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Animal Яeplicant  作者: 次野/うずらの


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14/21

scene 9-1



 中立都市に行く日が決まり、FOCUSは4日間、臨時休業となった。



 入国審査と禁止区域に入る手続きが完了次第、マウロを乗せて、車で本州の最西端に。

 日が落ちた頃に出発して、車中でマウロは就寝。

 朝方到着、予定。

 日が沈むまで禁止区域内を捜索したのち、帰還。

 マウロを管理局へ預け、義行は影津先生のところでメディカルチェック。

 大事をとって、+1日休み。


 マウロに渡された、義行お手製の旅のしおりには、これらのことがもっと分かりやすい形で書かれていた。


 メモ欄に、撮影禁止と武器の携帯は不必要とある。


「武器って、アンタなにしに行くのよ」

「もんすたーがおそってきたら、どーするんだッ」

「いないわよ」

「ケイにヤられたあとがあったんだぞッ。じぶんの身はじぶんで守らないとなッ」


 冒険に行く気でいるマウロとは真逆で、慧とカアナは小旅行感覚だった。

 出発するまでの空いた時間でお弁当を作ろうと、スーパーに買い物に来ていた。


「おやつは300円までだって」

「かつおぶし は おやつに入るのか?」

「アンタにとっておやつなら、おやつよ」

「ぬぬぬ。ごはんだ」

「アンタ、カリカリにふりかけないで食べてるじゃない」

「これ買ったら、もう300だろッ」

「大袋、選ぶからでしょ。小袋なら150円で他にも買えるわ」

「むー……ちょっとしかない」

「量をとるか、種類をとるか。両方は無理よ」

「なんで300までなんだ!」

「遠足は300円が相場なんだって」

「えんそくじゃない!」

「はいはい。ほら、どれにするの? そろそろ決めないと、レジで待ってる慧の番来ちゃうわ」


 時間はある――――と思っていた。


 夕方までにマウロにごはんを食べさせ、お風呂に入れて。

 いつでも寝られます状態で義行に引き渡せばいい、と。


 慧とカアナが悠長にかまえていると、マウロは「ひとりでごはんはイヤだ」と言ってきた。


 ごはんはみんなで。

 それがマウロのモットーらしい。


「アンタが1人でごはん食べられる子だったらねぇ……」


 マウロを送り出したあと、たまには外食でもしよう、とデートに誘うつもりでいたのに。


「さみしいことゆーなよ。おいしくないだろ、ひとりって」

「なにそれ。博士の受け売り?」

「うけうり?」

「博士が言ってたんじゃないのってこと」

「すどーも、そーなのか? ひとりでごはん食べないのか?」

「……ま、まぁ」


 そうなんじゃないかなーと言う、ただの妄想が事実になってしまった。


「さすがウサギちゃんだな! さみしいとしんじゃうな!」

「それ、博士に言わないほうがいいわよ」

「ほんとのうさぎじゃないから?」

「……うん。まぁ、そんなとこ」


 干支に変な雑学と、スポンジが水を吸うようにマウロはいろんなことを覚えていく。

 これから行く禁止区域で、なにを見て、なにを思うのか。


「ちょーきょりだから、大きなやつ2つでもいいよなッ」


 それとも、最悪の結末を予感して空元気に振る舞っているだけなのか。



 カアナより小さなARの背中が、少し寂しそうに見えた。



 ごはんも一緒なら、お風呂だって一緒。というマウロの言い分と、マウロが行ってしまったあと、一緒に入ろうと迫られてしまったら抗えない慧の思いが通じ合って、帰宅早々2人はお風呂に入っていた。


