第十六話 抵抗
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漆黒の闇…
平原を支配していた静寂を破ったのは、
無数の「蹄」が大地を踏みしめる、重低音…
(来た…)
セラフィーナは、水晶球から闇の、その先を凝視する。
たいまつに照らし出されたのは、鋼鉄の重装鎧に身を包んだ重層騎兵…
一糸乱れぬ陣形でこちらへと迫り来る「馬の津波」であった。
だがその緊張を打ち破る、場違いな哄笑がセラフィ―ナの水晶球に響き渡った。
「ハッ! 見たか! あれが夜盗の主力だ!」
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声の主は、バクスター・フォン・アーモンド。
バクスターは、あの女の指揮下に入ることを良しとせず、
自らの派閥の学生たちを率いて、別行動を取っていた。
「数だけは、多いようだが、所詮は、烏合の衆!
『本物』の兵の戦い方というものを、見せてやる!」
バクスターは自らの手勢およそ150名を率いて、
無謀にも敵騎兵へと、雄叫びを上げながら、突撃を開始した。
「かかれぇ! 最初の、手柄は、俺たちのものだ!」
その恐るべき「統率力」の、意味に全く気づくことなく、
バクスターはむしろ歓喜の声を上げていた。
「素人どもめが!」
それがバクスターの最後の言葉となった。
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(ああ、なんて愚かな…)
セラフィーナは水晶球を通して、無謀な「自殺行為」を見つめながらため息をついた。
バクスターの単純な脳の中では、「夜盗の騎兵など素人」という甘すぎる皮算用が成り立っていたのだろう。
だが違う…
あれは「素人」の動きではない。
一糸乱れぬ完璧な陣形。
あの獲物を前にしても、乱れない統率力。
(やけに手馴れている…? 本当にただの夜盗崩れなの?)
★
地響きが変わった…
敵の先鋒数百騎が、
一斉にランスを水平に構え、
完璧な「突撃態勢」に入ったのだ。
「なっ…!?」
バクスターは、もう逃げ場所がないことに気が付いたが、
全てはもう手遅れだった。
◇
敵将の号令と共に、
数百の鋼鉄の「槍」が、
バクスターたち「歩兵」の群れに、
突撃を決めた…
学生たちの「盾」や「鎧」が粉砕される…
そして次の瞬間の声なき悲鳴…
ランスの穂先が衝突し、
バクスターを含む突撃した150名の学生たちの多くは、
「即死」
した。
◇
即死しなかったものはより不幸であった。
ドッドッドッドッドッ…………!!!
先鋒部隊の後方から、
第二波、第三波の騎兵たちが、
躊躇なく学生たちの上を踏み潰して前進してくる…
数百キロの鉄の塊と蹄鉄に何度も何度も蹂躙され、
つい先ほどまで「人」であったそれらは、
ただの「肉塊」へと変わっていった。
◇
これが「演習」ではない本物の「戦争」の光景だった。




