第17話:初対面 ── 衝突を回避する【アラインメント】
谷へ戻る道のりは、静かだった。
一緒に同行している大学生グループの6人は
みな疲労困憊で、足取りが重い。
それでも、誰ひとりとして気を抜いていなかった。
半年間、逃げ続けてきた者の“癖”が、まだ身体に残っている。
(……もうすぐだ)
谷の入口が見えた瞬間、みなの背筋がわずかに伸びた。
その時だった。
地面が、ぽこりと盛り上がる。
「……コォ……?」
七色の外殻が夕光を受けて揺れ、
きらりが土の中から顔を出した。
(……来た)
6人の身体が反射で動く。
「全員、構えろ!!」
イーサンが盾を構え、サラが槍を、アレックスは剣を抜く。
疲労で足取りは重いのに、武器を構える
動きだけは異様に速かった。
(やっぱり、こうなるか)
その勢いで、しのんが巻き込まれる可能性が高い。
半年の逃走生活の“身体の癖”により、
全員疲労困憊でも、“仲間を守る”と
なれば異常な反射を見せる。
(美園さんも同じだ。しのんちゃんを
庇って前に出るのは目に見えている)
だから──
6人の攻撃性を、一瞬で消す必要があった。
その瞬間。
「きらりをいじめちゃ、だめーー!!」
しのんが大の字で飛び出した。6人が固まる。
「しのん!!」
美園が覆いかぶさるように抱きしめる。
(……これでいい。
守る姿を見た瞬間、人は攻撃性を失う)
僕は大学生グループの前に立ち、両手を広げた。
「ちょ、ちょっと待って!!
きらりは魔物だけど、人間に害を加えない!
攻撃しないで!」
6人の肩の力が抜けていく。
ヨハンが震える声で言った。
「……安全……なんだな……?」
◇◇◇
「……ようこそ。ここは、
あんたたちが休める場所やけんね」
その声だけで、6人の肩から力が
抜けていくのが分かった。
美園の柔らかな声が、大学生グループの
心をさらに溶かした。
しのんは、きらりに向かって小さく手を振る。
「きらりは、いい子だよ……」
◇◇◇
僕は大学生グループを案内しながら、谷の構造を説明していく。
黒石の結界、天然の要塞のような地形、寝床の数や焚き火の位置。
「転移して数日で……ここまで……?」
「どうやって……?」
「……使えるものを、全て使っていったら、
自然とこうなりました。」
その後、きらりが蔦で案内を手伝い、
6人は思わず笑っていた。
◇◇◇
夕食の時間。
美園の手料理は素朴で温かく、
一口食べた瞬間、みな涙ぐんだ。
「……うまい……」
「こんなの……久しぶり……」
谷に柔らかな空気が満ちていく。
美園と僕は片付けをしながら、そっと視線を交わした。
「……大丈夫そうやね」
「ええ。みんな、限界だったんだと思います」
◇◇◇
夜。
焚き火の前で、8人と1匹が眠っていた。
美園はしのんを抱きしめ、きらりはその隣で丸くなる。
大学生メンバー6人も、安心しきった顔で眠っている。
(……よかった)
(皆は疲れ切っていた。“守る対象”が現れた瞬間、
人は一番素直になる。だから、あえて言わなかった。
これが、最短で仲間になる方法だ)
焚き火の火が、静かに夜を照らしていた。
その揺らぎが、今日一日の緊張をゆっくりと溶かしていく。
【OS雑学:あなたの“初対面OS”は、どう衝突を避ける?】
・初対面の瞬間、脳は“初対面OS”が起動し、
まず“危険かどうか”を判断する。
これは“警戒ネットワーク”と呼ばれる仕組み。
・相手の動きが速いと警戒が強まり、
ゆっくりだと安心が生まれる。
初対面OSは速度を“意図”として読み取る。
・衝突を避ける最短手段は、
“守る姿勢”を見せること。
これは脳が“安全信号”として処理するためで、
ミラーニューロンが関与している。
──あなたの“初対面OS”は、
どんな動きを安心材料として受け取る?




