第9話:要塞候補地 ── 隠れ谷の発見と【テリトリー展開】
朝の森は、昨日よりも柔らかい光に包まれていた。
きらりは、いつものように地面をふるふる震わせながら、
僕たちの仮拠点へ姿を見せた。
「きらり、おはよう……!」
しのんが駆け寄ると、きらりは嬉しそうに蔦を揺らし、
ぽろっ……ぽろぽろぽろ……と晶核片を落とした。
(……完全に“しのんちゃんのことが好き”なんだな)
僕は苦笑しながら、昨日集めた素材を広げた。
◇◇◇
雷角サイの皮。
巨鳥の羽。
裂脚影獣の影膜と腱。
そして、きらりが落とした晶核片。
「……これだけあれば、全員分の装備を一新できます」
美園が驚いたように目を丸くする。
「ほんとに……? うちとしのんの分もね?」
「もちろんです。むしろ2人の防具が最優先ですから」
僕は素材を並べ、3人の装備を頭の中で組み立てていく。
春斗:武器+防具のフルセット。
美園:軽量で強固な防具。
しのん:きらりと“おそろい”の装備。
そして――制作が始まった。
◇◇◇
数時間後。
「……できました。まずは、美園さんから」
美園は、雷角サイの皮で作った肩当てと胸当てを身につけ、
巨鳥の羽をあしらった軽いマントを羽織った。
「……すごかぁ……軽かねぇ……」
羽の部分を指で撫でると、ふわりと揺れ、
淡い光沢がきらりと走る。
「この光……ほんとに綺麗かねぇ……」
美園は思わずうっとりと目を細め、
手鏡を取り出して後ろ姿まで確認し始めた。
(……完全に“見た目”に心奪われてるな)
僕は苦笑しながら、次の装備を取り出した。
◇◇◇
「しのんちゃん。これは、きらりと
“おそろい”になるように作ったよ」
しのんの帽子には晶核片をふんだんに使い、
上半身はきらりの外殻と同じ七色の光を放つ。
下半身は、きらりの蔦に似た植物の繊維で
作った柔らかいスカート。
「……おそろ……?」
しのんが、きらりの前に立つと──。
きらり「コォォォォ!!」
ぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろ……!!!
(過去最大量の晶核片)
「ふふっ……きらり、嬉しかとねぇ」
「……完全に“オソロ認定”されたようだね」
「きらり〜! しのんと“オソロ”だよ〜!!」
◇◇◇
しかし――。
「しのんちゃん、その装備は光が強いから……
森の中では目立ちすぎる。
このカッパを上から着れば、光を隠せるよ」
「かくれんぼカッパ……!」
しのんが嬉しそうにカッパを着た瞬間。
きらりの動きが止まった。
蔦がしゅん……と垂れ下がり、外殻の光も弱まる。
ぽろ……(1個だけ)
「……あら? きらり、どうしたと?」
「……“オソロじゃなくなった”って思ってるのかもしれない」
「えっ、えっ……!? きらり、ごめんね!!」
慌ててカッパを脱ぎ捨てる。
「ほら! ほら! 大丈夫だよ!!
しのんと“オソロ”だよ~~~!!!」
きらり「コォォォォォ!!」
ぽろぽろぽろぽろぽろぽろぽろ……!!!
しのん「はぁ~~……よかったぁ……!」
春斗と美園は思わず笑ってしまった。
◇◇◇
装備テストも終わり、3人の動きは格段に軽く、
強くなっていた。
「……これなら、長距離の探索も問題ありません」
僕は地図を広げ、由衣さんの日記の“安全方向”を指さした。
「本格的に、長期拠点を探しに行きましょう」
◇◇◇
森を進む途中、何度も休憩を挟みながら、
湧水で水分補給し、しのんの体調を確認し、
きらりが危険な方向を蔦で示してくれる。
そして――。
「……ここだ」
僕たちの前に現れたのは、両側が切り立った
岩壁に囲まれた“裂け目の通路”。
人間なら横向きで通れるが、大型魔物は絶対に通れない幅。
その奥には――広い平地と湧水の池がある“隠れ谷”。
さらに、きらりが通れる細い地中トンネルも隣接している。
僕は地面を削り、黒い鉱物を取り出した。
「……この地層、魔物が嫌う物質が大量に含まれている」
近くの小型魔物に向けて投げると、「ギャッ!」と逃げていく。
美園「……ここ、安全っちことね?」
春斗「はい。人間ときらりだけが辿り着ける場所です。
ここなら……要塞化できます」
しのん「ここ……すき……!」
きらり「コォォ……!」
◇◇◇
こうして僕たちは、森の奥に隠された“人間だけが
辿り着ける谷”を見つけた。
ここから始まる生活が、後に“最初の要塞”と
呼ばれることになるとは、まだ誰も知らなかった。




