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Animal Яeplicant  作者: 次野/うずらの


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6/21

scene 3-2


 木のボウルにこんもり盛られたカリカリにかつおぶしをふりかけた、お手製というにはあまりにも簡単なごはんを、少年は口いっぱいに頬張った。

 カウンターのイスは脚が長く危なっかしいため、テーブル席で。しかし、キッズチェアがないので、慧のひざ上に座って。美味しそうに、幸せそうに食べている。



「お前さん、主人はどうした?」

「おまえさん、じゃないぞ。マウロだぞ」

「ん? あぁ、悪かった」


 2人の斜め前に座った義行は、少年の首をまじまじと見る。


「で、主人は?」


 マウロ、と名乗った少年も知っているはずだ。


 ARには必ず保護者という主がいること。

 野良のARなんてありえないこと。


 そして、子どものAR自体イレギュラーなことも。


 なのに、追跡機能を兼ねているアクセサリーをしていないのが気になっていた。


 脱走?

 まさか。


「――――ごしゅじんは、こいつだッ!!」


 食べる手を止め、それまで傍観を貫いていた慧にぎゅっと抱きつく。

 マウロの邪魔にならないように、サンドイッチをかじっていた彼は、思わずポロッと落としそうに。


「こいつじゃないぞ、慧だぞ」

「うぬ? そうだな、ケイだ!」


 義行がマウロの口調を真似して窘めると、自分の言ってたことを思い出したのか、素直に聞き入れた。


「ケイがごしゅじんだ!」


 ……。

 ……。

 ……たっぷり、10秒。


「ほんとにいない! だから、ケイがごしゅじんだッ」


 それでも義行はなにも言わなかった。


 マウロは同意を求めて慧を見つめる。耳が垂れ、瞳をうるっと滲ませて、「ごしゅじん、だよな?」と。

 あざとくあっても全てがかわいくて。

 懇願の眼差しに、そうだねと頷きかけたその時だった。



 紀子のところにデリバリーに行っていたカアナが戻ってくる。「そんなわけっ……ねーだろっっ!!」と、昼間出かける際に必ずしている大きなサングラスと、普段とは違う声色や言葉遣いに、一瞬誰だか分からなかった。


「ケイもいいって! どーい、した!」

「してない!」

「そーしそーあいならいいって、すどーが言ってたッ」

「アンタ、教養カリキュラムすっ飛ばしてるでしょうが!」

「きょーよ、かり?」

「人間社会に出るためのお勉強!」

「あんなのやってられるかッ」

「やるの!!」

「ああ、うるさい!! おまえのごしゅじんじゃないんだから、いいだろ!!」


 それって――と、慧の中で1つの疑問が生まれる前に、義行が大げさに腕時計をとんとんしていることに気づいた。


『だ』『い』『が』『く』


 ヒートアップしている2人に配慮してなのか、口パクで。

 時間を確認するとバス停に向かってないといけない頃だった。


「ごめん、マウロ。俺、そろそろ行かなきゃ」

「ぬ? どこに?」

「学校だよ」

「ボクも行く!」


 慧の膝から降りて、ニット帽を被ろうと――――行く気になっているマウロは隙だらけだった。

 その瞬間をカアナは逃さない。


「アンタはお留守番よっ。なんのために店閉めたと思ってるの!」

「やだぁぁ!! ケイといくー!!」


 両脇を抱え、ちょっと持ち上げる。

 そうすれば、少々足をばたつかせたところで、ふりほどけやしない。


 今のうちにと送り出してくれるカアナに甘えて、慧は2人に背を向けた。

 連れていってくれと背中に刺さる視線が痛い。

 心を鬼にして、扉に手をかける。が、そこにあるはずの扉は開いていて。


「――す、ぎうら」


 1時間ほど前に電話で喋った友人が、白衣を着て立っていた。




     ***




「博士もブラックでよかったんだっけ?」

「あぁ」

「ついでにサンドイッチ食べない? お昼、まだでしょ?」

「……あぁ」

「慧も。ちょっとしか食べてないじゃない。大皿に盛るから2人でつついちゃって?」


 結局、講義はお休みすることにした。

 慧も加わって、皆でテーブルを囲む。


 いざ本題。の前に、お昼を食べ損なった慧と“博士”と呼ばれた友人は腹ごしらえを。義行の膝の上を余儀なくされたマウロのご機嫌は最悪だった。


 隣で黙々と食べ始めた友人は言うが早いか、1枚の名刺を慧に渡したのだが――――


 “Animal Replicant Laboratory Doctor 須藤すどう 卯月うづき


 ドクターという単語に引っ張られて、いまいちピンとこなかった。

 慧は英語が苦手だったことを、今一度自覚する。


「なんだ、教えてなか――」


 意外そうに、しかし口元は終始にやにやしている義行に、卯月は食い気味で「隠していたわけじゃないんだ」と。


「その、大学にいるときぐらい、普通でいたくて……」


 編入先の大学で迷っていた時、声をかけた相手が卯月だった。

 本来なら2年生終盤。

 手続き等で1年遅れていた慧は、それを取り戻すように講義に出まくっていた。


『――俺も、そこ探してる』


 めちゃくちゃ上級生っぽくって、でも同い年で。お互いダブっていることが分かると、親しくなるのに時間はかからなかった。


「分からなくはないけど、ねぇ」


 カアナが飲み物を持ってくる。


「今月に入って何回慧にノート借りてるのよ。そのお詫びも、結局ドタキャンしてるじゃない」

「……」

「そーだよ。ボクにかまってないでガッコウ行けよ」


 言わなかったのは悪いが、大学に行けなくなったのはおまえのせいだと、卯月の顔に書いてある。


「まぁ良かったじゃないか。2人が知り合いなら話は早いぞ、マウロ」

「ぬ?」

「おまえのご主人は?」

「ケイ!」

「――と、いたいけなARを嘘つきにしたくなくてだな」

「「はぁ!?」」


 テンポのいい掛け合いに、卯月とカアナが声を荒らげた。

 慧は逆に言葉にならなかった。


「俺は保護した連絡を受けて回収に来ただけであって!! 第一、杉浦はまだ学生だろっ」

「博士がOKしたらいいわけ!? そんな簡単でいいのっ!?」


 皆の意識が義行に向いてる間に、マウロが我が物顔で慧の膝の上に戻ってくる。

 そういえば、ちょっと引っかかっていた。

 カアナが博士と呼ぶことに。

 しかしそれも、学校に遅れそうだと聞き流していた、マウロの台詞で説明がつく。


「カアナって……AR、なの?」


 慧のその一言で、場はさらに荒れる。


「しらなかったってことは、ふりーだろ!? なぁなぁ!」

「アタシはまだ試用期間中なの! 挙手制でいいなら、アタシだって立候補するわよ!」

「ボクが先だっ」

「選ぶのは慧よっ」

「おまえたち、杉浦を困らせるな!」

「「うるさい!!」」

「なんだとっ」

「卯づくん、お、落ち、つてっ」と言う慧が一番あたふた。


 友人の素性。

 マウロをお迎えするかもしれない。

 カアナのAR発覚。


 慧はどれも飲み込めていなかった。

 そしてそこに、義行が追い打ちをかけてくる。


「2人ともお迎えってのはどうだ?」

「ちょっと待て、義行!!」と、胸ぐらを掴む勢いで卯月が詰め寄った。が、カアナとマウロに止められてしまう。


 1人ではまだ外泊できないマウロと、仮に迎えられたとして、ちょっと近づいただけでも顔を真っ赤にする慧と日常生活が送られるのか不安に思っていたカアナには、見事な折衷案だった。



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