表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
41/82

第40話:地獄の前兆【Fatal Sequence 01:Signal of Collapse】

【お知らせ】

本日は40〜44話を一挙公開しています。

この区間は連続で読むことで理解しやすい構成になっていますので、

まだの方は40話から順にお読みいただけると嬉しいです。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

【Reboot System Internal Log】

 Fatal Sequence(致死連鎖)──内部危険度分類

 ── SYSTEM ALERT: MICRO-ANOMALY DETECTED ──

 Status: Precursor disturbance confirmed

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 Fatal Sequence(致死連鎖)とは?

 スタンピードの3段階危険度を示す内部分類。

 01:Signal of Collapse(前兆)

 02:Arrogant Architect(構造崩壊)

 03:Overload of Despair(致死領域)


 この3段階を突破できなければ、拠点は必ず陥落する。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


◇◇◇


◆ 静寂が割れる音

 朝のリブート・バレーは、世界そのものが

 息をひそめているかのように静まり返っていた。


 空泡草の膜が淡く光を散らし、

 黒石炉の熱がゆっくりと循環する。

 十五度に保たれた恒温空間は、

 冬の世界とは思えないほど穏やかで──

 “春の箱庭”のようだった。


 だが、その静けさは美しさではなく、

 不気味な静寂だった。


(……空気が重い。波形が……揺れてる……?

 理解OSが、普段なら拾わない“微細な乱れ”を拾ってる……)


 胸の奥で、理解OSが低く軋いた。

 心臓の裏側を指でなぞられたような、

 嫌な感覚がじわりと広がる。


 次の瞬間──

 地面が、かすかに震えた。


 雪の下で、何かが“這っている”。

 その振動が、足裏から脊髄へとじわりと登ってくる。


 きらりが巣穴から飛び出し、

 背中の毛を逆立てて低く唸った。


「……魔物の波形、近いで……」

 ほのかの声は、いつもの柔らかさを失っていた。

 奈良のイントネーションが、恐怖で強く滲む。


 サラは無言で膝をつき、手袋を外して雪に触れる。

 冷たさが指先を刺し、その下で──

 大地が“脈打っていた”。


「Logically(論理的に)……三方向から接近中。

 速度は中速、数は……Perhapsおそらく、かなり多いわ」


 その言葉が落ちた瞬間、

 空気が“切り替わった”。

 静寂が、音を立てて割れたようだった。


◇◇◇

◆ 訓練通りの緊急招集──“恐怖を押しのける動作”

 アレックスが反射的に鍋を掴み、

 もう一つの鍋と勢いよくぶつける。

 ガァンッ!! ガァンッ!!


「みんな起きろォー!!」


 金属音が谷に響き渡り、

 リブート・バレー全体が一瞬で“戦闘態勢”に切り替わった。


 イーサンが音石を地面に叩きつける。


 キィィィィン……!


「Statistically(統計的に)……

 初動が遅れると致死率が跳ね上がる……!」


 高周波の警戒音が拠点全体に広がり、

 仲間たちが一斉に顔を上げる。


「戦闘組、前へ!非戦闘組は医療補助に回って!」


 ミリアの声は震えていない。

 だが、その瞳の奥には“恐怖を押し殺した光”があった。

「Bitte(お願い)……落ち着いて。

 Warte(待って)……Fix Fix(調整する)……私が繋ぐから……!」


 アレックスは拳を握り、サラは銃を構え、

 ヨハンは罠の位置を確認しながら短く呟く。

Jaはい……来る」


 ほのかは喉を押さえながら、

 魔素の流れを整えるために深呼吸をした。

 その肩は、わずかに震えていた。


「しのん、こっち来んね!」

 美園が娘の手を引く。


 しのんの小さな手は冷たく、汗ばんでいた。

「ママ……こわい……」


「大丈夫やけん。練習通り避難エリア行くよ。

 みんながおるけん、しのんは守られるけんね」


 静雫が短く指示を飛ばす。

「医療班、準備。

 包帯、蒸留水、治癒薬……全部出して」


 鍋の音、音石の警報、仲間たちの足音、息遣い──

 すべてが“訓練通り”に噛み合っていく。


(……間に合った。

 訓練しておいて、本当に良かった……)


