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第三話 「私の帰る場所」

「うあー 疲れたー」

 列車から降りると、大きく背伸びをする私。一応、機械の身体だけど、疲れることは疲れるのよ。この身体は。機械の身体って言っても、私の魂が入っているんだから、ある程度は疲れる。疲れるのはちょっと嫌だけど、こういう生身の感覚を感じるとなると、少し嬉しいかな。

「私は、疲れてませんよ。初めて列車に乗ったので、かなり心がワクワクしましたので」

 そう言って、私の次に出てきた小柄の美少女。白のワンピースと麦藁帽子を被った赤目の少女。彼女の名前は、エリーゼ・プロナード。一級吸血鬼指定のバンパイアなのだが、いろいろあって私の暫定助手。どうやら、彼女は太陽光に強いらしく、太陽の光が照っている今でも普通にしている。

「まあ、私はあまり慣れないのよねー・・・ それに、今は左腕が無いから、人目もキツイし・・・」

 今の私には、左腕が無い。昨晩の戦いで、油断をしていたのが災いし、左腕を飛ばされてしまったのだ。まあ、教会のラボに戻れば、予備の腕もあるだろうからいいんだけど・・・ 列車に乗っている時は、人目も辛かったし、修理代も高くつくだろうし・・・ 少し後悔。

「ところで、エリーゼはプレセアに来るのは初めて?」

「えっと・・・私の記憶では、来た記憶が無いです・・・ 列車に乗るのも初めてですので・・・」

 クラウン王国の首都プレセア。私が働いている教会本部もこの街にある。そして、私とエリーゼが立っているのが、鉄道の玄関口である「キングスプレセア駅」。国内では最大級の駅で、各地に鉄道網が伸びている。隣国との行き来も鉄道が主となっている。

「どう? 大きいでしょ?」

「ハイ。特に、たくさん機関車があるのなんて・・・凄いですよ!」

 エリーゼは、少し鉄道に興味を持ったらしい。まあ、彼女も鉄道に乗ったのは初めてだろうし、あんなに早い乗り物に乗るのも初めてだろうから、感動するのもわからなくはない。こう見ると、本当に純粋な少女だな・・・と感じる。

「それじゃあ、行きましょうか」

「ハイ」

 取りあえず、私とエリーゼは、教会本部に行くために、キングスプレセア駅を後にした。




「大きい建物ですねー」

 エリーゼは背を反らせて、教会本部の建物を見る。

「ここが聖マリアンヌ教会の総本山「エメロード大聖堂」よ。そして、私の仕事場」

 やっと帰ってきた。というより、今日も無事で帰ってくることができた私の居場所。ただ、左腕は負傷しているんだけどね。

「エリーゼは教会は大丈夫なの?」

 私はエリーゼに教会という場所が大丈夫か訊く。彼女はれっきとしたバンパイア。バンパイアとは教会とは対立する立場で、バンパイアは教会の存在を嫌う。下級吸血鬼は、教会に入るだけで塵と化すものもいる。だから、エリーゼが教会に入るのは、ちょっと心配。

「一応、大丈夫ですよ。文献ではプロナードの血筋は、教会にも怯まない血と言われているんですから」

 自信満々に話すエリーゼ。確かに、彼女の母親であるセレナ・プロナードは、教会と一時期組んできた時もあったから、ある程度免疫があることは予測できる。でも、逆を考えれば、プロナード家が教会を攻めたら、何も太刀打ちできないから、彼女たちが教会の敵にならなかったことが凄く幸いなことに思えてくる。

「それじゃあ、改めて・・・ ようこそ、私の職場へ」

 そして、私は教会の大きな扉をエリーゼのために開けた。




「広いですねー」

 大聖堂の中は、吹き抜けになっていて、巨大な教会のようになっている。天井はどこまでも高く、そして、ステンドグラスは聖母マリアンヌを象っている。普通、吸血鬼はこの雰囲気の場所を嫌うんだけど、どうやらエリーゼは大丈夫そう。

