プロローグ:要塞都市の凱旋──再起動(リブート)の果てに
その街は、かつて人間が抱いていた「最弱」という言葉を、
まるで冗談のように塗りつぶしていた。
夕陽を受けて金色に輝く三層構造の巨大な防壁。
石畳の隙間を走る魔素回路は青い光を脈動させ、
まるで街そのものが呼吸しているようだった。
広場の中央に立つ魂レベル測定の水晶柱が、
誰かの成長に反応して“カラン”と澄んだ音を響かせる。
市場からは香辛料の刺激的な香りと、
焼きたてのパンの甘い匂いが混ざり、
温かな風に乗って街を包んでいた。
ここには、魔獣に怯えて洞窟の隅で震えていた頃の影など欠片もない。
戦闘能力を持たないはずの子供たちが、
魂レベルの変化に歓声を上げ、未来を信じて笑っている。
「見て見て! 水晶の色が変わったよ!」
「ほんとだ! お花も昨日より綺麗に咲いてる!」
かつては”弱さ”の象徴だった非戦闘員たちが、
今では文明の豊かさを示す“光”になっていた。
「帰ってきたぞーっ!! 討伐隊が戻ってきた!!」
歓声が波のように広がる中、
街の中心を歩くのは、黒いコートを羽織った未来の僕だ。
仲間たちの明るい掛け合い。
美園さんの包み込むような微笑み。
しのんちゃんの小さな手の温もり。
(……すべては、あの日から始まったんだ)
視界がゆっくりと暗転し、
記憶はこの輝かしい未来とは正反対の、
逃げることすら許されなかった
“あの泥臭い森の始まり”へと遡っていく。