 ミリアが手を上げる。

「A-1(全員集合)!」


◇◇◇


◆ 第一波──雪原が破裂する

 雪原の向こうで蠢いていた“白い影”が、

 ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。


「はるっち……これ、ヤバいやつやで……」

 ほのかが息を呑む。


 その瞬間──

 白い地面が、不自然に“盛り上がった”。


 ボコッ……ボコッ……


(……この動き……静雫さんの講義で……

 “地中型の群れ”が来る時の……!)


 次の瞬間、雪が破裂した。

 バシュッ!!


 冷気と雪煙が顔に叩きつけられ、耳がキンと痛む。


 雪煙の中から、白い甲殻をまとったアリが十数匹、

 カサカサカサッ!! と一斉に這い出してきた。


「……雪喰いアリ(スノーディガー)……!」

 ほのかの声が震える。


 アレックスが吠え、雪を蹴って前に飛び出す。

「前衛、俺が行く!!」


 アリが一斉に跳びかかる。

 ガチガチガチッ!!

 氷を噛み砕くような顎の音が、耳の奥を刺す。


「うおおおおおっ!!」

 アレックスの拳がアリの頭部を砕き、

 白い体液が雪に散る。


 だが──

 倒しても倒しても、雪の下から次々と湧き出してくる。


Damnくそっ……減らねぇ!!」


◆ 氷殻ムカデ・凍土甲虫──“質量の恐怖”

「アレックス、左!……ムカデが来るわ!」

 サラの声が鋭く飛ぶ。


 雪煙の奥から、氷殻ムカデが体をくねらせて迫る。

 節の一つ一つに氷の棘。

 動くたびに ギギギ……と金属を削るような音が響く。


「くっ……!」

 アレックスが腕で受け止めるが、

 棘が皮膚をかすめ、血が滲む。


「Warte(待って)!アレックス、下がって!」

 ミリアがアレックスを後方へ引き戻す。


 その瞬間──

 地面が揺れた。


「……Vänta(待て)」

 ヨハンの低い声。


 凍土甲虫フロストビートルが突進してくる。


「避けて!!」

「間に合わない……!」


 春斗は黒石同期筒を構え、深く息を吸う。


(波形を……合わせる……!

 安定化……入る……!)


 黒石の波形が春斗の深層と同期し──

 弾丸が放たれる。


 ピシィッ!!


 甲虫の脚が砕け、巨体が横に倒れ込んだ。


「ナイス、はるっち!!」

 ほのかが叫ぶ。


 だが──

 春斗の胸の奥に、冷たい違和感が残った。


(……何かがおかしい。

 この波形……“普通の群れ”じゃない……

 どこか……硬い……?)


◆ 戦闘の終わりと、胸に残る“異常”

 第一波は数分で終わった。


 だが、全員の呼吸は荒く、

 胸の鼓動がまだ速い。


 雪原には、砕けた甲殻と白い体液が散乱していた。


「……なんか変や……」

 ほのかの声は震えていた。


「数も種類も、いつもより多い……」

 ミリアが額の汗を拭う。その手も震えている。


「Statistically(統計的に)……

 これは“通常の第一波”の規模じゃない……」

 イーサンの声にも、わずかな恐怖が滲んでいた。


(……明らかにおかしい……

 これは……僕の戦略じゃ、止められない……?

 ……嫌な感じがする……

 まだ“終わり”じゃない……

 むしろ……ここからが本番……?)

 春斗の理解OSが、胸の奥で軋む。


 その瞬間──

 吹雪が左右に裂けた。


◇◇◇


◆ 第二波の前兆──“吹雪が裂ける”

 まるで巨大な刃で切り裂かれたように、

 白い世界が二つに割れる。


 風が逆流し、雪煙が渦を巻き、

 視界が一瞬、真っ白に染まった。


「な、なんや……!? 何が起きてんの……!」

 ほのかが悲鳴を上げる。


「視界……奪われる…… まずいわ……!」

 サラが銃を構えたまま、震える指を押さえつける。


 春斗は目を細め、裂けた吹雪の奥を見つめた。


(……何か……来る……

 でも……魔物の波形じゃない……

 もっと……“硬い”……?)


