ザ・クレイG!
『いいかい? 坊主? オイラはイカれたシューティングスター……お前の願いを叶えたら消え去るのみ……オイラのことは忘れな……』
☆ミ
(もうあれから五十年にもなるのか……見ててくれ。あんたに追いついてみせる……)
「小栗林蔵」65才は『クレイG試験会場』を見渡した。
全員皮ジャンに皮パン。頭には頭には星条旗の柄のバンダナを巻き、サングラスをかけて葉巻を吸っている。
『あのジャップをみろよ……』
『あれで『クレイG』にはいりたいだなんてジョークだろ?』
所々から林蔵を罵る声が聞こえる……
(かまうものか……私は絶対にクレイGのメンバーになる!)
「ヘイ! ヨー! オールドメーン! 俺がおまえ達の試験官『ピース』だ!おまえ達にはこれからファッキンなエグザミネーションをトライしてもらうぜ!」
入室してきたピースとなのる男は80代を過ぎているように見えた。
(さすがクレイGのメンバーだ。なんと若々しい……)
「ヘイ! ヨー! 試験は3つ! おまえら必死! つかもぜ必勝! 掴んだ先にはイッツショウタイム!」
こうして試験が始まった。
一次試験……【ピッキング】
「ヘイ! ヨー! クレイGは最高の『ワル』が集まるチームだ! ピッキングぐらいできなきゃはなしにならねーぜ!」
「くそっ!」
『みろよあいつ……』
『今時、針金って……』
林蔵は針金でピッキングにチャレンジしていた。
「くそっ! くそっ!」
二次試験……【バイク】
「ヘイ! ヨー! 俺たちの乗り物といったらバイクだ! こいつに乗れなきゃ意味がねぇ! この鋼鉄の野獣を飼い慣らして見ろよ!」
「グググッ……」
林蔵は横になった大型バイクを起きあがらせる事も出来なかった。
三次試験……【面接】
「……小栗くん。どうか……したかね?」
「……」
百歳を軽く越える老人が静かに息をしている。
(間違いない……あの時のクレイGだ……やっとあえた)
「ヘイ! ヨー! なに泣いてるだミスターリンゾー! 【キング・クレイG】と知り合いかい? お前のクレイGに対する想い……キング・クレイGに伝えてみなヨー!」
「はい……」
リンゾーはキング・クレイGに思いを伝えた。
そして自分が五十年前に自分に会ったことを。
「フォッ……フォッ……運命とは恐ろしい。良かろう小栗くん」
「ヒュー! アイムサプライズドゥ! 驚いたぜ! キングが笑ってらぁ! リンゾー! ユーは今日からクレイGのメンバーだ!」
リンゾーの夢は叶った……
☆ミ
「ヘイ! ヘイ! ヘイ!ヘイ! 急げ! 急げ! 有閑マダムかお前らは!? 速くしないと日付が変わっちまうぜ!」
この日はクレイGの年に一度の大暴走の日だ。
林蔵は上下赤の皮のユニフォームに赤い帽子をかぶってバイクにまたがっていた。
「さぁ準備は出来たかい!? イカれたパーティーの始まりだ!」
ブォン……ブォン……ブォン……
一斉に大きな袋を持った男たちが『空飛ぶバイク』に乗って夜空に消えていく……
「私も行くとしよう……おぉ……私の担当は日本か……」
林蔵はここ『フィンランド』の地から遥か遠く日本を目指した。
☆ミ
「サンタ……さん?」
(しまった!)
「警察の職質を乗り切って気が抜けてしまったか……」
「ねぇサンタさんでしょ? サンタさんなんでしょ?」
(仕方あるまい……)
林蔵は子供の頭を撫でて優しく言った。
「おいらはイカれたシューティングスター……お前の願いを叶えたら消え去るのみ……お望みの妖怪クロックは靴下に入れておいた。あばよ坊主!」
「サンタさんまってぇ!」
新人サンタクロース……小栗林蔵は窓から飛び出した……
(イカれたパーティーはまだ終わっちゃいないぜ!)
彼は屋根の上を走る……相棒のトナカイ(バイク)は無断駐車で警察に持って行かれたとも知らずに……
「メリークリスマスだぜクソガキ共!」
☆ミ
五十年後……
「やっと……やっと会えた……」
「フォッ……フォッ……」
キング・クレイG……林蔵は号泣する中年男性の手を優しく握った。