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第二十六話 私刑


存在しない「夜盗」を求めて、辺境をさまよっていたアーモンド将軍が、

疲労困憊の軍を引き連れて王都に帰還したのは、この日の午前中のことだった。


この帰還に合わせて目前で壇上に飾ってあった石と化していた学長に、ルーナは指をぱちんと鳴らしてみせる。石化から解放された学長は、数日分の恐怖と屈辱を吐き出すかのように、わなわなと震えていた。


セラフィーナの帰還の混乱はあったが、アーモンド将軍を出迎えたのは、凱旋を祝う声ではなく、王都を襲った本物の「夜盗」の来襲の報告と、将軍の息子バクスターの


「行方不明」


の報であった。


「馬鹿な! 息子が!?」


「学長はどうした!!」


怒り狂うアーモンド将軍はその足で士官学校へと乗り込んできた。


ルーナは、この訪問を待ち構えており、グラウンドで悠然とアーモンド将軍を出迎えた。



「貴様一体どういうつもりだ!」


アーモンド将軍が吼える。


その問いに答えたのは、学長であった。


「しょ、将軍! おお、お助けを!」


学長は、将軍の足元にみっともなく這いつくばった。


「全てあの小娘が! やったのです!わたくしを石に変え指揮権を奪ったのです!!」


「何だと!?」


アーモンド将軍は先ほどの騒動から輪をかけて、血走った目でルーナを睨みつける。


「貴様の独断専行のせいで、我が息子は行方不明というのか!?」



ああ、始まった…


愚者たちの、見苦しい、責任の擦り付け合い…


私は心底めんどくさい… と思いながらも、

完璧な作り笑顔を、浮かべて優雅に一礼してみせた。


「お言葉ですが、将軍…」


「わたくしが指揮権を『お預かり』しなければ、今頃生徒たちは皆殺し… そして王都は占領されておりましたよ?」


「なっ…!」


「学長からお聞きしていた、敵の数は『千』… しかし実際に現れたのは『六千』の大軍でした。その致命的な『誤報』のせいで我々は死の淵に、立たされたのです…」


この「誤報」の出所が、どこにあるかは、あえて触れないでおいてさしあげます…


「わたしは、ただその絶望的な状況下で『最善』を尽くしたまで… 

その結果、夜盗を殲滅し王都をお守りしたのです。

これは『賞賛』こそされ『糾弾』される謂れはありませんわ!」


私はそこで一度言葉を切ると、本当に悲しそうな顔を作ってみせた。


「ですが残念ながら戦闘の混乱の中、一部の勇敢な学生たちが、深追いしすぎたのか、夜盗に連れ去られてしまったのか… 今も、行方が、分かっておりません…」


「バクスター様もその中に… 本当に、お痛わしいことですわ…」


「あとは軍の責任者である将軍が、その捜索と事後処理をお願いできますこと?」



そのあまりにも、一点の非の打ち所もない完璧な「報告」…


アーモンド将軍は、怒りに震えながらも、ぐうの音も出ない…


正論では私が負けるはずがない…


だがアーモンド将軍は「獅子」だった…


理屈で勝てないのならルールそのものを、捻じ曲げてしまえばいいと…



「黙れ、小娘が!!!!」


将軍が広場壇上のテーブルを、叩き割り吼えた…


その瞳にはもはや、「知性」の色はない。

ただ剥き出しの血走った光が宿っていた。


「理屈などどうでもいい! 結果として我が息子は行方不明だ! そして、その指揮を執ったのが貴様であるという『事実』! それだけで十分だ!」


彼は学長を睨みつける。


「学長!そうだろうが!」


「 おっしゃる、通りで、ございます!」


学長は、将軍に同調する。


「 全てこの小娘の『クーデター』が原因です!!」


「よろしい。ならば、『軍事裁判』だ!」


アーモンド将軍が、高らかに宣言した。



ここは軍学校の広場なので、関係者しかいないのである… 軍事裁判を法の調停者たちの介入なしで済まそうとするアーモンド将軍に、ルーナはあきれ返っていたが、少しwkwkし始めてもいた。


「この広場を臨時の法廷とする!被告はルーナ・シュタインフェルト!

罪状は、指揮権の毀損! すなわち『クーデター』の罪である!」


それはもはや「裁判」ではなかった。

結論は最初から決まっている、ただの「私刑(リンチ)」…


ルーナはあまりのアホらしさにもはや反論する気力すら失い、ただぐうの音も出ないまま、その茶番劇を眺めていた…


いつこの皆様を石化させるかどうか…


ということ以外に興味はなくなっていたが、それどころではない雰囲気をルーナは徐々に感じ取っていた。

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