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9.いつもより少し、塩辛い

「ふんふーん」

「お、おい、ちょっと待てって……」


また山を登っている。

どうしてこうなったのか。




ハルと話し合って、一息ついたとき、僕のかばんの中に突っ込んでいた一切れの紙切れに目が止まった。


シロさんへの、連絡……忘れていた!

慌てて書かれた番号へ電話をかける。


『はい、もしもし、真白です』


ワンコールで出てきた。


「えっと、僕……だけど……」

『僕々詐欺なら間に合ってます!』

「あー違う!シロさん!ミナトです!」


一拍、謎の間を置いてからスマホが揺れる。


『ミナトさん!?大丈夫なのですか!?ハルちゃんも!無事なのですか!?』


それはそれは凄まじい勢いだった。

とても忘れていたなんて言えない。


「えっと、あぁ、大丈夫ダイジョブ。ツイサッキ、トウゲ、コエタ」

『なんとまぁ……長時間大変でしたね。ハルちゃんも無事なら何よりです』

「あ、シロちゃーん?」


突然スマホを強奪される。


「あ、おい!ハル!」

「ん?あぁ、あれ?ウソウソ、コイツ忘れてただけだから」


なんか、時折ハルがスマホを耳から遠ざけている様子を見るに、怒ってるんだろうなぁ。


「でさ、あの時のこと、色々謝りたいし、ちょっと会えないかな?……うん、うん……おっけー、それじゃ時雨神社でねーまたねー……。

ほい」

「ほいじゃねーよ」


恨み言を一言。元気になったらすぐこれだ。

というか結局僕は、シロさんに何も話せてないじゃないか。

まったく、とため息混じりにスマホをしまう。

途端、ハルが着替え始めた。


「どこか行くのか?それと着替えは向こうでしなさい」

「へいへい。言ったじゃん、時雨神社って」


あぁ、あれ今から行くのか。


「そっか、行ってこい、気を付けてな」


ハルはこっちを見て、何を言っているんだという視線を向ける。


「……なんだよ」

「シロちゃんが、ミナトさんも連れてきてくださいって」


……終わった。

ここはもう腹を括るしかないか。




そして今に至る。


「こんな……水分……いるか……?」

「え?私の分と、シロちゃんの分考えればいるでしょ」


いーや、明らかに過剰だ。

楽しんでやがる。


「私の分まで、背負ってくれるんだよ、ね?」

「そういうことじゃなーい!」


山に僕の悲痛な叫びが響いた。


だいぶ道もなだらかになってきた。

なんとかハルのペースに合わせられるくらいには慣れてきた。

まぁハルが合わせ始めてるのかもしれないが。

それにしても、なんか……


「ねぇ、ミナト」


少し考え込んでいたら、急に声をかけてきた。


「前にもこうして、ハルと一緒に山を登った気がする……なんて、言わないでね」

「……言わないよ」


僕の考えは、なぜか見抜かれていた。

少し心臓の音が早くなるように感じた。




結局あの後、時雨神社で集合してすぐ山を降りることになった。

シロさんは怒ってた。

僕の荷物を見て、反省するといいですって言ってハルの方へスタスタ歩いていってしまった。


「なんか、やっぱりいつもここだなぁ」


いつものあのカフェに来た。


「牡蠣パフェ!牡蠣パフェ!」


ぴょんぴょんと、隣でツインテールが踊ってる。

真っ先にシロさんが店の中に飛び込んでいく。


「前はシロさんとは険悪だったじゃないか。どうして今会おうと思ったんだ?」

「いや、うーん、まぁ。向き合わなきゃいけないなって、思ったからかな」


それに、背負ってくれるみたいだし。

そう言って疑問の残る僕をよそに、店の中へと入っていった。

席につくと、シロさんは牡蠣パフェとオレンジジュースといういつもの注文をしていた。

僕は僕で、牡蠣パフェとコーヒーといういつもの注文だ。


「ハルもどうだ?ここの牡蠣パフェ、絶品なんだ」

「牡蠣……?柿じゃなくて……?」


何を馬鹿なことを言っているんだと、チョコパフェとコーヒーを注文していた。

きっとハルはこうして冒険をすることなく、牡蠣パフェの味を知ることなく、人生を終えるのだろうと思うと少し悲しくなった。


シロさんから順に、注文していたものが届いた。


「やっぱり、ここの牡蠣パフェは絶品ですね!」


オレンジジュースを両手で持ちながら、興奮気味にシロさんが語る。


「だよな、この味を知らないなんて勿体ない……」

「ホントですよ。ほら、ハルちゃん、私の分一口あげます。あ、一口だけですよ?」

「いや、まぁ……うーん……それなら……」


牡蠣パフェの一番堪能できる、最適な比率でハルにスプーンを差し出した。

ハルは少し躊躇した後、食いついた。

訝しげに、ハルは咀嚼している。

首をひねる。

眉間にシワが寄る。

コクン……と喉を鳴らすと、ひとつ頷いた。


何も言わず、自身のチョコパフェにスプーンを突き立て、感想を期待しているシロの前にスプーンを差し出す。


「まったく、やっぱり交換してくれってことですか?仕方ないですねぇ。やっぱり冒険してこそ……」


チョコパフェを一口食べて、シロさんの表情が変わる。

ハルの方を、次に僕の方を、そしてもう一度ハルの方を向く。


「ミナトさん、ごめんなさい!」

「え?」


シロさんはどうやら、チョコパフェの魅力にとりつかれたようだった。

てことはまさか、牡蠣パフェが特別美味しいのではなくて、ここのカフェの商品全部のレベルが高いって……ことか?

カフェのキッチンの方を見る。

おっさんがサムズアップしていた。

僕は僕でぎこちなく、サムズアップを返していた。


ハルとシロさんの楽しそうな笑い声が目の前に広がっていた。

昔じゃ絶対に叶うことのなかった、幸せな景色。

ようやく、手に入れたんだと、僕は2人分の牡蠣パフェを食べながら眺める。


「つれぇよな。失恋はよ」

「えぇ、とても……」


なぜか僕の隣で、カフェの店長が肩を組んできた。

なんだか、今日の牡蠣パフェは少し、塩味が強い気がした。

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