 お弁当と晩ごはんの下準備をしていたカアナは、慧の切迫した声に手が止まる。


「ちょっ……マ、ウ……っ!」


 続けて、ドサッとなにかが倒れる音に、急いで洗面台に向かった。


 猫だってストレスに弱い。

 緊張の糸がいつ切れても、おかしくなかった。

 マウロだって、例外ではなく……


「ちょっと、アンタ。なにやってんのよ」


 とんだ杞憂だった。

 洗面所には、つい最近見た2人の真っ裸。

 仰向けに倒れ込んだ慧にマウロが馬乗りになって、濡れた髪をこすりつけていた。


 やめなさいよ、羨ましいじゃない。などと邪念を抱きつつ、カアナは慧からマウロを引き剥がした。


「発情期……ってわけじゃ、なさそうね」


 下半身に変化なし。


「マーキングはしないって言われてるでしょ?」

「ぷす」


 膨らんだほっぺから空気が漏れた。

 慧から引き剥がしたのが、そんなに気に入らなかったのか。


「匂いをつけなくても、アタシたちには言葉があるでしょ? 好きって言えばいいじゃない」

「しょ、しょゆーぶつッ」


 ぺちん、と軽く頭を叩いた。


「それで――――慧はアタシのこと、誘ってる?」


 まさに、頭隠して尻隠さず。

 隠すべき場所がばっちり見えていた。


「――ッ、ッッ」


 あまりの恥ずかしさに慧は言葉にならず、頭を覆うタオルで顔を隠しながら、全力で首を横に振る。

 そこはふつう、局部を……と言いたいが、もっとパニックになりそうなので自重した。


「あら、残念。いつでも言ってね? 慧なら大歓迎だから」

「カアナ、ケイがシぬぞ」


 そうツッコむマウロの髪は、未だ滴ったまま。慧ばかりかまってはいられないようだ。


「あぁ、もうっ。からだ、冷えちゃってるじゃない」


 ほら、こっち来て。と、暖房が効いたリビングにカアナはマウロを連れていく。


 洗面所に残された慧は、痛む尻を労りながら立ち上がった。

 ふとももや胸元は、まだくすぐったい。

 尻餅をつくことも、誰かに振り回されることも、1人でいた時にはなかったことに、鏡に映るじぶんが笑った気がした。




 しっかり服を着てリビングに戻ると、着替え終えたマウロが飛びついてきた。

 思わず抱き留めれば、ふわっふわの髪が慧の首筋をくすぐり、「言ったそばから!」と反応するカアナだったが、洗面所のように引き剥がしはしなかった。


 お風呂に入るとにおいが消えてしまって、理由もなく不安に駆られるのだろう。心細さを表に出せば、禁止区域に行くことも躊躇ってしまいそうで――それが、カアナに伝わったのだ。


 しかし、羨ましいことには変わりないので、お風呂に入る前に彼女も釘を刺す。


「慧からアンタのにおいしかしなかったら、アタシもするからね」

「えっ!?」

「ケイッ、おろすなッ」と、抵抗したものの……結局、降ろされてしまった。



 まだくっついていたいマウロは風呂上がりのミルクを飲みながら、慧がソファーに座るのを待った。



 ミルクティー色の髪が、ドライヤーでなびいている。


 色むらがないのは、慧が白砂病だから。

 白砂病なのに砂にならないのは、慧が特別だから。


 そういうものだと教えられても、マウロは納得していなかった。


「マウロ?」

「ぬッ!? なんだッ?」

「おかわり?」


 コップは空だった。慧の髪も乾いている。

 いつの間にか飲んだミルクの味は覚えていなかった。


「うん、もう1ぱい」


 コップを渡してソファーで待っていると慧が隣に座った。

 すぐさま膝の上に乗るマウロは、そこでおかわりをいただく。

 一瞬、慧がビクついた。


「ケイはイヤか?」

「ちょっとびっくりしただけだよ、ごめんね」


 顔だけ振り向くと、慧は困ったように微笑んだ。

 その表情が、いなくなった主人と重なる。


『――ごめんね、マウロ』


 ホーズキとサクラの思い出は、2人が笑っていて楽しいことばかりなのに、彼女だけを思い出すと胸が痛くなる。


 人は誰でも言うことを聞く。

 自分に媚びないヤツなんていない。


 ヒトの形になって考えられることが増えて、そうでないことに初めて気づいた時、ますます主たちが恋しくなった。


 伝えたいことがある。


 とくにサクラには好かれて当然だと思っていたから――――と、どこか遠い目をするマウロを、慧はそっと抱きしめた。といっていいのか、初めてする慧からの抱擁はとてもぎこちない。


「もっとぎゅーってしていいぞ。おふろ入ったばっかりなのに、もう冷たくなってる」


 小さな温かい手が密度を上げる。

 マウロのほっぺが慧の頬にくっついた。ニヒヒッと満足そうな笑顔を慧に向け、慧もそれに応えるように三角のホクロを歪ませて。


 そんな和やかな雰囲気を、妬む物音が聞こえる。


 濡れた髪を振り乱しながら、ロンググローブだけはばっちり着けた、バスタオル1枚でこちらにやってくるカアナの足音だった。



「マウロばっかりずるいわっ。アタシにもぎゅーってしてよっ!!」

「ケイからだぞ、いーだろぉ」

「けーいっ!!」

「カアナ待って服をっ」

「聞こえなぁい!」



 結局、慧がカアナの髪をドライヤーで乾かすことで、この場は落ち着く。

 慧からできる、最大のスキンシップだった。

 タオルで水分をふき取り、低温でじっくりと乾かしていく内に、抱擁以上にぎこちなかった手つきが変わってくる。


 触り心地は猫そのもの。


 マウロとはまた違う、いつまでも撫でていたくなるような、さらさらでコシのある髪質に、慧は夢中になっていた。




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