1話
毎週金曜日に更新するつもりですが調子が良ければバンバンだします
ブックマークしてくれた方ありがとうございます!
その日は雨だった
父親が仕事を早く切り上げてきてプレゼントを買ってきてくれた
中身はロードバイクだった
おとなしく家の中でよく遊ぶから外で遊ぶ積極性を知ってほしいという願いらしい
当初の本人は昔から体が弱くインドア派だったのに息子にはそういう願いというか狙いだと思うがそんな思惑は外れることだろう
母親は腕時計を買ってくれた、「マイペースなリクに」だそうだ
「つけてつけて!!リクに似合うと思うの!!」と母親がせかす、あまりそういう体を締め付けるようなものは好きではないのだが
好意を無下にするわけにもいかず、やむなくつける
「やっぱりぴったり!!よかったー入らなかったらどうしようと思った」
ホールケーキは大きいが父親が甘いものが大好きなため三等分ではなく四等分して父親が半分食べるというのが何年か続いている、
四分の一でもかなり胃に来るのに
三人だけのパーティだけどすごく楽しかった
父親が「18歳以上からはお酒飲めるんじゃなかったっけ?」ってとぼけてワインを飲ませようとしたり
ちょっぴり飲んじゃったり
そしてすっかり時間も過ぎちゃって、眠くなってきたのでリクは自分の寝室にいくことにした
服はめんどくさいけど一応着替えベットに飛び込む
そのまま、まどろみ意識が消える
キィ
ん?
不意に意識が覚める
窓が開いたらしい
いつものことだとリクは思い、目を閉じる
今夜はもう雨も止み外は静かなものだ
そのまま隙間風で涼しみながら意識をまた薄めていこうとする
なぜか眠れない
変だ
背中がぞくっと寒気がする
風で寒くなってきたかなと思ったが少し違う
気配というものがどういうものかわからないがこの感覚がもしかしたらそうなのかもしれない
とても小さな相手の呼吸音や心臓の鼓動、衣服同士の摩擦音、あまりにも小さく意識して聞くことはできないが無意識にそれを耳で感じ取りそれが不穏や気配、もしくは殺気と呼ばれるものになるのではないかと―
ガチャリと鍵のかかる音がした
寝返りを打ち、振り返り音の発信源に首を向けた
暗闇の中に誰かいる
少しずつ近づいてくる
窓から差し込む月の光に照らされたときわかった
母親がいた、なにか刃物のようなものを持った母が
目は暗闇の中にいるのが理由なのか異常なまでに瞳孔が開いて
ほぼ黒目といっていい
刃物のようなものを握りしめた手は血管が浮き出て赤黒くなり異常なほどのまでの力が込められているのが分かる
まったくわけがわからない
だが、本能がこの意味の分からない状況に対して警報を発している
冷汗が止まらない
獣の唸り声のような音がしてそれが母の口から出ているとは信じられなかった
何かテレビの中の出来事のように客観的な見方をしていまいち現実だということが理解できていない自分が滑稽だと感じた
あの醜い生き物が母さんに似ていると思うことさえバカバカしい
突然こちらにとびかかり髪を振り乱し腕を振り上げ月光に照らされ鈍い銀色を放つそれをリクの顔に突き立てようとする
すべてがスローモーションのようだ、頭が考えることを放棄している
ある程度近くまで来たとき刃物が母さんが大事にしている包丁だとわかった
なんとなく母さんなんじゃないかと思った
きれいに研いであるその包丁がリンの顔に突き立てられようとしたとき
赤黒い母の腕にチカッと電撃のようなものが走る
狙いは逸れ頬と耳をかすりベットのふちに突き刺さる
そのとき窓辺に白いフードを被った人が座っているのに気づいた
その人は必死に包丁を抜こうとしている母の頭に妙にしわのある手をかざすと
パンッという閃光と衝撃波とともに母親の頭部を吹き飛ばした
頭部を失ってもしばらく包丁を引き抜こうと頑張っていたが
諦めたのかゆっくりと倒れた
