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Animal Яeplicant  作者: 次野/うずらの


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19/21

scene 11-2



 慧のケータイが鳴る、少し前。

 時刻は朝の4時を過ぎていた。



「戻ったか」



 マウロを管理局に届け、本社に報告した足で、影津診療所にやってきた義行は疲労困憊だった。


「珍しいな、お前がクマなんて。イイ男が台無しじゃないか」

「車で行ってたもんで……」

「ご苦労なことだ。白砂病の抗体様々だな」


 義行の中の、義行だけにしか効かない抗体は、30代後半でも遊びに明け暮れる学生のような体力を維持していた。

 今の環境も相まって、義行の老化はほぼストップしている。

 近々、世に出回る予防薬SAiDも同じ効果をもたらすだろう。

 20代の外見、体力のまま。

 60歳まで生きられればいいほうだ。


「元貴さん、これ」

「ほー、あったか」


 出向いた甲斐があった、と先生はパケ袋に入れられた手紙を受け取った。


「いろいろ聞きたいんですけど……」

「寝不足な頭で理解できるなら、してやってもいい」

「そんな複雑?」

「――にしたがってるのはおまえだ、義行」

 

“影津診療所にいる、サクラに宛てた手紙”を回収するには、ざっくりとした依頼をするしかなかっただけのこと。


「部屋は開けてある。さっさと眠れ」

「起きたら、教えてくださいよ」


 ふらふらと診察室を出ていく義行を見送って、改めて依頼品の確認をする。


 淡いオレンジ色の唐草模様があしらわれた、かわいらしい手紙は封が開いていた。

 封緘シールの招き猫は乾ききっており、自然に開いた……にしては、手紙全体に張りがなく、故意に開けられた形跡がある。

 サクラに向けて綴られたものであっても、穂瑞の遺族にとっては形見であり、彼を感じる数少ない物品だったのだろう。



 なにはともあれ、手紙があってよかった。

 そうとなれば、今度は時間が迫ってくる。



 早朝だということもはばからず、先生は慧に電話をかけたのだ。




『おはよう、慧くん。

 坊やに逢わせたい人がいる。

 できるだけ早く、診療所に来てほしい』と。




 丸くおさまりつつあったところの着信だったので、慧もカアナもすぐに対応ができた。


「博士にはアタシから連絡するわ。慧は先に支度して」


 半裸のカアナは着替えれば出られるため、慧を急かして。


「もしも――」


〈すどーは、かみんちゅーにございますので、またのきかいをおまちみます〉と、不思議な音声が流れてくる。


「……あぁ、マウロね。ちょうどよかった。影津先生のとこ行くわよ、すぐ出られる?」

〈あいてるのか、そーちょーだぞ〉

「早く来てほしいんだって」

〈ちょっとまってろ。――――すどー!! おきろッ!! たいへんだッ!! うるさい……どう、した。すどー、うんてん、できるよな! 分かった、分かったからっ。暴れるなっ〉

「も、もしもし?」

〈やっだぞ、よろこべッ。すどーがつれて行ってくれるって!〉

「それは、ありがたいんだけど……マウ」

〈男にニゴンはないよな! なッ! 代われ――そっちに迎えに行く、30分後だ。ボクのリュックはーッ!? ここにあ〉



 ツー、ツー……。



 通話終了の画面を見つめたまま、カアナは立ちすくんだ。


 声が。

 むしろ声だけだったから、よけいに伝わる。


 マウロが、空元気なこと。


 叩き起こされた卯月も、動揺を隠しきれなかった。



     *



 車内は静かだった。



 電話の時とは一変して、慧の膝の上に座るマウロは外を眺めていた。


 早朝の道は空いている。

 海沿いに差しかかると景色がよく見えた。

 朝日に反射する白波は眩しくも綺麗だ。


 マウロは目をしばしばさせて、胸に抱きかかえてるリュックをふみふみし始めた。


「もうすぐだ」

「海沿いにあるなんて、おしゃれね。全室オーシャンビューだったりして」

「海の近くは白砂病の影響が少ないからな」

「そうなの?」

「あぁ。最近、分かった」


 いつになくおしゃべりな2人に、慧は聞くことしかできない。


「今から行くところの所長さんは、ずっと前からそれを提唱してきた人で、研究者や医学会ではちょっとした有名人だ。『白砂病は海を越えない』ことにいち早く気づいて、独自の解釈で患者を受け入れてる。隔離もしないし、面会もできて、普通の病院となんら変わらない。どんな施設よりも人らしく長く生きていられるのは、そこぐらいだ」

「すごいじゃないっ。ちょっと想像できないけど」


 この中では一番付き合いの長い慧に、マウロは尋ねた。


「あいつって、じつはすごいやつ?」

「そう、みたい」


 慧も初耳だった。先生自体、自慢するような人ではないし、辺鄙な場所にあるのも、騒がしいのが苦手だからと思っていた。


「……ただ、白砂病の根本的な治療に関しては消極的らしく、ヤブだの医者失格だの、反感を持つ輩も多い」


 言い終わって、卯月は蛇足だと気づいた。マウロの空元気に拍車を掛けてどうするのかと、バックミラー越しに様子を伺う。


「あいつは、ヤブじゃないだろ」


 マウロは落ち着きはらって、そう言った。


 防護服に身を包んだ医者や看護師に徹底的に管理され、誰にも看取られることなく、孤独に散って逝く。

 ヒトが人らしく終えられなくなった今、最期まで人らしくいられることが、どれだけ尊いことか。

 意地こそ悪いが、それを大切にしている先生の、どこかヤブだと言うのだ。


「……そうね」


 カアナも賛同する。



「慧の主治医だもの。ヤブじゃ困るわ」




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