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第42話:崩壊の夜【Fatal Sequence 03:Overload of Despair】

【お知らせ】

本日は40〜44話を一挙公開しています。

この区間は連続で読むことで理解しやすい構成になっていますので、

まだの方は40話から順にお読みいただけると嬉しいです。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

【Reboot System Internal Log】


 Fatal Sequence(致死連鎖)──

 拠点崩壊に至る三段階危険度の最終段階。

 03:Overload of Despair(絶望の過負荷)


※この段階では、

 ・魔物の波形が“痛覚・恐怖・自壊”を無視して暴走

 ・死骸が反転魔素により“再起動”

 ・OSの深層が“拒絶反応”を起こす

 ・戦略・構造・理解のすべてが崩壊する


この段階に突入した拠点は、統計上、生存率が著しく低下する。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


◇◇◇


◆地鳴り──“第三波の胎動”

 ──地面がまだ鳴っている。


 第二波を退けた直後の雪原は、

 まるで巨大な獣が地中で暴れているように震えていた。


 春斗の理解OSが、胸の奥で悲鳴を上げる。


(……この波形……おかしい……

 “数”だけじゃない……

 明らかに、“質”が……変わってる……!)


 怜が静かに言った。

「──波はまだまだ続く。ここからが地獄よ」


 その言葉が落ちた瞬間、

 雪原の下で蠢く“何か”が一斉に動き出した。


◆診療所──“限界の夜”

「……っ、次の人、こっちに!」

 静雫の声が、いつになく焦っていた。

 負傷者が“列を作る”のではなく、

 前線から次々と戻ってくるのだ。


 アレックスが腕を押さえて入ってきたかと思えば、

 治療を終えたサラが足を引きずりながら前線へ戻っていく。


 ミリアは肩から血を流しながらも、

 治療を受けるとすぐに立ち上がる。


 リナは泣きながら治療補助を続けていた。

「Ay…ごめんね……ごめんね……!」


 震える手で包帯を巻くが、血で滑る。

「大丈夫、リナ。落ち着いて」


 ミリアが微笑むが、顔色は青い。

 魔素神経が限界だ。


 ほのかは壁にもたれ、喉を押さえていた。

「……声が……出ぇへん……」


 ヨハンは罠の残骸を抱えて戻り、

 イーサンは震える手で数式を書きながら、

 また前線へ向かう準備をしている。


◆戦線維持──“ギリギリの綱渡り”

 春斗たちはシフト体制を組み、

 疲労がピークに達したメンバーは、

 生活エリアで水分補給したり、

 ケガした時は一時的に離脱して、

 診療所で治療を受けていた。


 短時間で戦闘に復帰することで、

 ギリギリで戦線を維持していた。


 ここまで対抗できている時点で、

 普通なら“奇跡”と呼ばれるレベルだ。


 だが──

 雪原は無情にも、魔物の咆哮と

 甲殻の軋む音で震え続けていた。


 もう何度目かはわからない。

 雪喰いアリの群れが、波のように押し寄せてくる。


 地面は黒く染まり、

 空気は魔素の濁流で重く、

 息を吸うだけで肺が痛む。


◇◇◇


◆崩れゆく前線──“仲間の悲鳴”

「アレックス、下がって!!」

 ミリアの声が震える。


「クソッ……!数が……減らねぇ!!」

 アレックスの拳がアリを砕くが、

 その背後からさらに五匹が飛びかかる。


 サラは銃を構えながら、呼吸を荒くしていた。

「ターゲット多すぎ……!

 狙いが……追いつかない……!」


 ヨハンの罠はとっくに尽きている。

「……これ……もう戦闘じゃない……」


 イーサンの解析は、数の暴力に飲まれていく。


「ほんまにアカンやん……」

 ほのかの声が震えた。


◆怜とレオンですら“追いつかない”

「レオン、右側を抑えて!」


「了解!」


 レオンの盾が数匹のアリを吹き飛ばす。

 拳がムカデを砕く。


 だが──

 倒しても倒しても、数が減らない。


「……っ、これでも……追いつかない……!」

 レオンが歯を食いしばる。


 怜の構造解析が雪原を走る。


「因果の継ぎ目……多すぎる……!

 解析が……追いつかない……!」


 怜の声が震えたのは、これが初めてだった。


◆春斗の理解OS──“敗北の警告”

 春斗は黒石同期筒を握りしめ、

 波形を整えようとする。


 だが──

「……っ……乱れすぎて……、整えられない……!」


 理解OSが、“調整不能”の赤い警告を出し続ける。


(……これ……僕の戦略じゃ……止められない……!