「お帰りなさい。シスターアスカ」

 突然聞こえた若い男性の声。

「ただ今帰りました。デュアリス神父」

 私は、声の聞こえた方向を向く。向いた先には、若い神父が立っている。

「まさか、一級吸血鬼討伐に君が向かうと決まった時は、心配で心配で・・・ 左腕を負傷しているっぽいけど、命に別状は無さそうだね。何よりですよ」

「ありがとうございます」

 そして、私はデュアリス神父に一礼。

「アスカさん。彼は誰なんですか?」

 私の修道服を引っ張って、エリーゼが訊く。

「彼は、デュアリス・モデュス神父。この大聖堂の神父様であって、私の上司よ」

「どうぞよろしく」

 そう言って、デュアリス神父はエリーゼに握手を求める。

「エリーゼです。エリーゼ・プロナードです」

 普通にデュアリス神父の自己紹介に応えるエリーゼ。これに対して、私は固まってしまう。デュアリス神父は何が何やらという顔。

「えっと・・・ 冗談・・・だよね?」

 デュアリス神父は苦笑いをしながら、エリーゼに尋ねる。

「その・・・ デュアリス神父。ちょっとお話が・・・」

 そう言って、私はエリーゼを残して、デュアリス神父を部屋の隅へと連れて行く。




「なるほど・・・ 危害を加えないバンパイアですか・・・」

「はい・・・ 私も彼女のような例は初めてなもので・・・」

 取りあえず、デュアリス神父にエリーゼを連れてきた理由を一通り話してみた。デュアリス神父が物分りの良い人だったから、納得してもらえてホッとした。一応、デュアリス神父も私と同じバンパイアハンターで、私のことを分かってくれている上司だからある程度誤魔化しは効くだろうけど・・・

「まあ、彼女の母親のセレナ・プロナードは、教会と手を組んでいたのも事実だから、バンパイアである彼女を助手にするというのは、難しくないだろうけど・・・ 上の人間が何と言うか・・・」

「ですよね・・・」

 やっぱり、予想どおり。デュアリス神父は、教会ではある程度の権力者だから、多少の口利きはできると思っていたんだけど・・・ デュアリス神父だけでは無理か・・・

「僕も何とか説得してみるよ。彼女が悪そうなバンパイアには見えないし、君が認めたくらいなんだから、僕も信じるよ」

「ありがとうございます」

 私は深々とお礼をする。この人には、仕事でも人間関係でも敵わないや。

「ところで、その左腕だけど・・・ 早く直してもらった方が良いんじゃないかい?」

「あ・・・まあ・・・はい・・・」

 デュアリス神父の心遣いはありがたいけど、正直私はメンテナンスがあまり好きじゃない。何故なら、自分の身体が機械であることをまじまじと目に突きつけられるからだ。機動ゴーレムとして生きることを選んだのは、私自身だけど、それはそれ以外に選択肢が無かっただけ。本当は、ホムンクルスで生身に近い身体で生きたかったけど、金銭的にも寿命的にも厳しいから、この身体にしただけ。だから、私の体が機械でできていることは、本当は認めたくない。

「それじゃ、エリーゼ君を連れて、治療に向かってください。エリーゼ君については、僕がなんとかするから」

「どうもありがとうございます」

 私はまた一礼。そして、エリーゼのところへ向かう。

「たぶんOKよ。それじゃあ、ちょっと付いて来て」

「あ、ハイ」

 私はスタスタと教会の中を歩いていく。一方、エリーゼはその小さな身体でトテトテと歩く。あー・・・もう! 可愛いなぁ・・・

「オホン。ここから、教会の本部に入るから。大聖堂は、表向きの教会。でも、大聖堂の地下は、私のようなバンパイアハンターやその他秘密裏で働く教会のスパイもいるわ。デュアリス神父は、あなたを信用しているけど、この中にはあなたのような存在を嫌悪すつ者もいるわ。だから、吸血鬼であること、あなたがプロナード家の者であることは、言っちゃダメよ」

「わかりました」

 さっきのようなことがあると、次はとても厄介なことになる。さっきは、デュアリス神父だったから良かったものの、吸血鬼に憎悪を抱いている人に会ったら、大変なことになるだろう。その前に、エリーゼには忠告をしておく。

