売れる本
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そんな本を作ろうと思っても無意味。昔、ボクに「売れる本を書きなさい」などと言ってくる人間がいたが、全くの勘違い発言で、そんなものを意図して作ることは出来ない。部数が出るのは、有名な文学賞などを獲って、名が広く知られた書き手が出す本で、そうじゃない作家が出す本は売れなくて返本される。それだけのことだ。
知名度プラス時の運だろう。大抵売れている本って、発売前後に映像化されたり、派手に宣伝されたりして、売れる土壌が出来上がっている。それだけ出版社が全力で支援するということ。そうでもしないと書籍など売れやしない。
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芥川賞作家となったM吉さんが太宰治を意識しているようだが、太宰は生前ほとんど売れてない。死後、残した作品が注目されて、重版されている。当時の純文学の市場など、規模は極わずか。亡くなってから本が売れ、有名になっただけで、別にM吉さんのようにめでたく芥川賞を受賞して、本まで売れるというのはレアケース。
元より、売れる本などないのだ。そういったものを出したがる段階で、邪だとしか思えない。ほとんどの作家の本が部数は頭打ちなのに、市場で売り上げ部数が伸びる本など、あるわけがないのである。よほどの著名人が出版するとか、出版社とテレビ局などが組んで悪乗りに近い宣伝攻勢を掛けるなどして、無理やり売り込むのだ。残念ながら、それぐらいしか、やりようがない。
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前述した「売れる本を書け」などと言った人間など、出版界の厳しい実情などまるで知らないのだろう。だから、そういったバカなことを口走る。売れる本など、意図して売り込んでいるのだ。そのために、作家は何度テレビやラジオに出演するだろう?何度、サイン会やトークショーなどを主催するだろう?考えてみてほしい。そういったことが出来るだけの知名度と財力があるのは、ほんの一部の富裕な人間だけだと。
未だにボク宛に自費出版の話などは来るのである。お金を積むのは無理なので、お断りしているのだし、大体自費出版本など全く売れない。子供の落書きと同じレベルだ。そんなものを作るのに貴重な金銭や時間を使いたくない。大手の出版社からの商業出版なら、話は別なのだが……。
最後に一言申し上げておくが、売れている作家の、それもヒットしている作品など、極わずか。売れないものの方が圧倒して多い。売れる本は書籍全体の一パーセント弱に満たない。それにどうやって本がヒットするかは全く分からない。だから、最初から意図して掛からないで、著者自身が納得いくような作品を仕上げればいい。職人芸の世界のように。
ひとまず一筆書かせていただきました。
ではまた。
(了)