ロング・ウロング
AKN株式会社。唯一俺の入社をみてめてくれた会社だ。初任給120万。
母は怪しいといった。
俺も怪しいと思った。
でも
どうでもいいと思った。
何故なら、もう「この世」に心残りが無いから……。
この会社で
良い意味でも
悪い意味でも
終わろうと思ったから。
理由は分からない。が、小さい頃から「気持ち悪い」「怖い…恐い」と、訳の解らない戯言を並べられた。
良い気はしなかった。
天高く聳えるビル。それは
どっちかはわからないが俺の運命を決めてくれる。 廻る扉をくぐった。何故か不安はなかった。…何故か。刹那、 足下に影が落ちた。
「何の用だ」
「!」
やけに細い男がたっていた。服装から警備員だという事は容易に推測出来た。
「あ、あの……新入、…」
その男の圧倒感は体格とは裏腹に
凄まじいものだった。そう、例えて云うなら風速20Mの中突っ立っている様。
…おされた。
「なんだ」
「あ、新入社員なんです」
男は理解したらしい。背を向け首を振った。その先にはエレベーターがみえる。
「案内する」
男の影を追った。
見た事の無い大きさの巨大な箱。外はガラス張りになっていて、このビルの高さを改めて思いしらされた。その図体に似合わない速さで上まで駆け上がっていった。
「これから行くのは社長室。くれぐれも失礼の無いようにしろ」
「はい…」
静かに音をたて、ゆっくりと 扉があいた。
箱は音も無く降りていった。
信じられない光景を目撃してしまった。そしてまだそれを信じようと思う気持ちの欠片さえ出て来ない。
人が死んでいる。
包丁で心臓をひと突き。体の下に有る絨毯は夥しい量の血で紅く染まっていた。
初任給120万はこの為か、など考えられる程冷静でいられなくなった。
膝が折れる。頭が機能しない。視線は辺りをうろつく。
「あ、あぁ……あ」
口は渇き、ものを言えなくなった時再び死体が目に入り我を取り戻した。
助けを呼ばないと……!
急いで元きたエレベーターへ向かった。が、感情と本能が一致しない。「死」を目撃し動揺しているのと、背後の恐怖で脚が震えて動かない。這いつくばる様にしてようやくエレベーターにたどりついた。
しかし。
ボタンが見当たらない。
扉がただあるだけで、周りに何も見当たらない。思考の糸が切れかかった。もう駄目だ、と思うと同時に携帯に手を伸ばしていた。
「救急車...!」




