第4話 好意と敵意
事件は、放課後の教室内で起こった。
俺が帰りの準備をしていると、斜め後ろの席の小春に声をかけられた。
「ねえ純人、駅前に新しく喫茶店が出来たんだけど寄ってみない?テスト勉強も兼ねてさ」
今は7月に入ったところだから、来週のテストまで部活は休みだ。
「お、良いな。粉雪はどうする?」
「私は今日生徒会の仕事を少しやらなきゃだから、後から行くね」
「オッケー。じゃあ行きましょうか」
「ちょっと待て。俺だけ誘わねぇのはどうなってんだ」
横から仁義が会話に入ってきた。
「あら~ごめんなさい、すっかり忘れてたわ~」
「絶対わざとだろ…」
「あんたなんか来なくて良いわ」
「はっきり本音を言うなよ」
「あんたなんか独り寂しく部屋で体育座りしながらバラードでも聴いてれば良いのよ」
「今日はいつにもまして扱いひでぇな!?」
律儀に突っ込む仁義。不憫だなこいつも。
「何笑ってんだ純人」
バレたか。笑いを押し殺していたのに。まあ、すごく面白かったんだから仕方がない。
「ってかお前が誘ってくれよ」
「悪い悪い。小春がもう誘ったと思っててな」
…本当はこんな展開が予想出来たからあえて言わなかったんだけどな。
「じゃあ行くか」
その時。教室の後ろの扉付近から数人の女子達の声が聞こえた。
「ねえ深月さん、一緒に図書館で勉強しない?まだ教科書もうちの学校のは持ってないから大変でしょ?」
「深月さんって前の学校では成績どうだったの?わたしあんまり頭良くなくてさー、良かったら勉強教えてくれない?」
「それはことが授業をちゃんと聞いてないからでしょ」
「あ、いるかちゃんそれひどいー」
彼女達3人、赤坂七夕、琴吹団栗、鯨井入夏は、どうやら深月さんを図書館での勉強に誘うため、帰り際の彼女を引き止めたようだった。
「学校から歩いて10分位の所にあるんだけど、近くにコンビニとかもあるから便利なの」
「遠慮させてもらうわ」
深月さんは断ったが、3人は退かない。きっと、早く彼女をこのクラスに馴染ませようとしているのだろう。
「でもでも、教科書無いと勉強出来ないんじゃない?」
「そうよ、どうやってテスト勉強―」
「鬱陶しい」
その瞬間。
まるで、時間が止まったかのようだった。
教室内の空気が凍ったかのようだった。
クラスメイト全員が黙り、静寂が広がった。
「………え?」
突然過ぎて理解が追いつかなかったのだろう。3人とも何を言っているのか分からないといった顔をしていた。
「鬱陶しい、って言ったのよ。聞こえなかったかしら。
それと貴女、馬鹿を気取って何が楽しいの?」
深月さんは、そうはっきりと言い放った。
「え、そんなこと私は…」
厳しい目線を向けられそう言われた琴吹は、何か言おうとしたが、すぐに黙ってしまった。目には涙がたまっている。
「じゃ、もう良いかしら? あなた達を見てると……苛々するのよ」
3人がまだ何も言えずにいると、彼女は小さくため息をつき、肩にかけた鞄を背負い直して教室を出ていった。
後に残ったのは、重々しい空気と、泣いている琴吹を心配する2人の慰める声だけだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
今後も宜しくお願い致します。
感想等をいただけたら嬉しいです。