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Animal Яeplicant  作者: 次野/うずらの


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8/21

scene 4-2



 ――くさッ!! なんだそれ!!

 ――納豆だよ。

 ――く、くさってるッ!!

 ――そういう食べ物なのよ。アタシたちも食べられるかもよ?

 ――いらない、いらない!!

 ――こら、立ち上がらない。

 ――ひぃぃ!! なんかのびてる、ねばねばしてるッ!!



 ほぼ捨てるだけの後片付けはすぐ終わり、出かける準備をする慧の足どりは軽かった。


 賑やかな時間だった。


 FOCUSとはまた違った朝ごはんは、灰をかぶることなく。起きてしばらくすると訪れる現実せかいは淡く色づいていた。

 始まる1日が、こんなに億劫でなかったことがあっただろうか。

 物思いにふけりながら厚手のパーカーを着込む傍らで、マウロが玄関に駆けていく。


 それに続こうとした慧をカアナが止めた。


「義行さんから」


 彼女から手渡されたのは、細長いなすびのイラストが描かれた封筒だった。


「ぼーなす、だって。なにかと物入りでしょ?」

「大丈夫、なのに」

「いいじゃない。ありがたくいただきましょ」

「いいの、かな」

「2人ともお迎えって言い出したのは、義行さんなんだし。慧が遠慮することないって」


 ささ、たっくさんお買い物するわよー、と意気込むカアナと玄関に向かう。


「おそいぞッ!!」


 本日2回目の待ちぼうけに、マウロのご機嫌はナナメだった。


「ちょっと話してただけじゃない」

「あるきながら話せばいいだろ」

「アンタにはまだ早いのよ」

「む」

「なによ」

「すぐ大きくなってやるからなッ」

「望むところよ」


 仲がいいのか、悪いのか。


「ほら、帽子」

「ん」


 耳を押さえながら器用にニット帽を被るマウロに、慧は思わず声をかけた。


「前、見えてる?」

「見えるぞ」と慧の脚にしがみついて、ぐいっと顔全体で見上げてきた。


 ……。


 違う、それは見えているとは言わない。

 もう少し浅く被ったほうがいいのでは、と慧はニット帽に手を伸ばした。


「――!?」


 まんまるなマウロの瞳孔が、いきなり縦に鋭くなる。

 慧もよく知る、猫の目だ。


「これも猫だった頃の名残ね」


 カアナはサングラスをかけながら、マウロのニット帽を目深に下げた。

 ゆっくり、まんまるな目に戻っていく。


「強い光に弱いから、こうしないとダメなの。朝はとくにね」


 そう言って、両者は手を繋ぐ。

 視界の悪いマウロの処世術なのか、面倒見のいいカアナだからなのか。親子のように、ごく自然に。


 玄関を出て歩道を歩き出すと、マウロは空いてるほうを慧の手に重ねた。


「つめたい!」

「ご、ごめん」

「てぶくろも買おう。カアナ、買ってくれッ」

「はいはい」


 外の世界は依然として灰色に染まっていた。

 けれど、今日は……今日からは、そんなこと気にしていられないくらい、賑やかで変化の絶えない日々になっていくのだろう。


 慧がそれを嫌だと思わないのは、彼らがヒトの形をしている動物だからだ。



     *



 FOCUSのある中心街で揃えられないこともないが、階で区切られてるお店が多く、買ったものを引っ提げてうろうろするのはいかがなものか、と。慧たちは、スプーンからベッドまで1フロアで買える、郊外にある大型の生活雑貨店へ向かった。


 陶器、木製、プラスチック、金属……など。

 食器ひとつ取っても、さまざまなテイスト、幅広い品揃えにマウロのこだわりが炸裂しないわけがなかった。

 まくらコーナーから動かない。

 カアナも調理器具を見比べて、使い勝手が良さそうなものを吟味して。

 そんな2人を眺める慧はカートのお守りだ。


「どう、慧。これで足りそう?」


 調理器具の他にタオルや食器など、細々したものも。慧とカアナでギリギリ持って帰れそうな量で選んでくれる。

 ARふたりの衣類は遅くても夜には届くらしいので、買わなくていいとのこと。


「あと、これ。マウロの」


 カアナが追加したのは、唐草模様のバンダナだった。

 色違いで数枚ある。


「ダミーとはいえ、首に巻いておかないと。慧が選んだって言ったら、大人しくやってくれると思うから、よろしくね」

「う、うん」


 ――カアナは、なにも巻かなくていいのだろうか。


 慧はつい、彼女を見てしまう。


「アタシはこれがあるからイイの」


 視線に気づいたカアナは、革手袋に包まれた右手をひらひらと振った。


 憧れ、尊敬、姉のような存在でもあった彼女は、たしかにARだった。

 アシンメトリーの長いほうに隠れた、猫の耳。


 寝起きで頭が回らないながらに――


(……あれ?)


 今朝の様子を思い出す慧に、1つの疑問が生まれた。


「カアナ、どこで寝てたの?」


 ベッドにはマウロと寝た。

 日が落ちるまで粘って、FOCUSで晩ごはんを食べ、帰宅後あっという間に寝てしまって。

 マウロがいくら小さいからって、シングルに3人一緒は無理だ。


「リビングのソファーだけど?」

「え!?」

「あ、ブランケット借りたわ」

「あれ夏用っ」

「ARだし、大丈夫よ」

「布団も買わないと」

「いらないわよ」

「いるよっ」

「猫に布団なんていらないでしょ?」

「猫だけど、猫じゃないでしょ!」

「これに布団一式は持って帰れないわよ」

「ちょっと待ってて!」


 慧は寝具コーナーに行ってしまった。

 入れ替わりにマウロがほくほくな顔で戻ってくる。触り心地や大きさ、顔をうずめたときのしっくり感など、お気に召したものがあったのだろう。

 カアナの呆れた視線をものともしないで、あたりをきょろきょろ見渡した。


「慧なら布団を探しに行ったわ。ちょっと待っててって」

「ふとん?」

「いらないって言ったんだけどねぇ」

「いるだろ」


 意外な返答に次の言葉を待つと、


「ボクが落ちても、カアナがいるなら痛くない!」

「……、そうね」


 ごもっとも。マウロはそういう子だった。というか、落ちる前提ならマウロが布団を使えばいい。


「アンタが布団で寝たら?」

「いやだ! ケイのとなりがいい!」

「アタシだって慧の隣がいいわ」

「大人だろッ、がまんしろよ!」

「あら、そこは子どもぶるのね」


 しばらくマウロをからかっていると、一式を抱えた慧が戻ってきた。その足取りは軽く、表情も明るい。


「義行さんが来てくれるって!」


 寝具を選んでいると、管理局に出向いていた義行から連絡があったらしい。


「おぉ、やったな!」

「うんっ」


 これで痛い思いをしなくてよくなるマウロと、無事布団を入手できた慧の、少々すれ違っている2人のやりとりに、お互いの心情を知るカアナは思わず笑ってしまった。



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