第二十八話 船出
◇
この一年間の月日は、矢のように過ぎ去っていった。
国王陛下の「お墨付き」を得たわたしに、もはや逆らう者など誰一人いなかった。まぁ少し退屈では、あったけれど…
王城に行くのに蟲の召喚だけでは見栄えが悪いので、私の専門の拡張としての錬金術… 地精霊のゴーレム制御の研究をしていました。シュタインフェルトの館でもアイアンゴーレム、ロックゴーレム、マッドゴーレムなど、各種ゴーレムは制御していたし、多数操作にしても一度に10体は制御できるようにしていたのだけれど、もっとかっこよいことをやってみたいの…
空いた時間は、じっちゃんの膨大な「蔵書」を全て読み返し、来るべき「次なる戦場」への準備は十分となりました!
そして、ついにやってきた卒業の日… わたしはもちろん首席…
異例の「飛び級」での卒業だった…
◇
卒業式の翌朝。
王城へと向かう馬車が迎えに来るちょっと前、私は寮の自室の大きな姿見の前に立っていた。
そこに映っていたのは、
光に当たるとキラキラと輝く柔らかな
「栗色の髪」
をしたどこにでもいるような「普通の女の子」♪
あの蔑まれた「緑の髪」の少女ではない。私はその見慣れない… でも私の計算通りに仕上がった自分の姿に満足げに頷いた。
◇
そうなのである。
もう私は誰かに「認めてもらう」必要などないのだ…
この兵学校という、ちっぽけな「戦場」では、
「緑の髪」も「シュタインフェルト」の名も、
自分を「証明」するために重要なものだったのかもしれない。
しかし、もう証明の時間は終わった。
これからは魑魅魍魎が蠢く「王城」という本物の「魔窟」が私の戦場…
ここでは「目立つ」ことは「死」を意味するかもしれない…
奇をてらった「名」も「姿」も必要ない。
「普通の栗色の髪のただ優秀な女の子、ルーナ・ノーヴァ♪」
として、背景に溶け込むことこそが、
最高の「隠れ蓑」であり最高の
「武器」
になる!
(それに♪)
私は、くるりと一回転してみせる。
仕立ててもらった、新しい軍服のスカートがふわりと揺れた。
◇
(こっちのほうが、可愛いですものね♪)
(緑の髪なんて完全に蟲臭くって、田舎臭いですわ♪)
コン、コン、コン…
扉がノックされ迎えの馬車の到着が告げられる。
いよいよだ…
◇
王城へと向かう馬車の中…
窓の外を流れていく景色を眺めながら、ルーナはこれからの新しい「生活」に思いを馳せていた。
(そういえば…)
(あのお二人も、王宮にいらっしゃるのよね…)
ルーナの脳裏に浮かぶのは、
先日の眩しかった「アッシュ王子」…
そしてジト目でこちらを見ていたエリザ王女である。
聞くところによると、
アッシュ王子も、そしてレイヴァルド国王陛下も
まだ婚約者もいらっしゃらないとか…
少しあの王女は怖いけど…
家柄、申し分なし。
容姿、おそらく国宝級。
将来性、無限大…
◇
(……………)
口元が、にんまりと緩むのを、
ルーナは止めることができなかった。
そして王族だけでなく様々なVIPの集まるところ、
そこが王城である…
「玉の輿、チャーンス♪」
そうにやけながらルーナ・ノーヴァは、王城での輝かしい「生活」を夢見心地な気分で、趣味の
「妄想」
に一人、耽るのであった…
__________
【了】
つづくかも…




