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第十五話 クーデター


アーモンド将軍が王都の主力を引き連れて出陣してから2日後。「悪い知らせ」が、王都を駆け巡った。


「夜盗が王都南東に出現!その数1千!」


王都はパニックに陥った。

王都を守る主力はいない…

その国家存亡の危機に遠方のアーモンド将軍から下された命令は、何かを象徴するものであった。


「夜盗の数およそ千。脅威にはあたらず。士官学校の学生で十分であろう。元は将軍であった学長が指揮を執れ! これも訓練の一環である!」



そのあまりにも楽観的で、現実を無視した命令…

学長はそれでも安堵した。


(夜盗も千程度か… それならまあ訓練した学生であれば何とかなるだろう)


彼は兵学校の全生徒をグラウンドに召集した。


「諸君! 聞いての通りである!」


学長が壇上から叫んだ。


「敵は夜盗およそ千! 恐れることはない! 地道に訓練の成果を出すだけだ! これより私が直々に指揮を執り、夜盗を殲滅する! これも演習の一環と心せよ!」


その「演説」に、学生たちの中では「安堵」の空気が流れた。

相手は千。こちらと同数。しかも夜盗崩れ…

それなら訓練している分、楽勝であると…


ただ一人を除いて…



(千…?)


ルーナは、そのあまりにも愚かな「観測」に心の中でため息をついた。

ルーナの小さな「斥候蟲」たちが随分前から脳内に送り込み続けている「情報」は全く違った。


(総員約六千… 多くが騎兵… 統率、練度、正規軍に寸分違わず…)


ルーナ・ノーヴァは動いた。

ルーナはゆっくりと、壇上へと歩み寄ると、

学長の集音機を取り上げて言った。


「一つ訂正させていただけますこと?」


「なっ…! なんだと、小娘が…!」


学長が怒りに顔を歪ませ何かを言いかけたその瞬間、

その表情のまま「石」と化した。



「「「「「…………え?」」」」」


学生たちが、息を呑む。


ルーナはその「石像」を一瞥すると、壇上中央へと進み出た。

そして呆然としている学生たちに向かって、高らかに宣言した。


「訂正しますが、敵は六千… このままでは王都防衛が絶望的状態です!」


「あなた方は『石』になるか、それともわたくしに従い王都を防衛するかを選びなさい!」


これは「提案」ではなく「脅迫」であり、そして「独裁宣言」だった。



静寂…


死んだような静寂が、グラウンドを支配していた。


学生たちの視線は、二つのものに注がれている。


一つは壇上で「石」と化した哀れな学園長。


そしてもう一つは傲然と佇む、緑の髪のルーナ・ノーヴァ…


その静寂を破ったのは、歩兵科の教官だった。


「反逆罪だ! 全員あの女を取り押さえろ!」


その号令に他の教官と一部の上級生たちが呼応する。



彼らはルーナの「六千」という荒唐無稽な言葉よりも、目の前の学長が石にされたという分かりやすい「反逆」を断罪することを選んだ。

彼ら「学長派」が、武器を構える。


だが、その直後には教官達は全員石化されていた…


ルーナは残った学生にこう続けた。


「あなた方も、よく考えることね、この王都を守るために何が重要なのかを…」



反抗する学生の数も少なかった。

なぜなら、この場にもはや「アルブレヒト」率いる「騎兵科の精鋭」も、いない… 彼らは数日前にアーモンド将軍の「遠征」に引き連れられて行ってしまった。


今この王都に残されているのは、魔法科などの後方部隊、「出来損ない」の烙印を押された「お留守番」、そして、ルーナ率いる、歩兵科の新入生たち…


残りの学生たちは、ルーナに屈したのだった。



教官側につこうとしていたアーモンドは、少し戸惑いながらも、再び石化されるのも得策ではないと判断した。


(夜盗なんだから、手柄さえたてちまえばこっちのもんだ…)


彼は取り巻きの手下とともに、ルーナに異を唱える者たちを取りまとめ、独自に行動をとることに決めた。



(…フン。茶番ですわね)


その光景を冷めた目で、見つめていたのは、

魔法科のセラフィーナ・フォン・ローゼンベルク。


セラフィーナもまた「お留守番」組だった。

先日の敗北が尾を引いていたのだ。


「女、子供は後方で、祈りでも捧げておれ」


という、アーモンド将軍の前時代的な一言…

この屈辱的な言葉は彼女のプライドを再び傷つけていた。


(ですが、好都合…)


セラフィーナはくすりと笑う。


あの忌々しいルーナの指揮下に入るなど論外!

かといって学園長派という負け犬に与するのも御免!


そして、何よりも…

目の前にいるのは、「本物の敵」だ…

自分の魔法を思いっきり試す良いチャンスなのである。


(ここでわたくしが、あの「夜盗」の首領の首を取れば…)


(サルや泥ネズミなんかよりも、わたくしこそが、真の「英雄」であると、証明できる!)



「聞きましたこと、皆さん?」


セラフィーナは魔法科の女子生徒たちに囁いた。


「わたくしは、あの『秩序』を乱す反逆者にも、『無能』な学長にも従いません!」


「わたくしたちは、わたくしたちの華麗なやり方で敵を討ち、この国に勝利をもたらすのです!」


セラフィーナ達もルーナとは全く別の勢力として、独自の行動を取ることを決めた。セラフィーナもまた、バクスターやアーモンド将軍と同様に、自分の名声の復古の為に、戦を選んだのであった。



こうして夜盗という名の巨大な「軍隊」を前にして残された「学生」たちは、引き裂かれたまま運命の夜を迎えようとしていた。

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