表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
73/82

第72話:反転の揺りかご ── 【支配OS:ハイヴ・コンストラクション】

──翠視点──


◆ 反転基底領域の胎動──“文明”の形をした異常


 断崖の上に、黒い霧がゆっくりと沈殿していく。

 反転素の濁りが地面に染み込み、

 魔素回路が脈動し始めた。


 翠はその中心に立ち、静かに息を吸った。


(……ここは、僕の“最適化”が許される領域……

 揺らぎのない文明……正しい文明……)


 人畜たちは無表情のまま、杭を打ち、石を運び、

 魔素回路を地面に縫い付けていく。


 その動きは、まるで“意思を持たない群体”だった。


「……もっと速く。

 あなたたちの処理速度なら、これくらいは可能ですよ」


 翠の声が落ち着いているほど、

 人畜たちの動きは異様な速度で加速していく。


 魔素回路が断崖の上に蜘蛛の巣のように広がり、

 黒い霧がその隙間を埋めていく。


 明らかに文明ではない。

 だが、文明の“形”だけを模倣した

 何かが生まれつつあった。


◆ 心桜の“副管理者OS化”──揺らぎを増幅する器


 心桜が、反転素の霧を浴びながら近づいてくる。

 その瞳は、もはや“人間の揺らぎ”を持っておらず、

 春斗の“瞬きのリズム”まで完全に同期していた。


 翠はその異様な精度を、愛おしげに眺める。

 (……美しい……。完璧な外部端末だ……)


「翠さん……できました……

 次は、どこを作ればいいですか……?」


 翠は彼女の頬に触れ、優しく微笑む。


「心桜さんは……本当に優秀ですね」


 翠の思考は、反転素のノイズと

 心桜の誤愛OSによって、

 さらに歪んだ方向へと進んでいく。


「心桜さん。

 あなたには“感情のノイズ”を管理してほしいんです。

 人畜たちの揺らぎを……完全に消すために」


「……はい、翠さん……

 わたし……がんばります……」


 心桜の声は、どこか幼く、どこか壊れていた。


◇◇◇


◆ 武装化──“人畜軍”の誕生


 反転基底領域の中心で、翠は黒い結晶を砕いた。

 反転素の霧が濃くなり、人畜たちの身体にまとわりつく。


「あなたたちには……“役割”を与えます」


 翠が指を鳴らすと、魔素回路が人畜たちの

 四肢に接続され、黒い魔素が血管のように走り始めた。


 痛覚は抑制され、

 恐怖ログは削除され、

 判断OSは停止し、

 外部命令だけが“正しい動作”として書き込まれる。


 翠は満足げに頷いた。


「……これで、あなたたちは“兵士”です。

 揺らぎのない、最適化された……僕の文明の基礎」


 人畜たちは無表情のまま、

 黒い武器を手に取り、静かに膝をついた。


 その姿は、もはや“人間”ではなかった。


◆ 反転基底領域──完成


 断崖の上に、黒い霧と魔素回路が絡み合い、

 歪な“拠点”が姿を現した。


 建物の形をしているが、

 その内部は魔素回路と反転素の濁りで満たされている。


 文明ではない。

 だが、文明の“死骸”のようなものがそこにあった。


「……名前をつけましょうか」


 翠は静かに呟いた。


「ここは……《反転基底領域(Inversion Base)》

 僕たちの文明の……最初の巣です」


 心桜が嬉しそうに笑う。


「翠さん……すてき……」


 黒い霧が風に揺れ、

 反転基底領域が不気味な脈動を始めた。


◆ 行進開始──“反転文明”が動き出す


「……準備は整いました。行きましょう。

 次は……、私を追い出した拠点から

 “素材”を集める番です」


 翠の命令に、人畜軍が一斉に立ち上がる。


 無表情のまま、揺らぎのない足取りで、

 海側の断崖を離れ、森へ向かって行進を始めた。


 黒い霧がその後を追い、

 世界の仕様を静かに汚染していく。


(……春斗くん。

 あなたの“甘い文明”は……もう終わりです)


 翠の瞳が、虹色の光を不気味に明滅させた。


 反転文明は、いま動き出した。

【OS雑学:人は“群れ”に入ると、どのOSが停止する?】


 ・人間が集団行動に入ると、脳の前頭前皮質(PFC)の

  活動が低下し、“自分で考える”ための実行機能が

  抑制される。これは心理学で「脱個人化」と呼ばれ、

  OS理論では、“自律思考OSのスリープ化”に相当する。


 ・集団の動きに合わせると、脳内でドーパミンが分泌され、

  “同調すること”そのものが報酬として処理される。

  これを神経科学では「社会的報酬回路」と呼び、

  OS的には、“同調OS(Sync OS)”の自動起動。


 ・さらに、集団の中では責任の分散が起こり、

  “自分が判断しなくてもいい”という誤作動が発生する。

  これは、脳の島皮質の活動低下と関連し、 OS理論では

  “判断権限の外部委譲”と定義される。


 ・群れの動きが強くなるほど、脳は「自分の意思」より

  「集団の意思」を優先するように再配線される。

  これは「ミラーニューロン系」の過剰活性によるもので、

  OS的には、“群体OS”への自動接続。


 ──あなたのOSは、“自分の意思”と“群れの意思”、

 どちらを優先するように設計されている?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