 そのとき──

 裂け目の奥から、重い足音が響いた。


 ドン……ドン……ドン……


 雪原が揺れる。

 空気が震える。

 胸の奥が、勝手に跳ねる。


「……っ、みんな……構えて……!」

 ミリアの声が震えた。

 普段は冷静な彼女の声に、明確な“恐怖”が混じっていた。


Ayあっ……空気が……重い……」

 リナが胸を押さえる。


「Statistically(統計的に)……

 これは第二波の規模じゃ……ない……」

 イーサンの手が震え、

 書いていた数式が雪に崩れ落ちた。


 春斗の理解OSが、

 “逃走”の赤い警告を叩きつけてくる。


(……逃げろ……?

 理解OSが……逃げろって……?

 そんな……)


 胸の奥が、ギリッと痛んだ。


 吹雪の裂け目から現れたのは──

 黒鋼の外套をまとった巨体だった。


 歩くたびに、雪原が“ドンッ”と沈む。


「……えっ……レオン・グラントさん……?

 あなた……どうして……ここに……?」

 静雫の声が震える。


 レオンは静雫に向かって、

 無駄のない動きで軽く会釈した。


「Rei(怜)、stay behind me(後ろにいろ)」


 その背後から、空気の温度を変える気配が歩み出る。

「あら?お久しぶりね。ドクター葵だったかしら」


 その声は、吹雪の中でもはっきりと響いた。


 薄いコートなのに、雪が触れた瞬間に“ふわり”と弾かれていく。

 まるで彼女の周囲だけ、

 物理法則が別の形で働いているかのようだった。


「……あなたは……氷室 怜さん……」

 静雫が息を呑む。


 怜の瞳は、雪原の全てを“構造図”として見ているようだった。

 魔物の動き、地形、風の流れ──

 その全てが、彼女の中で“因果の線”として結ばれていく。


(……誰……?

 この人……ただ者じゃない……)


 春斗の理解OSが、怜を“未知の存在”として捉え──

 初めて沈黙した。


◆2人の怪物が歩み出る

 レオンの黒鋼の外套が雪を弾き、

 怜の視線が魔物の群れを貫く。


 春斗の理解OSは、

 “未知の存在”として2人を認識し──沈黙したまま。


(……静雫さんの知り合い……?

 とりあえず……敵じゃなくてよかった……)


 雪原の奥で、地面が再び震えた。


 第二波が──来る。

 ──理解OSが沈黙した時、地獄は姿を現す。

【OS雑学:人は“微細な異常”を最初に身体で察知する】

 ・人間の脳は、環境の変化を視覚よりも身体感覚で先に察知する。

  空気の重さ、振動、温度の揺らぎなど、言語化できない違和感を

  “危険の前兆”として処理する。

  OSでは“アノマリーOSの一次検知”に近い。


 ・静寂が不自然に感じられるのは、

  脳が通常パターンとの差分を検出しているため。

  これは予測符号化の働きで、OS的には

  “平常ログとの差分解析”として扱われる。


 ・訓練を重ねた行動は、恐怖があっても自動で発動する。

  これは手続き記憶が優先されるためで、OSでは

  “アノマリー時の自動プロトコル”として分類される。


 ・強い恐怖を感じると、脳は“考える”より先に

  逃走・防御の回路を起動する。

  OS的には“アノマリーOSの緊急モード”で、

  判断より反応が優先される。


 ・未知の存在に遭遇したとき、脳は既存のモデルで理解できず、

  一時的に“沈黙”することがある。これはモデル崩壊で、

  OSでは“理解OSの停止”として扱われる。


 ──あなたのOSなら、どんな“微細な異常”を

 最初に危険として検知する?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