第二十五話 逃亡
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薄暗いテントの中。
ここは森の中の野営地だった。
セラフィーナは手足を魔法封じの拘束具で固定され、粗末な毛布の上に転がされていた。
衣類はすべて剥ぎ取られ、見世物にされていた。
「くっ…離しなさい、下郎…!」
周りにいるのは下卑た笑みを浮かべた兵士たち。
彼らは将軍の「厳重に、拘束しておけ」という命令を、都合のいいように解釈ようとしていた。
「ヒヒヒ、いいじゃねえか、お姉さん…」
「どうせ遅かれ早かれ『慰み者』になるんだ」
「少し早く『味見』を、させてもらうだけさ」
汚れた手が彼女の肌を這う…
抵抗しようにも魔力は封じられ、
力では屈強な男たちに敵うはずもない…
屈辱に涙が滲む。
その瞬間だった。
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カサカサカサカサカサカサ!!!!
「ん?」
テントの外から奇妙な「音」が、聞こえてきた。
しかしこの音は一瞬で唸る「羽音」の大合唱へと変わった…
「な、なんだ、この音は…!?」
兵士たちが、いぶかしげに顔を上げたその瞬間…
ドバァッ!!!!
テントの入り口が決壊し、黒い何かがなだれ込んできたのだ。
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おびただしい、数の蟲の大群(G)。
「ぎゃあああああああああああああああっ!!!!」
「む、蟲だ! 蟲の大群が!」
兵士たちはパニックに陥った。
彼らの身体に次々と蟲がまとわりつき、
鎧の隙間から、内側へと侵入していく。
そしてセラフィーナも、
あられもない格好のまま、
その黒い「津波」に飲み込まれた。
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素肌の上を、
何十何百という蟲が、
這いずり回る、
そのおぞましい感触。
「いやあああああああああああああああああ!!!!!!」
彼女は理性を失った…
そしてこの極度の「恐怖」が、
彼女の魔力を封じていた「枷」を力ずくで破壊したのだった。
「来るな! 来るなあああああ!」
彼女はもはや、ただ本能のままに、
回復したばかりの、なけなしの魔力を、
「ファイヤーボルト」として、
手当たり次第に、乱射していた。
ジュッ! ジュッ!
蟲が、燃え上がっていく。
しかしそんなものは、焼け石に水。
蟲の津波は、一切怯まない。
「いやああああああ!」
セラフィーナは死に物狂いで、燃え盛るテントから這い出した。
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セラフィーナは、ただただ、走った。
後を追ってくる、黒い「津波」に対して、
狂ったようにファイヤーボルトを、
後ろ向きに、乱射しながら…
いつしか彼女の放った、炎が、
彼女の美しい髪の毛に燃え移った。
「あっ! あああ!」
だが彼女にはもうそれを気にする理性もなかった。
ただ奥へ、森の奥へ…
ただこの黒い津波から逃げるために、半裸のまま、髪をちりぢりに焦がしながら、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、セラフィーナ・フォン・ローゼンベルグは、一人この「迷いの森」のどこまでも続く暗闇の奥深くへと消えていったのだった。
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逃げ行く彼女の脳裏には、ただ、
「カサカサ」という音だけが、
永遠に鳴り響いていた…




