第6話 気になる
「ところで粉雪、深月さんについてどう思う?」
どう思う、と尋ねつつ、小春の目は同意を求めていた。
「うーん、私はあの子、ちょっと苦手かな…。何か近寄りがたい雰囲気あるし…」
案の定、粉雪もあまり好印象ではないようだ。
粉雪は生徒会の仕事で先に教室を出ていたため放課後の事件を知らない。その為、俺と仁義で今日の放課後に起こったことを説明する必要があった。
ちなみに、小春が説明しなかった(俺達がさせなかった)のは、自分の偏見が説明に入り交じることを今までの付き合いからよく知っているからだ。恐らく、小春に語らせたら深月さんを親の仇のように語ったことだろう。
「そっか、そんなことがあったんだ。団栗ちゃん、大丈夫かな…」
聞き終わった粉雪は、驚きと友人を心配する気持ちが入り交じったような、複雑な表情を浮かべていた。
「周りにいた奴らも流石に怒ってたみたいだぜ。団栗はうちのクラスの癒しキャラみたいな所があるからな」
「ああもう、あれが転校初日にクラスメイトに言う言葉なのかしら!?」
小春はまた怒りが沸点に達したらしい。仁義も口調こそ荒れないが、あまり関わりたくないという雰囲気は伝わってくる。
「あっそういえば、あんな子でも『気になる』らしいわよ。ねー純人ー」
と思った矢先、怒っていた小春が一転、薄ら笑いを浮かべて横目で粉雪を見ながら俺に話をふってきた。
何故か「気になる」を強調して。
「えっ、そう、なの… 純人…」
粉雪が心配そうに聞いてくる。きっと、さっきのことを聞いたばかりだから俺が深月さんと関わろうとしていることが心配なのだろう。
「まあ、学級委員長だしな。クラスに悪い雰囲気をつくらないためにも、最初は俺が彼女と他の連中の橋渡しにならないと駄目だろうし」
言い忘れていたが、俺は2年3組の学級委員長だ。本来、彼女をクラスに馴染ませるように真っ先に行動すべきは俺なのだ。
だが、経緯はどうあれ結果として団栗は傷ついてしまった。それについて、俺が責任を感じていないと言えば嘘になる。
「大丈夫だよ。そんな不安そうな顔をするなって」
「あんたがそんなんだから粉雪はいつも心配なんじゃない」
「相変わらず純人は鈍感過ぎんだよ…」
2人から突っ込まれた。俺は幼い頃から鈍感と言われることが多いんだが、一体どんなところが鈍感なのか分からない。
そして、こいつらが教えてくれたことも1度もない。
「ま、まあ、この話題はこの辺にしとこうぜ、さあ、勉強だ!」
形勢が悪くなった俺は、話題を無理矢理転換するのだった。
◇◇◇
「あたしが『気になる』って言った瞬間動揺したでしょ。どんだけ純情なのよ、この乙女は」
「だって、そんな言い方したらどうしても…」
「まあ、粉雪も粉雪なら純人も純人よ。17年間も粉雪の気持ちに気づかないなんて。これで他の女に鼻の下を伸ばすようなことがあったら、あの男、どうしてくれようかしら…」
「発想が不良だよ、小春」
右手の拳と左手の手のひらをぶつけて音を鳴らす小春に、本気で困る粉雪だった。
◇で区切った部分は、主人公が直接関わっていないシーンになっています。
読んで頂きありがとうございます。
今後も宜しくお願い致します。