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Animal Яeplicant  作者: 次野/うずらの


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16/21

scene 10-1



「篠岡さんっ、お久しぶりです!」



 検問所、とまではいかない、簡単なバリケードの前に立つ男は、動きにくそうな宇宙服に身を包んでいた。


「相変わらず、薄着なんですね……」

「相変わらず、厚着だな」

「これが普通なんですっ。篠岡さんが特別なんですぅ」


 義行を気味悪がる人間は多い。禁止区域近郊で働く人間はとくに。

 そんな中、彼はフランクに話しかけてくれる。


「あ、そうそう。2ヶ月前ですかねぇ。子どもが」

「子ども?」

「しっかりした子でしてね、この先に知り合いがいるから、通してほしいって。いやぁ、男の子でしたけど、可愛かったです。うるうるって見つめられて。通しそうになりましたよー。防護服がなかったら、頬ずりしてましたね!」


 義行はその人物に心当たりがあった。が、今確認するわけにはいかず。

 相当可愛かったようで、どこかで止めなければ、ずっと喋っていそうだ。


「……行って、いいか?」

「あ、はいっ! 今、動かしますね!」


 バリケードの合間を抜け、車を進める。

 窓を閉め、バックミラーを確認すると、毛布がもぞもぞしていた。


「出てきていいぞ」

「ぷはーッ」

「マウロ、男相手に泣き落としは効かないぞ」

「あともうすこしだったんだぞ! かえりのデンシャチンはくれたけどなッ」



 念願の向こう側。

 マウロはワクワクしながら、窓から覗いた。


 シュガーパウダーをふりかけた街並みに、わたあめみたいな雲。

 けれど、絵本や映画で見るような、幻想的な景色は最初だけ。


 奥に進むと、橋の上は車で山積みになっていた。

 他の橋も同じで、遠くに見える線路は、脱線した電車が落ちかけている。


「ここからは歩きだ。行けるか?」

「……お、おう」


 当時を保ったまま、白砂病でぐちゃぐちゃになった街は、静かに雪で隠れていた。




 いつか来た時と同じように、義行は高架下のルートで市街地に向かう。

 マウロの手をひきながら、マウロの歩幅に合わせて。



「ほんとに、だれもいないんだな」

「立ち入り禁止だからな」

「だれもいないから、きんしなのか? きんしだから、だれもいないのか?」

「白砂病になるから禁止なんだ」

「え?」

「さっきのバリケード、あれが境界線だ。ここはな、白砂病が一瞬で広まったところで、未だに白砂病にする、なにかがある場所なんだ」

「……砂になる人が、たくさんいたから、みんな、ひなんしたんじゃないの?」

「マウロ」

「なんで、ボスは砂にならないの? ボクだって……」


 大きな瞳に、涙が溜まる。


「どう説明すればいいかな」


 話せば、それこそ長くなる。

 差し障りのない、それらしいことで、義行はマウロを納得させにかかる。


「あー、俺は特殊な訓練受けてんの。のんびりしてたら、俺も砂になるさ。マウロが砂にならないのは、ARだから。ARは動物で、動物は白砂病にならないだろ?」


 長居はできない。

 そのことだけ分かってくれたら。


「……どうする、引き返すか?」

「……」


 雪が、降ってきた。

 見上げたマウロの頬にも。


「――ほ、ずき」


 溶けずに滑り堕ちていく雪に、なにを視たのか。

 繋いだ手に、力がこもる。



「行こ」

「あぁ」



 雪は、本当に溶けなかった。




     *




 ベンチに降り積もった雪をマウロは手で払う。

 払った手は冷たくない。

 そんな雪で雪だるまを作ろうとしたが、上手く固まってくれなかった。

 砂場の砂に触れているような、不思議な感触だった。



 駅近くのショッピングモールで一仕事する義行を待つマウロは、遊歩道に作られたキッズコーナーの滑り台にのぼった。


 暇つぶしのおもちゃはリュックに入れてこなかった。

 おやつもお弁当も、もう食べてしまった。


 義行が用事を終えるまで、なにをしていようか。


 つるん、と滑ってその場に立ち上がると、あたりは一気に静まり返る。

 近くに義行がいるはずなのに、物音1つ聞こえない。

 鳥の鳴き声も、機械音も、なにも。


 トク……トク……、と自分の心音までもが消えかけていた。


 その音に耳を傾けると息ができなくなる。


 のどを触る手の感覚が、五感が、痺れていく。



 完全な無音がマウロを拐う。



 手のひらに、雪が――――白砂が……



「マウロ!!」



 義行の呼びかけに、マウロは我に返った。


「ぼ、ボス……」


 汗ばむ手のひらには、なにもない。

 こちらに向かってくる足音、息づかい、衣服の擦れる音。

 雑音まみれの義行に、ほっとする。


「あと一件で終わる。いけるか?」

「だい、じょぶ。……だけど、ボクもついて、いく」



 1人でいることが、急に怖くなった。




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