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第五話 弱肉強食


式典から女子寮に帰る途中、みしらぬ男子学生の集団が目にはいった。

数人の上級生が、気弱そうな新入生たちを、壁に追い詰めている。


「おい… 挨拶料は知らねぇっていうのかよ?」


上級生のリーダー格の、ガタイのいい男が、下卑た笑みを浮かべる。


「す、すみません、先輩… これ以上は食費しか残ってないんです…」


「ああ? 聞こえねえな。金がねえってのか?」


上級生は、そう言うと、モブ学生が抱えていた、一冊の分厚い教科書をひったくった。


「金もねえクズが、100年早えんだよ!」


嫌な音と共に、そのモブ学生の教科書は無惨に引き裂かれ、泥水の中へと叩きつけられた。


「ひっ…! あ…僕の…!」


「なんだ、まだ何かあんのか?」


上級生たちは、さらにモブ学生の鞄の中身を、地面にぶちまけた。

そこから便箋と包みが転がり落ちる。



「お? なんだなんだ?」


上級生は、その便箋を拾い上げると、周囲に聞こえるように読み始めた。


「『モビオへ。一人でも元気にするんですよ。母さんは、あなたが立派な軍人になる日を待っています。…』ぷっ、アハハハ! マザコンかよ、てめえ!」


「か、返してください! !」


モブ学生は、涙ながらに、その手紙を取り返そうと手を伸ばす。


「うるせえな!」


上級生は、その手を容赦なく振り払うと、手紙をびりっと破り、足元の泥水へと投げ捨てた。


そして上級生の目は、もう一つの包みへと注がれる。


「なんだこりゃ… 干し芋かよ?  田舎くせぇな… こんなもん食ってんのかよ、田舎もんは…」


それは母親が、息子を気遣って、手間暇かけて作ったものだろう。不揃いな形が、むしろ、その愛情の深さを物語っていた。


「キモイんだよ!」


上級生はその干し芋を、まるで汚物でも扱うかのように指先でつまむと、道端の排水溝へと投げ捨てた。



母の愛情のこもった干し芋は、泥水の中へと消えていった…


破られた教科書。

泥にまみれた母の手紙。

排水溝に消えた母からのさししれ…


モブ学生はその場に崩れ落ち、声を殺して肩を震わせるだけだった。

人間の世界も虫と同じで、弱肉強食であるのだなぁと、しみじみと感じる…


弱いのは、罪だ…

食われるだけの知恵と力しか持たぬのなら、それは、本人の責任に他ならない。自然の世界でも、それは同じこと。弱いものは、強いものに食われる。


ただ、それだけ。


そこに、善も悪もない。あるのは、普遍の『(ことわり)』だけだ。

自らを強く律し、知恵を磨き、牙を研ぎ、いかなる手段を使ってでも、己を守る術を持たぬ者は… この世界では、ただ死ぬだけなのだ。

哀れだとは思う。

だがそれは、私には一切関係がない。よくあるモブムーブメント…


と思って、通り過ぎようとした矢先、


この上級生たちは私、ルーナを見るなり、


「なんだあの緑の髪!」


と一斉に爆笑をし始めたのだった…



「そういえば、昔、辺境の村に虫に呪われたっていう緑の髪の子を見に行ったことがあるんだけど、なんか虫ばっかりいじってるキモイ女だった…」


と、大きなこえを出すと同時に、私に聞こえるように噂をしはじめたのだ。


「あれだ、辺境のシュタインフェルトの養子に行ったっていう流れらしいぜ!」


「あんなキモイのがよく領主の身分を…相当なゲテモノ好きだな。」


「それでも、あのシュタインフェルトだから、しょうがないか…」


そういって彼らは、平然と私の家名を汚したのだった。



「あら、あなたたち、奇遇ね…」


「私はルーナ・シュタインフェルト・ノーヴァっていうのよ。なにか私に言いたいことはがあるみたいね、このゴミ屑たち…」


そう言ってのけると、私は入学早々見知らぬ男子学生たちに囲まれたのであった。



「なぁに? あなたがた、集団でないと、お話もできない、×××(ピーー)の小さい方々なのかしら…」


そういうなり、一番ガタイが大きい学生がでてきた。


「ゴミ屑と言われて、黙ってはいられない…」


と、いうなり、私に、喧嘩を売りつけてきたのだった…


「あら、最初に喧嘩を売ってきたのは、あなた方でしょ?」


といいきり、私は、魔法の詠唱に入った…


これは多重詠唱であり、エコーがかかった私の声は増幅する…



深淵の闇より這い出し漆黒の亡者ども…

深淵の闇より這い出し漆黒の亡者ども…

深淵の闇より這い出し漆黒の亡者ども…

深淵の闇より這い出し漆黒の亡者ども…



太古より続きし血脈… 不滅の生命力の源よ…

太古より続きし血脈… 不滅の生命力の源よ…

太古より続きし血脈… 不滅の生命力の源よ…

太古より続きし血脈… 不滅の生命力の源よ…



我の呼び声に応え、その忌まわしき羽音で私の期待に応えろ!

我の呼び声に応え、その忌まわしき羽音で私の期待に応えろ!

我の呼び声に応え、その忌まわしき羽音で私の期待に応えろ!

我の呼び声に応え、その忌まわしき羽音で私の期待に応えろ!


いでよ! 我が眷属!!



まさに私に殴りかかってきたものは、

まず視界を黒いものに邪魔されたことに気が付いたらしい…


そして彼は目線を自分の体に落とすと、親指程度の大きさの黒き


精霊さん(精霊G)達♪


が彼の肌という肌をびっしりと♪

這いづりまわっていることに気が付いたようだ…


「うゎああああああ!!!!!!!」


そうそう…


ようこそ! 私の精霊術の世界へ♪


魔法の詠唱は必要ないんだけど、

カッコイイかなと思って、練習しておいたの♪


これ、一定時間精霊さん(精霊G)が無限召喚される精霊魔法なの♪



彼は、あちこちに這いずりまわる精霊さん(精霊G)たちを引きはがそうと体をよじりながら、意味をなさない悲鳴を上げながら、男子寮の方に逃げて行ったのであった…

取り巻き達は、彼の後を追った。


これで一晩は私のカワユイ精霊さん達が肌という肌を這いずり続けるだろう…


お か わ い そ う に ♪



集団の陰で、虐げられていたもの達は、こそこそとお礼も言わず去って行った。


この学校という世界は弱肉強食…

弱きものは強きものの餌食になるという事か…


必要であれば、この学校に私の名前を刻んでおく必要があるかもしれない…

と私は感じ始めていた。



以上が、フロストヴァルド王国士官学校に入学という、私の波瀾の生活の幕開けの終着点であった…

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