表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Animal Яeplicant  作者: 次野/うずらの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/22

scene 9-2



 日が暮れ、マウロは義行と禁止区域へ出発した。



「行っちゃったわね」

「……うん」


 ムードメーカーがいなくなった家は静かだ。

 マウロがいるからカアナもワーキャー言うだけで、元来騒がしいほうではない。


「本でも読もうかと思ったけど、こっちが先ね」


 リビングに戻ると撮りためた写真がテーブルを散らかしていた。

 慧とカアナが出発の準備を始めて、1人やることのないマウロは、写真にタイトルをつけていたようだ。ちゃんとポラロイドカメラが置いてある。


「いろんなもの撮ってるね」

「どれどれ」と、カアナが1枚手に取る。


 “いじわるなやつ”


「影津先生だね」

「……字にトゲがあるわね」

「根に、持ってるのかな」

「おそらくね」

「こっちは――小さくてにがいのだ、の人……って、お客さんまで撮ってるじゃない」

「紀子さんもいる」

「博士も。義行さんの寝顔まであるわ」


 カメラの性能がいいのか、マウロの腕なのか。

 なかなか上手く撮れているものばかりだ。

 周囲がぼやけ、被写体をしっかりとらえている。

 中には浮き上がってくる前に触ってしまって、茶色い跡がついてしまっているものもあるけれど。指紋でベタベタなのがもったいない。


「慧、明日の予定は?」

「1限目だけだよ」

「博士は?」

「卯月くん、その授業とってないんだ」

「じゃあ、そのあとデートして。アタシと」

「 そして、気まずそうに目をそらした。


「自分のこと考えると、よく分からなくなって……なにも手につかなくなって……。でも、それじゃ……だめだと思って……休学してた分、単位……とろうって」


 “自分と向き合えば合うほど、空っぽであることを思い知らされる”


 そのドツボにハマらないようにした結果が、きっとこの部屋なのだろう。


「――そうやって追いつめちゃったから、ごはん食べられなくなったんでしょ」


 ひとりでいれば、なおさらだ。

 でも、もうひとりではないのだ。

 サンドイッチが好きだと言ったあの時のような顔が見たくて、カアナは慧の両頬を包んで、むぎゅっと正面を向かせた。


「ごはん、は……ちょっと違くて」


 視線を合わせたり、合わせなかったり。

 ぱちくりする慧は複雑そうだった。


「違うの?」

「味、しなくて。ひとりだと。ゴム食べてるみたいで。だから義行さん、ごはん食べにおいでって……」


 けれど暗い話には変わりない、とまた影が差し始める。


「ごめん……こんな話ばっかりで……」

「そんなことない」


 いつもなら茹であがってる慧はまだ冷たい。


「慧のこと、慧の言葉で知れて嬉しい」


 体温ごと、それが上辺でないことが伝われば、とおでこをこつんと重ねる。

 それでもうろたえない慧に、ちょっとだけ距離が縮まった気がして、カアナはゆっくりとおでこを離した。

 首の角度を変え、慧の頬から後頭部へ手を滑らせて。

 顔を近づけ、もう1度。


「おあおっ!?」

「いけると思ったんだけどなぁ」


 今度はおでこじゃないところを重ねようとしたが、さすがの慧もそこまでは雰囲気に呑まれていなかった。



 すっかり冷えてしまった慧を、カアナは半ば強引に自身の布団に引きずり込んだ。



 寝るにはまだ早いが、アルバムがないことには片付かないし、ごはんもお風呂も済んでいて、なにより密着していれば慧がよけいなことを考えなくてよかった。

 後ろからすっぽりと抱きしめると、暗がりでも分かるくらい、慧は真っ赤になる。


「一緒に寝てるのは大きな猫。そう思って?」


 普段よりも広い面積で慧を感じる。

 首筋に顔をうずめて、イイ匂いを堪能する。


 ずっと嗅いでいたい。

 触れていたい。


 マウロが隣を譲らなかった理由が、分からなくもなかった。


「慧って、冷たくて気持ちいい」

「カ、カアナはっ……あったかいっ……」

「……猫、だったから」



 乳離れできない仔猫のような。

 危なっかしい我が子に寄り添う母猫のような。


 懐かしさと母性が混じり合って、カアナを満たしていった。



     *



 彼女の寝息が首筋にあたるたび、慧は1人でドキドキしていた。


 かれこれ、30分。

 いや、もしかしたらもっと経っているかもしれない。


 ただただ心臓が辛かった。


 意識するなと言うほうが無理な話。

 せっかく眠ったカアナには悪いが、起こしてしまう覚悟で、未だ回されている腕を掴んだ。


 寝るときも外さない革のロンググローブは、窮屈ではないのだろうか。


 2、3度、掴んでは離す、を繰り返していると、ふわふわの毛に触れた。

 まさに動物の、猫に触れているような。

 ほの暗い中で目をこらすが、毛の部分なんてなかった。


 腰に回された腕を小脇に抱えるようにして、目の前に持ってくる。

 ドキドキよりも探究心が、彼女のロンググローブを両手で触る、掴む、揉む。

 自分の手がおかしいのかと、頬にあてても、革のなめらかさはなかった。


 大きな猫に、身を委ねている。

 睡魔も相まって、夢見心地。


 カアナと密着していることが気にならないぐらいの心地よさに、慧も眠りに堕ちていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