脳漿、脳みそ、頭蓋骨の欠片、血、肉、髪の毛が向こうの部屋の壁紙にべったりと飛び散っている
絶句した
その光景を見てゆっくりと理解してきた瞬間胃がけいれんして嘔吐した
「大丈夫か?」
フードを被って顔の全体像は見えないが白髪の間から鋭い眼光がこちらを見下ろしている
何が何なのかわからない、いきなり母さんが包丁をもって襲ってきてこの人物が手から何か光?のようなものを出して母の頭部を吹き飛ばすし
声の低さや物腰、態度、肌のしわから老人だということが分かった
リクは答えようとしたが口に力がはいらなく発声はシューシューという空気の漏れる音のようなものだった
「普通の人だったら脳の理解許容度をとっくに超えて気絶するか狂うか現状を把握できないだろうな、お前は比較的メンタル的には強い、誇れ」
老人はふうっと息をつくと元母親だったものを一瞥する
「やはり今日が最後だったか、おい、お前、現状を理解しようと努める元気はまだのこってるか?なくても連れていくがな」
リクを憐れむように見ながらゆっくり話しかける
「実はお前がもう気づいていて今日がくるのをわかっていたんじゃないかってひそかに思ってもいたんだけどな」
リクは抜け殻のように目は虚ろなままだ
そのときドアがどんどんと何かが体当たりしてる音が響いた
「おぉ、お前の父親ずいぶん元気良くなったじゃないか、一緒にサイクリングいけるんじゃないか?」
ドアは悲鳴を上げている
「まずは逃げるか」
リクの首をつかみ窓の外へ飛び出す
突然のことで叫ぼうと思ったが喉をつかまれてて声が出ない
だが苦しくなく体もなぜか羽のように軽いすると老人とリクの体が光に包まれ景色が伸びて遠くなっていく
これが俗にいう瞬間移動かと思いながら遠くなっていく窓際、最後にドアがぶち破れ父親が出てくる
その姿はさっきの母親のようで
リクは諦めた
いつの間にかどこかの海岸の砂浜に座っていた
四時間くらい一人で座っていたらしい
まもなく夜明けを迎えるのか少し明るくなってきている
少しずつ分かってきたような気がした
「落ち着いたか?」
隣にいつの間にかさっきの老人がいた
そのまま二分ほど経過し
「実は俺はお前がもうわかっているのだと思った」
ザァーと波が静かに往復している
リクがとうとう口を開いた
「…何をですか?」
老人はその答えが予想通りだった
「この世が作られたものだということをだ」
リクはバカバカしい、こいつ老人ホームから抜け出してきたじゃねーの?、漫画の見過ぎ、脳に障害持っているんじゃない?というありとあらゆるさまざまな言葉が感情とともに一気に口からでかかったが
さっきの出来事、老人の強烈なほどの真剣で鋭い眼光が
これが現実だと物語っていた
「まるでゲームやファンタジーの世界にいつの間にか入り込んだみたいだよな、このまま主人公になって楽しくスリリングなことが始まると思えたら幸せだよな」
老人は静かに少し笑う
「だけどそうもいかない、ここはテレビの中じゃない、外だ、わかっていると思うが」
老人はすこし眼光をやわらげ青年の顔を静かに見る
すこし時間をおいてから、表情を一変して問いかける
「がん細胞ってどういうものだか学校で習ったか?青年」
「まー、簡単にいえばな、お前はそれだ」
ずっと黙っていたリクは静かに笑いながら口を開けた
「じいさん、あんた誰?」
「この世界の管理者だ、お前を殺すために来た」
「は?さっき助けてくれたじゃないか、言っていることとやっていることが違うんじゃないのか?」
うつむき力なく笑いながらリクは問いかけた
老人も笑ったが目は笑っていない
「俺はなこの世界はすべて科学で成り立つようプログラムしたんだ」
かみしめるように老人は語りだす
「おまえが現れたときは信じられなかった、最初はすぐに消そうと思ったよ、ほかの管理者だったらすぐに世界をリセットしただろうな