 長期戦……物量……、全部……僕の弱点……!)


 春斗の手が震えた。


◆仲間たちが倒れていく

「きゃっ……!」

 サラがアリの顎に腕をかすめられ、倒れ込む。


「サラ!!」

 ミリアが駆け寄るが、その背後にムカデの影が迫る。


「ミリア、後ろ!!」

 アレックスが叫ぶ。


 アレックスが飛び込んでミリアを庇い、

 氷殻ムカデの棘がアレックスの肩を裂いた。


「ぐっ……!」


「アレックス!!」


 ミリアの声が震える。

 ほのかは喉を押さえ、声が出ない。

 ヨハンは罠の残骸の前で膝をつき、

 イーサンは震える手で数式を書き続けていた。


「……もう……無理だ……」

 イーサンの声がかすれる。


◆終わらない地獄──“構造破綻”

 レオンが盾を構えていた。


「Stay behind me(下がっていろ)!まだ来るぞ!」


 氷牙狼が吠え、凍土甲虫が地面を揺らし、

 雪喰いアリが地中から湧き出す。


 怜が構造解析を続ける。

「……おかしい。

 魔物の動きが“構造的に破綻”してる。

 痛覚も恐怖も無視して突っ込んでる……」


 春斗は怜の言葉を聞いて、ハッと思い出す。

「この現象は……フェロモン……!

 過去に女王アリを撃退した時と全く同じだ……!」


 怜が目を細める。

「なるほど。その女王アリの“復讐”の可能性が、

 かなり濃厚のようね」


「Haruto、下がれ!」

 レオンが叫ぶ。


◇◇◇


◆反転魔素──死骸が“起き上がる”

 あれから何度も波状攻撃を受けたが……

 なんとか耐えしのいでいだ。


 診療所から拠点の入り口まで移動してきた静雫が、

 外の魔物の死骸を見て眉をひそめた。


「……反応がある……?」


 次の瞬間──

 倒れていた魔物たちが、一斉に“ガバッ”と起き上がった。


「……っ!?」

 ミリアが悲鳴を上げる。


「これ……反転魔素……?」

 怜の声が低くなる。


 魔物の目が赤く光り、

 先ほどよりも凶暴な波形を放つ。


「戦術的に言うと……詰んでるわ」

 サラが呟く。


 春斗は膝をついた。


(……波形が……暴れすぎて……整えられない……)


◆締め──“絶望の底”

 反転魔素で蘇った魔物たちが、

 再び拠点へ向かって動き出す。


 その波形は、春斗の理解OSが“拒絶”するほど濁っていた。


(……もう……無理だ……、このままじゃ……誰も……)


 その瞬間──

 避難エリアの奥から、小さな声が震えた。


「……みんな……いたいの……?」

 しのんの涙が落ちる。


 空気が震えた。

 まるで、世界が息を呑んだように。

──

【OS雑学:人は“限界を超える負荷”で心のOSが一時停止する】

 ・人間の脳は、処理しきれない量の情報・危険・責任が重なると、

  まず認知負荷を下げようとする。

  これは“考える”より“生き延びる”を優先するためで、

  OSでは“オーバーロードOSの一次遮断”に近い。


 ・絶望的な状況では、脳は“未来予測”を切り捨て、

  現在の苦痛だけを強調してしまう。

  これは負の予測バイアスで、

  OS的には“未来ログの停止”として扱われる。


 ・仲間が倒れ、状況が悪化し続けると、

  脳は“もう無理だ”という認知崩壊を起こす。

  これは判断力が落ちるのではなく、

  “判断を続ける余力が尽きる”現象。

  OSでは“処理スレッドの強制終了”に相当する。


 ・極限状態で涙や叫びといった“強い情動信号”が

  発せられると、脳は一瞬だけ負荷をリセットし、

  情動優先モードに切り替わる。

  OSでは“オーバーロードOSの緊急再起動”

  として分類される。


 ・過負荷の底で誰かの声・涙・存在が届くと、

  人は“まだ終わっていない”と感じる。

  OS理論では、これは情動OS→生存OS→オーバーロードOSの

  順に同期が進む“絶望フェーズの反転”に相当する。


 ──あなたのOSなら、どんな“限界のサイン”を

 最初に検知する?

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