さっきの上田氏の件だけどな、元服すれば大人扱いっていうのは、確かに一般的だったんだけど、地域や時代に依っては、子作りをして初めて大人って解釈する場合も有ったんだよ。童貞や処女には霊力が宿ると考えられていた事を含めて。極端な例だと、子作りする前に亡くなったら水子扱いって事もあったんだ。」
「霊力が宿るっていうと、『30歳過ぎても童貞だったら、魔法が使えるようになる』って言うね。」川口がコーヒーを飲みながらぼやく。「あの変な都市伝説は、細川政元が原因なんだろうけどさ。」
細川政元は、足利幕府の第十代将軍 足利義材を追放し、第十一代将軍 足利義澄を擁立した実力者で、「半将軍」と恐れられた人物だ。
ただ、かなりの変人で、飯綱権現を信仰して空を飛ぶ魔法を習得しようとしていたと言うから恐れ入る。
魔法の習得のためには、童貞である事が必要不可欠と信じていたため、生涯童貞であったそうだ。
当時の室町幕府関係者の間では、政元は本当に空が飛べると思われていたようだが、最期は風呂場で暗殺されている。
「日本だけじゃないぞ。ゲルマン人の間でも、童貞期間が長いほど力強く丈夫に育つと、信じられていたんだ。」井村が、どうでもよい情報を追加する。「『ガリア戦記』に書いてあるぞ。」
話がまとまらない方向に広がって行く気配を感じた俺は、
「とにかく、話を元に戻すと、井村としては『上田氏は、自分が呪いで死んでいないのは、童貞であるためだ。』と考えている可能性がある、と言いたいわけだな?」
井村は、「おお、それそれ。」と応じ、「三島はさっきの話の中では、村のリーダーを『むらおさ』って言っていた。名主とか庄屋とかみたいに、ある程度時代や場所が特定されそうな名詞は、意識して避けたんだろう。田分けの話が出たから、鎌倉時代よりは後くらいの事しか判らない。江戸期だろうとは思うんだけどな。」
鎌倉幕府の時代には、所領は男女の別無く平等に分配相続されていた。
一見、良さそうに見えるけれど、一家当たりの収入はどんどん低下するから、御家人の窮乏を招く事になった制度だ。
また、戦国時代が終わって刀狩りが完了し、身分制度が固定化するまでは、武士イコール武装農民だったので、江戸時代前であったなら、上田氏のいた村を流民が襲った事件は、土豪対野武士の小戦であり、刀槍の戦闘になっていたはずだ。
「俺は、三島が天明の大飢饉と田沼時代末期の話をしていたから、単純に上田氏の先祖の事件は、天明の飢饉の頃の常陸の国の出来事かな、と思っていたけど、考えてみたら別の飢饉の可能性もあるんだね。」
俺の発言に井村は一つ頷くと
「江戸時代だけでも、地域や影響の大きかったものだけで、四大飢饉が有ったからね。政策も時の中央政権の政策として、救荒作物としてサツマイモの栽培を奨励したみたいに理に適ったものも有ったけど、逆にソバの作付を禁止するような、変な政権も有ったから。地域限定の飢餓だったら、範囲も時期も、もっと絞るのが難しいだろうな。だから、事件の場所も年代も特定出来ない以上、村長と咎人が呪いの取り決めを行った時、『子供』をどう定義したのか判断出来ないんだ。まあ、何年の何村の出来事です、って言われても、民俗学の知識が無いから、分からないのは一緒なんだけど。」
「それはともかく、」と井村は、拳骨で自分のこめかみをグリグリ押すと、「人間ってのは周りに流され易い生き物だからな、三島がいくら反オカルトを頑張っても、上田氏が三島の言い分を信じ切れるかどうかは、彼次第だ。三島と同じく、反オカルトだったら良いけれど。でも、上田氏は言い伝えを繰り返し刷り込まれているはずで、三島とにしろ他の女性とにしろ、結ばれたら死ぬかもしれないと悩んでいるのだったら、三島と上田氏は、ずっと平行線のままになっちゃうぞ。」
「悩んでいるだけじゃ、ないかもしれない。」俺は嫌な予感が頭をよぎった。「呪われた血筋を、自分の代で終わらせるとか妙な事を、真剣に考えてたら……。」
「『上田君は優しくて、真面目で繊細』か。三島は彼の事、そう評価していたな。」 川口は、飲み終えた空き缶の処分にちょっと迷っていたが、グローブボックスに放り込んで「でも、冷たい言い方になるけど、それは三島と上田氏の問題で、俺たちがとやかく口を挿める問題じゃないだろ? 理由は違うけど、吉田松陰だって生涯童貞を貫いたし、今は思想信条の自由が認められている世の中だから。」