だけどここまで高度な科学技術に行きつくとは思わなかった、そしてお前自体実は意図的に人間たちが作り出したものなんじゃないかって思っていた
だがそれは誤りだった、観察していたがそれは異業だ、俺は激情にさいなまれた、何がまずかったんだ!?どこをどう言う風に誤った!?」
老人は立ち上がり砂浜を荒々しく歩き回る
「そして気づいた、何も間違ってはいない、俺は完璧にこの世界プログラムした、間違っているのは私ではない!!おまえだこんのがん細胞が!!」
青年をにらみつけ声を荒げる
「俺が心血をそそいで作ったこの世界を!!よくもまぁひっかきまわしてくれたものだ!!」
青年は返す言葉が見つからなかったがその老人の口調に刺激を受けゆっくりと口を開け
「だったらなんで殺さないんだよってさっきも聞いたんだがその答えはどうしたこのボケ老人」
老人はにやりと笑い
「お前には特等席を用意した、お前を観察してわかっていたがその身に危険なものが及ぼうとするとその力が防ごうとするらしいつまり事実上お前を殺すことはできない、だからもうこの世界をリセットすることにした、苦渋の決断だが仕方ない」
青年はもう驚くことには疲れてしまった
「あの水平線を見ていろ、お前は世界の終わりを視認できるんだ、まもなく夜明けだ」
老人は指を指しながらつぶやく
「お前みたいなやつが生まれないようにもっとちゃんとプログラミングしないとな、じゃあな」
そういうと老人はいつの間にか姿を消した
ゆっくりと明かるくなっていく
「っ!!、どこかの老人ホームから抜け出してきたボケ老人が何をほざいていると思えば、俺が!?死なねばならぬ!?ありえないだろこのくそバカが!!いかれてるんじゃねーの!!」
リクは泣いていたのに気づいた、たぶん無意識のうちに感じていたのだろう、知らぬ間に涙腺が崩壊していたらしい、
(お前、心の奥深くでは感じ取っていたはずだ、理解していたはずだこの18年間、世界に嘘をつかれてきたのに自分にも嘘をつくのか?)
誰かがリクにいったような気がした
リクは静かに泣いていた、自分の人生、この18年をすべて否定するのだ、すべて操られ、不自然な劇場の中、周りはすべてマリオネットだった、母や父のやさしさ、友情、思い出すべて偽り、作られたもの
「いきなりこれだよぉ、信じられるわけないだろ、なんなんだよ、俺なんか悪いことした!?、これからいろんなこといっぱい、いっぱいすることあるんだよ!」
涙があふれた、止まらなかった、悔しかった、この世で信じられるものが一つもないのだ、
「…もういやだぁ、もういやだぁ、全部ウソ、ウソ嘘嘘嘘!!」
太陽が顔を出そうとしている
その時砂浜でキラリと何かが光った
よく見るとナイフが砂に突き刺さっていた、刃渡り20センチほど、何かミミズがのたうち回ったような文字が緻密に彫られている
リクはおもむろにそのナイフを手に取る
(世界の終わりなんか見ていられるか)
次に自分がとる行動を理解し息が荒くなる、手が震え、冷汗が止まらない
(きっと痛いんだろうなぁ、でも少しは楽にはなるだろうなぁ、もう疲れた、十分だよ)
(いけ、いけ!、いけ!!いけえええ!!)
ウ゛ァァァァァ!!!という叫び声とともに震える手を押さえつけ両手でナイフを握り自分の喉に突き刺した
心臓や頭に直接刺していたらもっと楽にいけたのだが、そこまで正常な判断は今のリクにはなかった
痛みはなかった、脳が麻痺しているのだろうか、気道がナイフでふさがり息ができない、いや血でふさがっているのか
骨まで達しているのか体に力は入らなく感覚もない
(ざまぁみろ)
と怨嗟を込めてつぶやこうとしたが口も動かず
静かに目から輝きが消えた
読んでいただいてありがとうございます
毎週金曜日に更新するつもりですが調子が良ければバンバンだします