序章 桜の花開くとき
「初めまして。私、一条ありさです」
桜色の風にさらりと黒髪を揺らし、まぶしげに目を細めほほえむ彼女。一条ありさサンと言うらしい。やばい、かわいい。このとき体が温まったのは窓からあふれる日差しのせいではないと思う。
なかなか状況が理解できなかった。このクラスで初のホームルームを終え、帰り支度をしていたときだった。美人だなー、なんて思っていたとなりの席の子が話しかけてきたのだ。大人しそうな子だから、最初は幻聴かと思った。ひょっとして、良い雰囲気?
「あっ、え、ども。えっと俺は……って、えっ?」
どぎまぎと自己紹介を始めようとした俺を残し、目の前の彼女はくるっと向きを変えてしまった。目線の先にはとあるクラスメート(男)。そして、その形の良い口から出た言葉に俺の目は点になった。
「初めまして。私、一条ありさです」
見るものを魅了するさわやかな笑顔。まるでそいつに好意を寄せているように染まった頬。待て、浮気か? さっきの目は俺への恋心のあらわれじゃなかったのか。
握手するため差し出しかけた右手を引くに引けず、俺は馬鹿みたいに突っ立っていた。その、蝶のように教室内を回る彼女を見ながら。
新年度のスタートとともに、となりの席になった一条ありさ。
俺は知らなかったのだ。彼女の座右の銘が『人を見たら恋人と思え』なんてものだったなんて。
読んでいただきありがとうございました。
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