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第十話 仕合開始


御前仕合開始の号砲が、鳴り響いた。


「斥候部隊、前へ! 深追いするな!」


学生騎兵科隊長、アルブレヒト・フォン・キーファーの冷静な指示が、戦場に響き渡る。しかし、その直後であった…



先頭を進んでいた斥候が、短い悲鳴と共に突如として「泥沼」に、馬ごと足をからめとられた。


「いきなりか! 」


アルブレヒトは、舌打ちする。

これが第一の罠…

泥沼の罠… たしかに通常の罠と違って探知しにくい…


だが、彼は冷静だった。


「全軍、 第二陣形へ移行! 『地脈探知』を使え!すべての魔力、罠の痕跡を探知しながら進軍!」


ここから地味で熾烈な「攻防」が始まった。



歩兵科がしかけている散発的な「泥沼化」…


それをアルブレヒトの騎兵部隊は、探知魔法で探知し、慎重に回避しながら進軍していく。


どういうわけか、事前に準備されているこの罠は、近づくと自動的に発動するというシロモノらしい… これでは魔道具なしには対応は難しいかもしれない…


騎兵部隊は最初は、後手に回っていた。罠を探知してから、反応するといった具合であった。しかし事前に得ていた情報から、徐々にアルブレヒトの兵士たちは、


ルーナの罠の


「特性」


を掴み始めた。



リスクが集まる予兆… 


それは地面が微かに震える感覚…


事前に準備していた罠と思われる痕跡…


すべての罠は赤く点滅して見えはじめていた…


これが、探知魔法の威力であった。



「見えるぞ! 罠が発動する地面が微かに震える、その一瞬の『間』が…」


アルブレヒトの的確な指示のもと、騎兵隊は一つの有機的な生き物のように動き始めた。

探知魔術により罠の場所と出現パターンを読み、その情報を瞬時に騎馬共に部隊ごと共有する。そして泥沼が出現するその直前に未来予知でもしたかのように回避していく…



「!!!!」


思わずルーナは舌打ちをする…


「パターンは、読んだぞ、新入生!!!」


アルブレヒトたち騎兵科学生はエリートとしての「学習能力」を発揮し、ルーナたち歩兵科学生の罠を「攻略」し始めたのだ。


もはや泥沼は、彼らの進軍を妨げるものではなくなっていた。


しかしながら、罠の配置により逃げ場所を失った騎馬が、思わず土塁をジャンプする。でも、おそらくその下には落とし穴があるはず…


予想通り落とし穴を探知すると、訓練していた騎乗技術を披露する。



地面につく前にそのわずか上の地点に着地して、騎馬は再び跳躍をした。 


エア・ステップ…


これは、地面につくことなく、その直上でジャンプする技術である。


この技術も利用することで、泥沼化を避け、落とし穴も避ける。


これで歩兵隊は、彼らの行軍を妨げることはできなくなっていた…



「隊長! 敵のパターン、読めてきました! 今なら内部に突入できます!」


「よし!」


念話で副官と連絡するアルブレヒトは、機が熟したと判断した。


ここからは「反撃」の時間だ。


これまで一方的な罠に苛まされていたが、攻略を終えた今が本陣に突撃する時である。


訓練用のランスでの突きは痛かろうが、それも訓練のうちである…



ついに回避行動をしながらも、円を描きながらアルブレヒトの部隊は、ルーナの防御陣地の中核へと迫ってきた。


その行く手を、高さ約2メートルの「土壁」と、突破されまいと、おびえながらも槍を構える新入生たちの姿が見える。


「隊長! 壁の向こうに敵主力!」


「よし! 突入だ!」


アルブレヒトは、もはや、勝利を、確信していた。


「全軍怯むな! これが最後の障害だ!」


「着地点には、おそらく罠がある! 壁を飛び越えたのち、エア・ステップを発動させよ!その後、敵主力へ突撃!ランス装着!」


訓練用のランスを準備して、ジャンプ動作に入る。


アルブレヒトのその号令一下。

騎兵隊の先頭集団は、一斉に土塁を超えるため空を駆けた。



「エア・ステップ!!!」


馬の蹄が、淡い光を放ち、地面の上を、まるで空中の階段を駆けるように、飛び越えていく。


「これが王国の『矛』たる騎兵の力だ!」


アルブレヒトは飛びながら叫んだ。


泥沼も、落とし穴も、土壁も、

全て圧倒的な


「技量」


により、完全に無力化させた。


アルブレヒトには歩兵科の女学生が、顔をしかめるのが見えた。


「チェックメイトだ、新入生!」


その手前には恐怖におののく、モブ新入生たちの無様な顔が見える…


全ては完璧だった。



「ひぃ!!!!!!」


アルブレヒトの目前で、新入生たちが、悲鳴を上げ逃げ惑いはじめるのが見えた。

隊列は崩壊… 無理もない…


アルブレヒトは彼らを蹂躙するために着地しようとするが、何かがおかしい…

どういうわけか騎馬が地面に着地しないのである。


「え?」


そして内臓がめくられるような「感覚」が、全身を襲う。


「なっ…!?」


再度エアステップを試み、馬に跳躍を命じる。



だが、無駄だった。


視界の先には異変を感じ取り、悲鳴を上げている新入生たちの姿が映る。

そして、さらに向こう…


高台の上にせり上がっていく歩兵の陣地が見える…

そしてそこに立つ、一人の女学生と目が合った。

彼女はにんまりと微笑んでいた。



その悪魔のような微笑みが、上へ上へと昇っていく。


(違う…あれが昇っているのではない…)


アルブレヒトは、この浮遊感の中で真実を悟った。


「これは、私達たちが…」


「『落下』しているのかぁぁぁ!!!」


そう気が付いたときには、アルブレヒトは騎馬ごと大地の底に強くたたきつけられていた。



広範囲に3フロアの高さほど落盤された大地の底では、騎馬と騎兵隊の学生、そして槍を構えていた新入生たちが、折り重なりあって苦しんでいた…


骨折して苦痛を呻く馬や兵士、頭部を強く打ち意識がないもの…


こうして、一瞬にして騎兵隊も歩兵隊もほぼ一瞬で無力化されたのであった…

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