「それはそうかもしれないけど、三島の気持ちはどうなるんだ?」井村はちょっと語気を強めて「与謝野晶子が与謝野鉄幹を詠った和歌があっただろ?」
川口は井村の指摘に、「『柔肌の あつき血潮に 触れもみで』か……。」と、『みだれ髪』にある有名な和歌の上の句をつぶやいた。
「でもな、井村。」川口は少し熱くなっている井村に対して、いなすような口調で「高村光太郎の詩には『僕の前に道は無い 僕の後ろに道は出来る』っていうのがあるよ?」
井村もさすがに少し笑って「そりゃあ、確かにドウテイだけど、漢字が違うだろ。道の過程の『道程』で。」
「だから、上田氏も自分一人で突き進むか、三島と手を携えて突き進むのか、どちらにしろ自分の道は自分で切り開くしかないのさ。……この話は、ここまでにしよう。そろそろ三島も戻って来るだろ。」
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三島は戻って来るなり、俺が手にしている缶コーヒーを目敏く見つけ
「あ、コーヒー飲んでる。いいなぁ。」と言った。
「まだ口を付けていないから、どうぞ。少し温くなっているかも知れないけど。井村の差し入れだから、礼ならヤツに言って。」
「井村君、ありがと。キミもありがとね。お茶かコーヒー飲みたいと思ったんだけど、またトイレに行きたくなったら困るし、どうしようか迷ったんだ。全部飲むのはアレだから、半分貰うね。」
「わあ! 間接キスじゃないか、俺も残しておけばよかった!」と、中学生みたいな事を言いながら、川口が運転を再開する。「でも、時間が掛ったね。女子の方は混んでたんだ?」
「ゴメン、ゴメン。大阪だったら、大きい方を疑われるところだね。ちょっと電話を掛けていたの。」
彼女はコーヒーを一口含んでから、言葉を続ける。「上田君にね、もうじき戻るからって。」
「こういう場面では、獅子文六あたりの昔の青春小説なら、『ヒヤヒヤ』っていうヒヤカシのセリフが入るところだよな。」と井村。
「そんなのでは、ないのよ。彼、少し熱を出しててね。本当ならば、A沼の予備調査には彼を含めた五人で来たかったのだけど、昨日の朝に『熱っぽいから、風邪薬飲んで休んでおく。』って言われてね。だから、さっき上田君が来ていたら誰か一人が降りなきゃって話になった時、ちょとだけ可笑しかったの。だってそれが無かったら、昨日の夜、川口君が車を出してくれるって連絡が来た時に、参加者は五人だから私の車で行くって、言うところだったから。」
「そうか、それで今朝、忠告しに来た男がいたっていう話をした時に、三島が微妙に嬉しそうな顔をしたんだ。」俺にはやっと合点がいった。「上田氏は熱が有るのを押してまで、婚約者と一緒に調査に出かける男共が、怪しい奴らじゃないかどうか確認しに来たんだ。身辺調査がどうとかいうのは、俺たちが気を悪くしないようにという方便だね?」
井村が「なるほどなぁ。俺たちは一応、上田氏の眼鏡に適ったって訳か。」と井村が言うと、川口は「あるいは、コイツら相手なら俺の方が魅力で勝ると、確信したからだな! くそぅ、リア充め!」
三島は苦笑しながら「そんな訳だから、今夜の反省会には、私は出席出来ないの。電話の様子じゃ、昨日より辛いみたいだから。栄養の有る物を差し入れしようと思って。」
そして探るような目で、俺の顔を見ながら「……谷口さんと報告会するんでしょう?」
「えーと……うん。そうなんだ。谷口は、三島にもぜひ出席して欲しいって、言ってた。」
「週明けにでも意見交換しましょうって、伝えといて。今日有った事は、私の独り言まで含めて、全部話してもらって構わないから。」
そう言うと、彼女は残ったコーヒーを一気に飲み干し、空に成ったコーヒー缶を俺に渡して
「キャンプ合宿の件も、忘れずに伝えること。私は上田君も連れて行くから。もし谷口さんが水着を持っていないと言うなら、三人で買ってあげれば良いじゃない?」
三島め、合宿の件は忘れたかと期待していたのに……ハードル上げてきやがった!