「物分りが早くて、助かるわ」

 廊下を歩いていると、廊下に本棚が置いてある。本棚には、たくさんの聖書が収納されている。

「えっと・・・ 確か、このあたりにあるはず・・・あった!」

 聖書ばかり置いてある本棚に一つだけ場違いの童話本が置いてある。私はその本を取り出さないで、奥へと押す。

「あ・・・え・・・どうなってるんですか!?」

 驚きの顔のエリーゼ。

「驚いたでしょ? これが、聖マリアンヌ教会の地下入り口よ」

 童話本を奥へと押すと、本棚は横へとスライドし、本棚のあった場所の裏には、階段が現れる。

「世にも不思議な世界へようこそ」

 私は少しおどけた感じで、エリーゼを階段の奥へ案内した。




 階段を下りると、そこにあったのは大きなエントランス。そして、たくさんの修道服を着た女性や神父、ハンターがいる。

「人・・・たくさんいますね・・・」

 エリーゼと私は、互いに別れないように手を繋いでいる。エリーゼの握っている手がぎゅっと私の鉄の手を握り締める。ちょっと心配なのだろうか。

「大丈夫よ。魔法技術課までの我慢だから」

 私が向かう場所は、「魔法技術課」という部署。私の体の修理をできる唯一の部署だ。そこまでの道のりは少し遠いから、エリーゼには少し我慢してもらわないと。

「・・・わかりました」

 ボソリとエリーゼは応える。物分りの良い子で良かったわ。




「失礼します。ただいま帰りました」

 私は、「魔法技術課」のドアを開く。中は相変わらず散らかっている。

「あ。先輩。お帰りなさ・・・ って、どうなさったんですの!? 先輩! 左腕無くしちゃって!?」

 部屋の奥にいたのは、ショートカットでエリーゼと同じくらいの体型の少女。

「ちょっとドジっちゃってね・・・ 直して欲しいんだけど、いいかしら?」

「もちろんですわ。そのためのワタクシなんですもの」

 そう言って、彼女は部屋の奥から替えの左腕を捜しに行ってしまう。

「彼女は・・・誰なんですか」

 また、エリーゼは私の修道服を引っ張って尋ねる。

「彼女は、ナディア・アヴァンシア。魔法技術課の課長にして、私の命綱みたいな人ね。私の身体は、機械でできていて、動力源は魔法。だから、機械工学ができて、魔法も多少は分かる人じゃないと、私の修理やメンテナンスはできないのよ。そこで、現れたのが彼女。彼女は王立プレセア大学を10歳で首席卒業。専攻は魔法と機械工学。彼女の卒業時が私の入隊時と重なったから、教会が彼女をスカウトしたというワケ。まあ、私の身体も彼女にとっては良い教科書になるだろうから、彼女はこの仕事を止めないだろうから安心できるのよ」

 ナディアについて話すと、エリーゼはぽんやりした顔で感心していた。

「先輩。替えを持ってきたので、修道服を脱いでくださいな」

「ハイハイ。わかりました」

 渋々、私は修道服を脱いで、上半身は下着一枚の格好になる。首から下は鉄の肌が剥き出しの状態。そして、左腕は無様にもコードや変な機械が飛び出している。

「結構派手にやりましたわねー。これは、腕ごと交換しないとダメですわね」

「分かったわ。それじゃ、早急にお願いね」

 私は、部屋の中央部にある作業台に横になる。そして、私がお願いすると、彼女は器用に私の左腕を弄って、左腕を外す。この時の左肩から先の感覚は全くない。腕のついていた場所には、大きな差し込み口見える。ちなみに、エリーゼは眠ってしまっている。やっぱり、長旅で疲れていたのだろうか。

「それでは、替えの腕を付けますわね」

 そして、ナディアは替えの新しい左腕を私の身体に付ける。

「うっ!」

 ジョイントする瞬間に、肩の部分が傷む。

「ごめんなさいですの。ちょっと痛みますから、我慢してくださいまし」

 そう言えば、前も左腕を付け替える時に、こういう思いをしたっけ。人間らしい痛みじゃないのが、また嫌なんだよね。

「この痛みは何とかならないの?」

「これだけは、ちょっと改善のしようがないですの。ジョイントする時には、必ずこのような感覚信号が流れてしまうので・・・」

「仕方が無いならいいんだけどね。それより、ジョイント作業の続きをお願い」

「了解いたしましたわ」

 そして、ナディアは私の身体と新しい左腕の間に細かな道具を入れ込んで、作業の続きを行う。この分野は、私にとってはチンプンカンプンだから、わからないけど・・・ だいたい、最終作業をしているということだけは分かる。

「終わりましたわ。それでは、先輩。ちょっと左腕を動かしていただけます?」

「分かったわ」

 言われたとおり、左手を開いたり握ったり、腕を軽く回したりしてみる。どうやら、異常は無いみたい。

「異常はありませんですの?」

「取りあえず。無いみたいね。ありがとう」

「ところで、あのソファーで寝ている子は誰ですの?」

「ううっ・・・」

 ナディアにエリーゼのことを訊かれて、言葉が詰まる。

「えっと・・・ 彼女はエリーゼって言うの。バンパイアの討伐に行ったのは、良かったものの行った先にいたのは、雑魚だけ。それで、その雑魚が攫ってきた少女が彼女なのよ。親が分からない間は、私が預かることにしたのよ。ただ、まだ上の許可が出てないんだけどね」

「ふーん・・・」

 ナディアは怪しそうな目で寝ているエリーゼを見つめる。

「確か、先輩の行った一級吸血鬼の名前もエリーゼでしたよね? まさか、彼女がバンパイアっていうのは・・・」

 うう・・・ 流石は、10歳で大学を首席卒業した天才少女。推理力が凄い。

「ぐ、偶然よ。それに、こんな可愛い子がバンパイアなワケないじゃない!?」

「確かに、凄く可愛い子ですの。最初は先輩が攫ってきたかと・・・」

 ここで、私はナディアの頭を軽く叩く。

「痛いー」

「攫ってきたは、余計よ。とにかく、彼女は私が面倒を見るから。あと、エリーゼの横のソファ借りるわよ。長旅で疲れたから」

 そう言って、私はソファに座り込んで、目を瞑る。あっという間に私は眠りについてしまった。

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